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芸人へのガチ恋を拗らせたお笑いファンが自主映画を作った話

2020年。
コロナによる最初の緊急事態宣言が明けて、世が比較的落ち着きを見せていたあの頃。
ただの会社員が恋心のみを原動力に、1本の映画を自主制作した。

この会社員が恋していたのは、未だ世にその名が知れ渡っていないことが不思議でならないほどに漫才が面白い、所謂『地下芸人』のツッコミだった。
それまでこの会社員は芸人のガチ恋ファンというものを、自分には凡そ理解できない異星人のように思っていたが、皮肉にも自分がその異星人へと変貌を遂げていたことにある日ふと気が付いた。

ファンが地下芸人にコンタクトを取る方法など幾らでもある。
SNSでDMを送るもよし。インディーズライブで出待ちするもよし。差し入れの中に連絡先を紛れ込ませるのもよし。
だがこの会社員は、そういったことを一切行わなかったし、できなかった。
それどころか、自分という存在を相手に知られることを、何よりも恐れていた。
そうなるに至ったのは、自分に自信がないとか、気持ち悪がられたくないとか、そんな理由ですらない。
その芸人にとって自分という存在が、単なる客の一人でしかないということに、心底満足していたからだ。

にも関わらず、当人の意志などお構いなしに膨れ上がる恋心を、どうにかして処理せねばならなかった。
その昔、映画の専門学校に通っていた会社員は、今の自分の考えをそのまま映画として記録しようと思い至った。
松本人志が『遺書』を書き綴り、後々になって現状との相違をネタにされるように。
いつかこの恋心を思う存分笑ってやろうと思ったのだ。

2022年現在。
会社員は地元に帰るために退職して無職となり、恋に恋していた地下芸人は未だ世に名前が知れ渡っていない。
映画を作ったことで身勝手にも成仏した恋心は次第に鳴りを潜め、それでも単独ライブがあると聞けば足を運び、舞台上で繰り広げられる漫才にゲラゲラと笑う。
彼は元会社員(現無職)の恋心など何一つ知らないのに、当本人はひとり勝手に「いい恋をしたなあ」などという満足感に浸っている。
そんな独りよがりな無私の愛によって作り上げた映画が、DOKUSO映画館にて配信されました。


https://dokuso.co.jp/introduction/854


私が自主映画を作ろうと思ったきっかけは、知人に誘われて足を運んだ自主映画の上映会でした。
凡そ商業レベルではない粗っぽい作りに、監督が趣味を詰め込んだことが丸わかりのぶっ飛んだシナリオ。
それらを見たとき、これなら自分にもできると思ったと同時に、技術や資金がなくとも作りたいものを作るのに制限をかけることはないんだと思い知らされました。
それは私の愛する地下芸人が、凡そ万人受けしないであろうネタを嬉々としてライブで披露する様に似ています。

この映画も、5年近く映画作りから遠のいていた9割素人が「作りたい」という想いだけで強行した、粗っぽい映画です。
とはいえ粗っぽいのは監督の私のみで、関わってくださったキャストさんやスタッフさんは素晴らしい仕事をしてくれました。
算段の甘い監督に親身になって協力してくれて、改めて感謝の想いで胸がいっぱいです。

ここまで読んでくださってありがとうございました。
是非とも映画を見て頂けると嬉しいです。

最後に。
私が世界一面白いと思ってる漫才師の2人へ。
あなたたちのおかげで、私も何かを作り上げられる人間になれました。
本当にありがとう。
あなたたちの単独ライブのチケットがメルカリで5万で転売されるほど爆売れする未来が訪れますように。

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