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『私、政治家になりますっ!』 第1話「日本を今一度、洗濯しちゃうぞ」

「私、政治家になります」
あっらーっこりゃ大変なこと言っちゃたぞ。というか言わされたみたいなもんだ。いつもお世話になってた先輩に緊急事態宣言も開けたことだし、お茶かご飯でもごちそうになろうと連絡した。結婚・出産と慌ただしく人生を駆け抜けたこの1年。デキ婚、いやいや今流行りの言葉で言えば『授かり婚』で結婚した私、長餅直紀40歳女子!偉そうにココのところの日本の政治家の腐敗っぷりにイライラがつのり、先輩相手に、ついつい熱弁を奮ってしまったところ
「だったら論文書いて、ウチの新人公募に出してみなよ」
えーっ先輩!ウチって何ですか?
「いや俺、今都議なんだよ。知らなかった?」

通ってしまった。論文通ってしまった。
小学校の頃から、無駄に作文だけには自信があった。小6の課題図書の読書感想文で全国学校図書館協議会長賞なんで大層な賞を取った私に次の日からついたあだ名が『作文の女王』。まさか『日本を変えたい〜40歳主婦の目線で』なんて作文であの<都民が一番>の公認候補になるだなんて、なんだ?この人生ジェットコースターっぷりは。だいたい母親になってまだ半年しか経っていないんだぞ。若いときにはちょっとした美貌でおちゃらけた番組のはしっこで天気予報を読むくらいのタレントだった私。その後、FM局で番組を持つ程度にはなり適度な芸能人として楽しく人生を送って居たけれど、事務所の先輩と付き合ってるうちにうっかり妊娠。でもそれをめっちゃ喜んでくれた彼は今は家事手伝いも完璧な旦那ちゃんになった。
 そして結婚。一気に出産。その間、コロナで世の中は一変!産後復帰どころか、番組までなくなってしまい、まあ40歳のアイドル崩れに大した需要はなく仕方がないといえば仕方がない。いいな男は!旦那ちゃんは歳を取れば取るだけ偉くなって仕事にやりがいが出てるらしけど、40歳になった元アイドルにはまーたく新規の仕事の話なんて来るわけもなく、選ぶ選ばないにも関わらず実質専業主婦。毎日ウンチまみれになりながら、上手く出せるようになったゲップに小さな幸せを感じる毎日を送っていた。

子供を寝かしつけるとやることと言ったら、Huluで韓ドラみるかSNSチェック。Instagramは人生充実女子のきらびやかな投稿に心を乱されるので、もっぱらTwitter民と化す。もちろん殆ど投稿なんてしないで見るオンリー。ロスジェネ世代の女子の悩みを共有しては「そうよねえ」と管を巻く。ほんとは昼ビールとかしたいけど、乳児を抱える身としてはアルコールはご法度。おっぱいにアルコールがまざるらしい。おかげでうちの冷蔵庫はキリンフリーでいっぱいよ。ワハハハ。
で、もうひとつストレス発散になるのが政治ネタ。なんか最近は私のような人間にでも分かりやすい漫画で毎日毎日教えてくれるTwitter投稿とかあったりして本当に面白いのよ。しっかし、モリカケサクラに続いて菅の親子丼?ココに乗ってる話が本当だとしたら世の中腐ってるわよね。ってかバレバレなんだよね。もう誰も国会答弁なんて信じてない。私みたいな一庶民でも「この議員嘘ついてるなあ」と分かっちゃう。ってかみんな賢いんでしょ?もうチョットなんとかできないのと思っちゃう。だれか坂本龍馬みたいな人が現れて「日本を今一度 洗濯いたし申候」なんて言ってくれないかしら。
PCR検査はしねーとか、記憶にございませんとか、7万円の食事覚えてませんとか、ふざけんなっちゅーの!イカン、イカン、熱くなりすぎちゃう。
そんな毎日を送っていた私が、調子に乗ってこの世を憂いておりましたら、前出の先輩青魚さんが「来年の都議選に向けて<都民が一番>では若い女性候補を探してるんだよ。直紀なら清潔感あるし、問題意識もあるならチャンスだよ。絶対次回の都議選はロートル自民には逆風だからさ。新人候補はチャンスだよ。」
先輩、申し訳ないっす。先輩が都議だってこと知ってました。心の奥底で興味あったんです、政治家。私もチャンスだと思ってました!だってもう世の中変わらなきゃいけないでしょ?でもそんな素振りは見せずに聞きました。学生時代に合コンで鍛えた技です。先輩、ごめんなさい。
「政治家ってなれるんですか?ってか、どうやってなるんですか?」
「直紀のその問題意識を論文に書くんだよ。で身上書と一緒に提出。見た目はバッチリ申し分なしだから、イケるんじゃないか?」
またまた、上手く乗せるんだから。見た目が良いってのは美貌っすか?
「推薦状は書いてあげるから、公認とって来年夏に立候補だよ。若くて1児の母で清潔感ある元タレント。最高じゃん」
あの元タレントって、やめたつもりはなかったんですけどね。
「まあ問題は直紀って名前だな。男か女か分からないもんな」
あのー先輩、それ私思春期時代からの悩みなんですよ。

ある日、そんな私にかかってきた一本の電話。
「えっ!公認ですか!私通ったんですか?」
「論文は素晴らしかったです。つきましては面接に来て下さい」
よーし政治家デビューか?
私が日本を今一度、洗濯しちゃうぞ!
どーん!

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