【短編シナリオ】女子高生が結婚式ごっこする話

登場人物

愛(18)
由紀(18)

○ 高校・教室(夜)
  薄暗い室内、床には女子の制服が脱ぎ散らかっている。
  半裸姿の愛(18)、落ちている服を拾って着ながら、窓の外を見る。
愛「うわ、雨降りそう」
  同じく半裸姿の由紀(18)、下着にブラウスを羽織っただけの格好で、窓際の机の上に腰かけている。
由紀「(俯いて)…」
  愛、由紀のもとまでやって来て、由紀が羽織っているブラウスのボタンを丁寧に止めていく。
愛「降ってくる前に帰ろっか、由紀」
  由紀、愛の手元を見つめている。
由紀「…ねぇ」
愛「?」
由紀「…あのね…(言葉に詰まる)」
愛「どうしたの?」
由紀「…ごめん、なんか…」
  愛、由紀の髪を撫でる。
愛「大丈夫。待ってるよ」
由紀「…愛、あのね」
愛「…?」
由紀「私、卒業したら、留学しようと思うの」
愛「…!」
由紀「この間の三者面談で先生に勧められて、お母さんも乗り気になっちゃって。私、特に行きたい大学もないし、いいかもなって…」
愛「…」
  由紀、荷物を持って立ち上がる。
由紀「…ごめん、帰ろっか」
愛「…由紀」
  由紀の手を握る。
愛「結婚式ごっこ、しない?」
由紀「…」
  愛、教卓の前まで走って、
愛「(教卓を指して)ここに神父様がいて。(座席を指して)ここ、お客さん」
  座席間の通路の一番後ろへ。
愛「ここに、ウェディングロード」
由紀「…ブーケ、どうしよっか」
愛「…ペンの束とかでいいんじゃない?」
  愛、自分の鞄から筆箱を取り出し、その中の色とりどりのペンを取り出す。
  それらを束ねて、由紀が持つ。
由紀「(笑って)安っぽーい」
愛「ベールどうしよう。カーディガンとか?」
  羽織っていたカーディガンを、由紀の頭にのせる。
由紀「(笑って)やだ、静電気ヤバイ! いいよ、なくて」
愛「えー」

    ×    ×    ×

  愛と由紀、手をつないで教卓の前に立っている。由紀、ブーケに見立てたペンの束を、片手に持っている。
愛「…なんか言ってよ」
由紀「えー? …えっと、病める時も、健やかなる時も、喜びの時も、悲しみの時も…(次の句がわからず、言葉に詰まる)」
愛「富める時も、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助けて、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
由紀「誓います」
愛「…誓います。由紀、左手出して」
  由紀、左手を出す。
  愛、由紀が持っているペンの束からペンを一本取り、そのペンで由紀の左手の薬指に指輪状の線を書く。
愛「指輪の代わり」
由紀「(笑う)」
  愛からペンを受け取り、愛の左手の薬指に線を書く。
愛「…ありがとう。…次、どうしよう」
由紀「…誓いのキスじゃん?」
愛「…」
  由紀、愛にキスする。
  沈黙。
由紀「(笑って)なんか言ってよー」
愛「…ごめん」
由紀「あと、ブーケトスか!」
愛「後ろ向きに投げるんだよ」
由紀「せーの!」
  後ろ向きにペンの束を投げる。
  あたりにペンが散らばる。
由紀「(笑って)予想以上に大きい音出た!」
愛「(笑う)」
  笑いやみ、見つめ合う2人。
愛「…雨、降るよ。先に帰りなよ」
由紀「愛は?」
愛「片付けてから帰る。それに、由紀は家、遠いじゃん。私は家、近いから」
由紀「…そっか、ごめんね」
愛「言い出しっぺだもん」
  由紀、荷物を持って扉の方へ。
由紀「…じゃあね」
愛「うん、じゃあね」
  由紀、教室を出る。
  愛、由紀を見送った後、散らばったペンを拾い始める。

○ 屋上(夜)
  由紀がやってくる。
  壁際まで行き、空を見上げる。
由紀「…」
  由紀の目から涙がこぼれてくる。
  涙を拭い、ふと手を見つめる。
  左手の薬指の線が、にじんで消えそうになっている。
由紀「(体を震わせて)…さむっ」
  屋上から出て行く。

○ 教室(夜)
  愛、散らばったペンを拾っている。
愛「…」
  ペンを拾いながら、泣き出す。
  その場に座り込み、ペンを握りしめながら、泣く。

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