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桜はきっと知っている。●

心から辛い時に書いたものです。
これは生きるとは、死ぬとはを考えた時に私の中に浮かんだひとつの答えでした。
誰もが自分の気持ちを抱えて生きている、そんな世界の中で誰かひとりでも寄り添ってくれる人が皆に居ますように。



桜が散る様子を見ると、俺は君を思い出す。
世界の誰よりも美しくて、世界の誰よりも綺麗な顔で笑って、世界の誰よりも残酷なことを言う君を思い出すんだ。

『俺ね、死にたいと思いながらポジティブに生きる。が、モットーなんだ!』

唖然とした俺なんか置いていって、スキップしながらそう言う君はどう考えても酷い人間だ。
それなのに今すぐ桜と一緒に散ってしまいそうな君を、俺はこの世の何よりも美しく感じてしまう。

「どうして、そう思うの?」
『んー?どうしてって、分かんないの?』
「君の辞書は学んでないからね」
『ちぇー、視野の狭い辞書だね』

どう聞いても君の言葉は 生きる を楽しんでいるように聞こえる。なのに本心はあんなにも残酷なんだ、理解できるはずがない。
でもどうしても君のことだけは理解したいと、俺は本気でそう思っているんだよ。

「…結局どういう意味なの?」
『どれが?』
「え、いや…割と衝撃的な発言だったけど」
『ん?あー、死にたいと思いながらの話?』
「それ以外どれを聞くんだよ」
『あはは、そっかぁ…衝撃的ね…』

長い睫毛が、大きな目を覆った。
目さえも見れなくなると、ほとんど読めなかった君の感情が一つも読めなくなる。
長い付き合いだというのに、俺は何も分かってやれない。

『あいつがさ、言ってたんだよ』
「何て?」
『俺はみんなを守るために生きてるって』
「…へぇ、あいつそんなこと言ってたんだ」

君とあいつはよく二人だけで心の奥底を話し合ってる。だからいつもあいつには敵わないんだって落胆する。
けど君はあいつに自分の闇までは話せないって言ってたよね。

『それ聞いてさ、まじでかっけぇなって思ったのね』
「うん」
『でも、じゃあ俺は?って考えてもそん時なぁんにも思い浮かばなかったんだ』
「…うん」

それがどうしてあんな残酷な考えになるのか、俺程度の思考力じゃそこには辿り着けないんだろう。
だから結局君に言わせることしか出来ない。

『そんでさ俺考えてたのよ、歩いてる時とか…ご飯食べてる時とか』
「そうなんだね」
『うん。そしたら、仕事の帰りに家の前のコンビニに寄って、出て。んで自動ドア閉まった瞬間に頭に浮かんだの』

『死にたいと思いながら生きる、ってね!』

どうしてそんな酷いことを言ってるのに、満開の笑顔を見せてくるんだろう。
ずっと一緒に居るはずの君が、遠い。

『でもそれじゃつまんないでしょ?だから、ポジティブにってのを足してみた!』
「………うん」
『どう?俺らしくない?』

そんなドヤ顔で聞かれて俺はなんて答えれば良いんだよ。
出来ることなら俺は君とこの世を去る瞬間まで、君の隣に居ようと決めてるんだ。
そんな俺に対して言うことじゃないよ、本当に。

『ねぇ?』
「何」
『いーっぱに隣に居てくれたお前なら知ってると思うけどさ、俺案外寂しがりやなんだよね』
「…うん」
『一人なんて耐えらんないの』

知ってるに決まってる。
何度君が一人だと知った夜に、連絡を待たずに向かったと思ってるんだ。
その度に今にも消えそうな顔で涙を流す君を、ただずっと抱きしめていたと思ってるんだ。

「…知ってるよ」
『だからさ』
「なに?」
『死にたいと思いながらポジティブに生きる俺の隣で、そんな俺を見届けるために生きてよ』
「…」

究極で、自分勝手で、極端で、阿呆らしい願い。
でも俺はそれに、頷く以外の選択肢を持ち合わせてない。

『さっすが俺の親友』
「うん、でしょ?」

どうせ君は本当の最後を俺にも見せる気ないんでしょう?
それならいっそ、その一秒前まで隣にいるから…だからせめてその時まで俺を隣に置いて欲しい。
俺のために生きてなんて贅沢、今後一切望まないからさ。

『うわっ』
「っ、まって」

桜の花びらとともに君の周りを待った風が、そのまま君を攫っていきそうな気がして咄嗟に後ろから抱きしめた。
少しして肩に回した俺の腕に、君が手を乗せた。温かさに悔しいけど安堵してしまう。

『あー、落ち着く』
「…それならずっとこうしてようか」
『それもいいかもなー』
「ならほんとに、」
『でも駄目』
「なんで」
『俺はさ、死にたいんだから』

必死に押さえ込んでたはずの涙が込み上げてくる。
どうしたらこの答えを捻じ曲げられるのか。
そもそも捻じ曲げる、なんて言ってる時点でもう手遅れなのか。


そんな君は、今日もまた俺の前で満開の笑顔を見せる。
あれから君の言葉について話したことはないけど、きっと君の答えは変わってない。
それでも俺は、君の温もりに期待して生きるよ。
桜の木は、何回でも花をつけるんだから。

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