三つ目の話題「夢って何?」
少しずつ前に進んで行く旅路には、色んな人の思いが必ず関わってくる。
私の頭の中のお喋りな男子高校生2人は、今日は夢について語っているようです。
彼らは一体どんな夢にどんな思いを載せているのでしょうか?
「ヨウちゃんごめんねお待たせ」
「大丈夫、もう帰れる?」
「うん。山野先生やっと納得してくれた」
「そっか、良かったな」
俺らの担任である山野先生は凄く生徒思いだ。
だからシロの〝進路希望先〟に納得行かないのは仕方無いと思う。
「結局何て書いたの?」
「……ヨウちゃんと同じ大学」
「変えなかったんだ」
「だって!……ううん、何でもないや」
分かりやすく落ち込んでいるシロ。
こういう時、俺のできることは。
「なぁシロ」
「うん?」
「今日は俺が質問してもいい?」
「うん、なぁに?」
「夢って、何だと思う?」
シロの不安定な心は、言葉にすることによって安定することが多い。
そしてこれは俺とじゃないと成立しない。
今のところは、かもしれないけど。
「夢…か、」
「うん」
「ごめん、ヨウちゃんの答えから聞いてもいいかな?」
「いいよ。」
俺の中の答えはもう出ている。
「夢は〝今〟かな」
「夢は今?」
「そう。今、こうやってシロと帰る今が俺にとっては夢なんだよ」
「……どういうこと?」
「色んなことを経験して、気づいたんだ。今って凄い大事なんだなって」
「今が凄い大事」
「うん。後悔した過去も、色々想像してしまう未来も、それはいつかの俺の今なんだよ」
今日の答えには自信がある。
いつか質問されそうだと思って考えていたのもあるけど、こうやって二人で歩いている時間が俺にとってはかけがえのないものだから。
これは紛れもない俺の夢。
「でもじゃあ、色々想像してしまう未来には夢は無いの?」
「そうだな…無い訳では無いと思うけど、その時の俺が楽しいんだったら何でもいいかな」
「あの大学はどうやって選んだの?」
「今勉強してて楽しいことをもっと詳しく学べると思ったからかな」
「楽しくて、選んだんだ……」
「うん」
シロにとって俺の楽しいに着いてくることが正解なのかは分からない。
それでも俺はシロなりに、今を楽しんでくれたらいいなと思っている。
「俺はさ、その。分かってると思うけど夢が分かんなくて」
「うん」
「でも、ヨウちゃんが居ないのは嫌だった」
「……うん」
「山野先生はさ『あなたは光るものを持ってるのよ』ってずっと言ってたの」
「うん」
「でも俺はさ、それが夢なのか分かんなくて」
シロは幼くして天才と呼ばれた過去を持っている。
本人はそれに縛られるつもりは無いのに、周りはいつまでもあの時のシロを失いたくないらしい。
それが行き過ぎると、あの人たちみたいにシロの心をひどく傷つけてしまう。
「いいんじゃないかな、今のシロの答えがそれなんでしょ?」
「俺の答え、なのかな」
「うん。そうじゃなくなったら、そうじゃないことをしたら良いんだよ」
「その時までヨウちゃんと居るでも良いってこと?」
「うん。今やってて楽しいこと全部一緒にやろうよ」
「…うん!」
俺もシロも、この歳にしてはいろんな経験をしてきた方じゃないかと思う。
人の色んな顔を見てしまった。
それで不安定になったシロも、何故か肩の力が抜けていった俺も、今この時を呼吸しながら生きていることに変わりない。
シロの中で〝死にたい〟が変わりなくても、俺はやっぱり〝生きてほしい〟と願う。
シロの答えに反したことを思ってしまう俺が居ても良いと思う。
…いつか、それを伝えられたらいいな。
~続く~
⇒四つ目の話題「言葉って何?」
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