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【特に凄くない人の出版戦略③】「本は誰でも出せる」は、大ウソ。ただし……

【特に凄くない人の出版戦略①】凄い経歴の人は読まないでください。

相談者「ぶ、ブログのアクセスが伸びても、出版の可能性が上がるとは限らない……ですって?」

―― それはそうですよ。同じ読み物でも、ブログは無料で読めるWebコンテンツ、書籍は有料で販売されて手に取って読める商品。大きく性質が違います。

相談者「えっ、失礼な! 僕のブログは、タダじゃないと読まれないなんて!」

―― そもそも、アクセスしてきた人々の99%以上が、お金を払ってまで読むつもりなんか さらさらないと思ってください。

相談者「えっ…… まさか、ショックだなあ」

―― ショックですか? あなただって、パソコンやスマホでタダ読みしているもの、たくさんあるでしょう? 他の人のブログや、ニュース記事ですとか。

相談者「はい、そりゃ読むでしょう」

―― でしょう? あんまり、自分のことを棚に上げちゃいけませんよ。

相談者「えへへ」

―― 裏を返せば、ブログの読者で「このブログの本が出たら、買ってもいいかな」と思ってくれるファンは、全訪問者の1%いれば、相当すごいほうです。

相談者「そ、そんな……」

―― 希望を捨てないでください。出版社の編集者は、充実したブログを書き続けられる人には注目しています。

相談者「えっ?」

―― せっかく出版企画が採用されたのに、本1冊ぶんの原稿を書き切れずに、途中でギブアップしてしまう もったいない著者候補がいます。その点、ブログをある程度書ける人なら、初めての出版でも粘り強く原稿を書いてくれるだろうと、編集者は期待、あるいは安心できます。それに、どんなタイプの文章を書く人なのかも、ブログであらかじめわかります。

相談者「なるほど~。でも、僕のブログを読んでくれる人は、どうせみんなタダ読み目的ですし」

―― いいんですよ。ブログはタダで書いて、タダで読めるのが魅力です。ただ、出版だと そうはいきません。よろしいですか。出版社が出版を決定する最低ラインは、その企画を書籍化したとき、2000~3000部の売上げを見込めそうなこと。つまり、あなたのファンが2000人いればいい。

相談者「2000人のファン……」

―― もし、初版(発売日に売り出す本の部数)が3000部であれば、そのうち約70%が売れれば増刷が検討される傾向があります。だいたい2000部ですね。たとえば、単純計算で、月20万人以上が訪れているブログなら、そのうち1%が買ってくれると出版社を説得して、出版を実現できるかもしれません。自分のブログだけで、1カ月で初版を完売できるなんて、出版社に対する いいアピールになりますね。

相談者「あっ、僕のブログ、たぶん20万PV以上はありますよ。今まで全部合わせたら」

―― PVではありませんよ。それは読まれたページ数でしょう。訪問者の人数のことを申し上げているんです。UV(Unique Visiter)です。

相談者「UV? 赤外線?」

―― それをいうなら紫外線かな?

相談者「えへへ」

  

あなたのブログのアクセス数が少なくても、出版は十分に目指せます。

 

―― それも、20万という数字は今までの累計でなくて、できれば月間で達成していると説得力が高まるでしょうね。

相談者「えっ、1カ月で20万人? そんな人気ブロガーじゃないっすよ! どうせ僕なんか……」

―― いえいえ、ブログに月間20万UVの訪問者がいなくても心配いりませんよ。数ある指標のひとつにすぎません。たとえ、月間1万UVでも、すごく濃いファンが集まっていれば、あるいは読者の深刻な悩みを解消してくれるようなテーマのブログなら、書籍化されたときに かなりの割合で買ってくれそうですね。

相談者「まあ、確かに……」

―― とにかく、どんな方法でも結構ですので、「この本は、数千人の読者が買ってくれる見込みがあります」と、出版社を説得できるデータや魅力を企画書で示すことが大切です。

相談者「難しいですね」

―― 先ほども申し上げましたように、タダ読みのWebコンテンツと、買って読む書籍とでは 性質が違います。読み物として、似て非なるものと言うべきでしょう。とはいえ、ブログと書籍が別物だからこそ、ブログのアクセス数を自慢できない「特に凄くない人」であっても、出版を目指す道が開けてくるのです。

相談者「別物なんですかね……。本とネットは」

―― もちろん、Webと書籍には共通点もあります。しかし、いっそ「別物」だと捉えたほうがシンプルに考えられます。

 

<< Webコンテンツの特徴 >>
■ 基本的に無料で読める。(一部有料)
■ ほとんどが横書き。
■ 電子データなので、物理的な制約がない。⇒ PCやスマホで持ち運んでも重さは感じない。世界中の不特定多数の人々へすぐに届けられる。
■ スマートフォンで、片手でも読める。
■ 内容の自由度が高い。音声や動画も載せられる。文字の大きさやレイアウトを変えられる。
■ 間違いや不適切な内容は、「読者みんなの指摘」により修正される可能性がある。
■ 外国語のコンテンツでも、機械翻訳でどうにか読める。
■ 読者がコメントなどを付けて、著者と直接やりとりする双方向性がある。

<< 書籍の特徴 >>
■ 有料で販売されている。
■ 縦書きが大半だが、横書きも増えている。
■ 紙という物理的な制約がある。⇒ 持ち運ぶと、かさばるし重さも感じる。送付するのも費用がかかる。
■ プレゼントされると、ありがたみや温かさを感じる。著者がサインを入れられる。
■ カバー(装丁)のデザインや質感も楽しめる。
■ 貸し借りによって、深いコミュニケーションを採りやすい。
■ ちょっと知的なインテリアになる。所有している本で、自分の内面や好みをさりげなくアピールできる。
■ 文字以外では、せいぜいイラストや写真を入れられるぐらい。
■ 片手では持ちにくいし、ページをめくるのも難しい。
■ 「出版社の編集者・校正者」などのチェックを通じて、一定の品質が保証されている。
■ 同じ職業や肩書きでも、著書があるかどうかで社会的な信頼度に差が生じる場合がある。
■ ご年配の方々にも親しみがある。親にも理解してもらいやすい。

 

―― このように、Webコンテンツと書籍とでは、特徴にいろんな違いがあるわけです。書籍を読んで気に入って、それから著者のブログの読者になる流れもありうるでしょう。ただ、電車に乗っていると、本を読む人より、スマホをいじっている人のほうを多く見かけませんか。

相談者「はい、僕も電車で移動しているとき、スマホを持っていれば、ネットで暇つぶしにいろいろ読むかもしれません」

―― そうですよね。今注目されている「電子書籍」(e-book)は、Webコンテンツと書籍の中間的な性質を持っているといわれますが、出版をしたいのなら、「このスマホ全盛時代に、なぜ、書籍という形で読んでほしいのか?」を、真剣に考えなければなりません。本は読まないけれど、Webはたくさん読むという人がどんどん増えていますからね。

相談者「本は読まないっすね。カバンに入れたら、ジャマになっちゃうし……」

―― 本を出版したい方が「本がジャマ」と言っちゃうのもどうかと思うけども。

相談者「実際、ジャマでしょう! ミニサイズの本ならいいかも?」

―― 文庫や新書ですね。

相談者「でも、文字ギッシリのやつは、キツいです」

―― そうですね。そう感じるのは、あなただけじゃありません。若い人々にも急増していますし、ご年配の読者も小さい字が読みにくくなっている場合が多いです。

相談者「でも、出版したいなぁ」

――たとえ、Webではそれほど読まれていなくても、書籍に適した企画に仕上げれば、出版することは十分に可能です。ブログ以外でも、書店や直販など、本を売る場はいくつもありますしね。

相談者「直販?」

―― 出版社が公式サイトなどで直接、読者に販売することもあるんです。また、著者がイベントやセミナーなどを開催して、参加者に販売することもできます。

相談者「ふ~ん」

人はなぜ、お金を払って「その本」を買うのか?

  

―― ところであなたは、深田恭子さんの写真集をどこで買うんですか?

相談者「当然、本屋さんです」

―― おお、勇者ですね! 深キョン写真集だけをレジに持っていくんですよね。

相談者「当たり前です。他の本に興味ありません」

―― たとえば、会社帰りに本屋に立ち寄って、写真集をお求めに……?

相談者「そうですね。スーツ姿でビシッとお会計を済ませます」

―― 恥ずかしくないんですか? ネットでも買えるのに。

相談者「恥ずかしいわけないでしょう! 書店でのリアルな『出逢い』を大切にしているんです。まったく、何を言ってるんですか。意味が分からない」

―― 愚問でした。が、世の中には、ネット上にある深キョンの画像を、2~3枚も見てれば十分満足だという人もいるんですよ。

相談者「まさか! し、信じられない……」

―― そもそも、なぜあなたは、深キョン写真集にお金を払うんですか?

相談者「なぜって…… なぜだろう。無性に買いたくなるのです」

―― なぜ、買いたくなるんですか?

相談者「なぜ…… いや、可愛いし」

―― 私も、深キョンは可愛いと思います。それで、なぜ買いたくなるんでしょうね。

相談者「はぁ……? そんなこと聞かれても」

―― 欲求を満たすために買うのではありませんか?

相談者「よ…… 欲求!?」

―― 欲求を満たして、快感を得たいのではありませんか?

相談者「し、失敬なっ! わ、わたくしは、ふ、ふ、深田さんを、そんな汚らわしい目で見たことは断じてないっ!」

―― 欲求といっても、エッチな意味ばかりではありません。マズローの欲求5段階説という、有名な学説があるんですが、ご存知ですか?

相談者「いや、スシローしか知らない……」

―― マズローは、「人間の欲求は、大きく分けて5種類に分けられ、それぞれで優先順位がある」と説きます。人は、生きていくために必須の欲求を真っ先に満たそうとし、満たされたときに そこを土台として、より高次の欲求を満たそうとするそうです。

① 生理的欲求 …… 食べたい。飲みたい。寝たい。排泄したい。性欲を満たしたい。
   ↓
② 安全欲求 …… 危険を避けたい。身の安全を確保したい。平和に暮らしたい。
   ↓
③ 社会的欲求 …… 楽しみたい。感動したい。いい人間関係を構築したい。集団・組織に所属したい。身分を保障されたい。
   ↓
④ 承認欲求 …… 自分の存在を認められたい。褒められたい。尊敬されたい。優れた肩書きや地位が欲しい。
   ↓
⑤ 自己実現欲求 …… 自分なりの理想を実現したい。新しいものを創りたい。挑戦するチャンスが欲しい。好奇心を満たしたい。

―― 人が本を買う目的も、広い意味で 自分の欲求を満たして、快感を得るところにあります。感動的で面白い小説や、趣味を楽しむガイド本、人間関係を円滑に進めるビジネス書で「③社会的欲求」を満たせますし、自己啓発書や起業ノウハウ本などで「④承認欲求」や「⑤自己実現欲求」を満たすわけです。尊敬している著者と自分の意見が同じだったり、いい本を他人に紹介して感謝されたりする体験などでも、きっと承認欲求が満たされるでしょう。

相談者「なるほど~! ①や②を満たす本はないんですか?」

―― ありますよ。『②安全欲求』であれば、たとえば医療や健康系の本、あるいは痴漢撃退マニュアルみたいな類いの本でしょうか。

相談者「そんなものがあるんですね」

―― あなたが深キョン写真集を購入するのは、とりあえず「①生理的欲求」目当てですよね?

相談者「ですよね、じゃなくて……。ぼ、僕だって、写真集を買って深田恭子さんを応援して支えたいし、それにファンイベントで、同志たちと交流したりします。そのとき、写真集という共通の話題で盛り上がれるわけです」

―― なるほど、それはいいコミュニケーションですね! 「③社会的欲求」を満たす目的で 深キョン写真集をお買い求めなのですか。これは、大変失礼致しました。

相談者「まったく、もう」

―― それと、本嫌いのあなたが もし仮に、深キョン写真集以外で奇跡的に本を買ったなら、なぜウッカリ買ってしまったのか、常に自分に問いかけて、理由を考えてみましょう。

相談者「買う予定ないっすね。今のところ」

―― わかりました。本が嫌いな人が出版を目指すというのは、不可能ではありませんが、困難な道のりです。私としても、これからサポートさせていただくにあたって、なかなかのやり甲斐や 歯ごたえを感じています。早くも。

相談者「それはよかったです」

―― できれば、出版を目指していくプロセスの中で、読書にも興味を持っていただきたいですけどね。

相談者「う~ん、どうかな」

―― 出版を目指すことでも『④承認欲求』や『⑤自己実現欲求』は満たせるのでしょう。しかし、隙あらば 著者の武勇伝や自慢話をバンバン差し込んでくるような本は最悪です。情報や書籍そのものが貴重品で、一部の作家が偉そうに振る舞っていた時代の名残でしょう。著者はまず、読者の立場を最優先に考えたいですね。本を通して、読者の何らかの欲求を満たそう、面白いネタで楽しんでもらおう、抱えている悩みが少しでも解決され、喜んでもらおうと努力し、徹底的に考え抜き、そこから企画を立てていく姿勢が重要です。

相談者「そういうもんですか」

―― あなただって、ブログの書き手である以前に、他の人のブログの読者なのです。読者が何を求めているか、本を通して何を得たいのか、その立場を想像しましょう。でも、あなたなら、できると思います。

相談者「マジっすか? なんで?」

―― さっき、おっしゃっていたじゃないですか。読書が嫌いなはずのあなたが、読書を好きな人に配慮しているって。自分とは違う嗜好を持つ人の立場に立てるのは、素晴らしい想像力のたまものです。それさえ使えれば大丈夫ですよ。

相談者「えっ、僕、想像力あるんですかね。なんだか照れるっすよ」

 

本を出せる人の条件

 

―― ところで、相談者のあなた、お名前はあるんでしたっけ?

相談者「僕だって人の子ですよ。そりゃ当然、ありますよ! 宝福 順次といいます」

―― 「ほうふく じゅんじ」さんですか。 報復人事みたいですねえ。

順次「なにしろ、人事コンサルタントを目指してますからね。感謝です!」

―― 別に褒めてないですよ。

順次「いや、褒めてくださいよ~! 褒めて伸びるタイプなんすからぁ」

―― ずいぶん、欲しがり屋さんですね。いい子にしてたら、ご褒美あげましょう。

順次「わ、ワンワン!」

順次「ちょっと! 僕をポメラニアン扱いしないでくださいよ!」

―― あなた、ポメラニアンか~! 相当かわいらしい犬種をチョイスしましたな。

順次「いいんですよ、そんな話! ところで、僕に出版の可能性があるということは、出版なんて誰にでもできることなんでしょうか?」

―― そんなことありませんよ。たまに「本は誰にでも出せます」などと、調子のいいことをセミナーでしゃべっている出版コンサルタントがいますが、あれは大ウソです。

順次「そうなんですか! そんな話を聞いてたら、承認欲求が満たされそう」

―― 騙されちゃいけませんよ。出版は誰にでもできるわけではありませんが、ただし、人生を受け身でなく、前向きにチャレンジし続けている人なら、出版の可能性がかなり高いです。

順次「えっ」

―― 家庭でも、仕事でも、地域社会でも、自分の人生を懸命に生きて、いろんな厳しい課題に向き合い、自分自身でいろんな工夫を重ねながら乗り越えてきたり、自分だけの快適な生き方を模索したり、普通はなかなか味わえない経験をしていたり、他人とは少し違うユニークな視点で世の中を眺めながら情報収集している人なら、本を出せる見込みが十分にあります。たとえ、本を読まなくても。

順次「なんと! ということは、僕のことをそんなに意識が高い人物だと認めてくれたわけですね!」

―― さあ、どうでしょうね。順次さんのような方が書く本を、ちょっとだけ読んでみたくなったのかもしれません。

 

< つづく >

 

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