見出し画像

135:新社会人、虎ノ門、共鳴|OUR DAYS #004

・ながめいづきと、この世で唯一ながめいづきと共鳴する研鑽仲間である「彼」との2人の物語。
・前回。


・大学卒業後、京都への名残惜しさもそこそこに上京した。
・「彼」も同じく就職を機に東京へ越した。

・新卒就活もガチ勢として共に駆け上がった自分たちは、お互い大手の会社へのチケットを片手に新天地へ赴いた。
・2020年、コロナ禍。

***

・完全なる余談だが、新卒就活をメタ読みしすぎた「彼」は先輩方のエントリーシートの内容を綺麗にコラージュし、自分の経験談など全くないキメラESを作って就活に臨んでいた。
・それで名前を聞けばだいたいの人がわかる会社に入ったというのだからたいしたものではある。

・就活終了後、キメラESを印字したTシャツを制作し、それを着て恋人とのデートに出掛けたらさすがに怒られたらしい。

***

・社会人になってから3ヶ月くらいは「彼」とほぼ連絡を取っていなかった。
・疎遠になったというわけではなく、単純に会う理由がなかった。コロナ禍も始まったばかりで、遊ぶのも憚られる情勢だった。

・もともと常に連絡を取り合っていたわけではない。お互い、LINE上で会話を続けるのもどちらかというと苦手な方の人種だった。
・特に連絡など取らずとも、「彼」との友情は永久不滅だった。どちらかがふと声をかければ、自然と遊んでいただろう。

・2020年7月、久しぶりに自分たちは集まった。コロナ禍の第一波が少しだけ落ち着いた頃だった。
・共通の友人と3人で、新橋で落ち合った。全員東京の飲み屋を全く知らなかったので「会社の上司と行ったことがある居酒屋が近くにある」と言う「彼」の先導のもと、少しだけ歩いて虎ノ門の居酒屋で久しぶりに乾杯をした。

・その場が最初の共鳴だった。

***

・前提の共有というか、少しだけその頃の自分について綴る。

・当時はまだ研修中であったにも関わらず、「会社で働く」ということに対して違和感を強く覚えていた。
・知らん奴の作った会社で働くことの意味がわからなかった。特に誰かにそのことを話していたわけでもなく、ただ悶々と一人で悩んでいた。

・noteに移行する前、ローカルでつけていた備忘録を一部抜粋する。

2020年6月19日

こんなものに本腰を入れるまでもないと1人嘯きながら、それは虚栄心を守るための手段に過ぎなかったのだ。

森見登美彦の新釈走れメロスにある山月記に出てきた言葉だ。今の自分にまんま突き刺さった。

上から評価されることが久々で、自分の無能さを実感し、最近自分で自分にとても腹が立っている。無能なのに怠惰な自分は生きている意味があるのだろうか。

研修中の優劣というものは、生まれ持ったものよりも努力や意識で差がつくと思う。
会社のナショナリズムに嫌気が差し(それも言ってしまえば言い訳に過ぎないが)どうも本腰に入れない僕は、同期と上手く馴染めずどんどん住処を失っていっている。

なぜ自分はこうなってしまったのか。それとももともとこんな人間だったのか。

僕の今の人生に果たして意味はあるのか。

iPhoneメモ帳アプリより抜粋

・「会社のナショナリズムに嫌気が差し」という部分をこのメモでは軽く綴っていたが、ここに自分の思考の源泉が詰まっていた。

・会社の執行役員が演説をした時、「やっぱ凄い人は雰囲気あるね」みたいなことを言っていた同期の感情が理解できなかった。別に何の雰囲気も感じず、ただのおじさんがなんか言ってるだけだったのでとても眠かったのを覚えている。
・「俺らは優秀だから他の代との違いを周りに見せつけてやろう」と鼓舞し合う同期たちの輪に入れなかった。楽しそうだな、と斜めな視線でその光景を冷笑的に見ていた。

・知らない人が高度経済成長期に運良く一発当てて大きくできた枠組みの中で、その威を借りて社会のために尽くす道中に“自分という個”はどこで発揮されるのだろうか、と思っていた。
・知らない人の青春の延長線上で自分が今後利用されていくだろうことにムカついていた。

・なお誤解を招きたくないので一言添えるが、同期は本当に良い奴らだったのでそんなニヒルな自分にも手を差し伸べてくれた。結果的に仲良くなれた。
・本当に優秀だったのだろう、特に仲の良かった同期たちは今や全員会社を辞めている。

・とにかく、社会の歯車になることに納得がいってなかった。

***

・話を戻す。
・「彼」と共通の友人と自分という3人は、その時社会人としては初めて集まったので、当然会社はどうだという話になった。
・自分は上述のようなことを考えていたので、大学時代に出会った気心の知れる彼らに対し悩みを吐露しようと思っていた。

・が、「彼」もまた、全く同じようなことを語りだした。
・社会人になってから特に連絡を取っていたわけでもないのに、まるで自分の頭の中をのぞかれていたのかと錯覚するくらい、同じことを喋りだした。

・「彼」はもともと悩むことがあまり多くない、行動力のある人間である。
・自分は周りとのズレに対しくよくよと悩んでいたが、「彼」のそれはもはや悩みというレベルではなく「彼」の中での正論となっていた。
・そして、「彼」の言い草に対し自分もそれが正論だと思っていた。

・虎ノ門の居酒屋を出た後はほろ酔いで芝公園まで歩き、夜空に向かって煌々と輝く東京タワーを見ながら今後を憂いた。
・しかし一緒にいた共通の友人は社会的に真っ当な人間であるので、「彼」とは相容れなかった。

・彼らは口論し、それ以来疎遠となったようである。
・もともと自分をハブとして集まっていた形ではあったので、その場がなくともいずれは疎遠になっていただろう。
・というか、自分がいなければその場もなかっただろう。

・自分はその会を経て、安心感に包まれた。
・自分がおかしいわけではなかった──自分が正しくて、周りがおかしいのだった。

***

・最初の共鳴について綴ったが、この時点ではまだお互いが社会不適合者であることに気づいただけであった。
・この程度であればわざわざnoteに続き物として書かない。

・今後どちらかが死ぬまで続くであろう自分と「彼」の物語の、第一章はもう少しだけ続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?