20歳の時に書いた拙作極まるシナリオ
当時20歳、ヤンシナに出そうと思って書いたはいいものの、一次も通らなかった拙作シナリオです。
登場人物
樋口千里(21)
周修吾(19)
京谷仁志(21)
和泉由梨子(21)
西宮圭(23)
〇 樋口家・千里の部屋
着替えている、樋口千里(21)。
セーターを着る際に、静電気でチリチリの天パの髪がボサボサになる。
千里M「この世で三番目に、冬場の静電気が嫌いだ」
〇 同・廊下
千里、出かける準備を終え、玄関に向かう前にリビングを覗く。
千里「いってきまーす」
〇 同・リビング
ソファに寝転がっている父、樋口洋一(48)と洗濯物を畳みながらテレビを見ている母、樋口花代(47)。
二人とも、千里と同じ天パである。
花代「行ってらっしゃーい」
テレビでは、ヘアーアイロンの通販番組が放映されており、女性タレントがヘアーアイロンを試している。
タレント「すごーい、ちょっと当てただけなのに、真っ直ぐ!」
〇 同・リビング
千里M「この世で二番目に、無駄に期待を抱かせる通販番組が嫌いだ」
玄関へ。
〇 樋口家前の道
通りに家がぽつぽつと建っているだけの、田舎道。
家を出た千里、駅へ向かっていく。
千里の背後から、回覧板を手にした京谷仁志(21)が声をかける。
仁志「おい、チリチリ!」
千里、立ち止まって仁志を睨む。
千里M「この世で一番、嫌いなものは…」
千里「仁志! その呼び方、やめろって言ってんでしょうが」
仁志、千里に駆け寄り、回覧板を差し出す。
仁志「ほい、回覧板」
千里「見てわかんない? 出かけんの、これから」
仁志「家、すぐそこなんだし、置いて来ればいいじゃん。細かいこと言うなよ」
千里「すぐそこなんだから、うちの人に渡せばいいじゃん。ったく…」
回覧板を受け取る。
仁志「ブツブツうるせーな、チリチリ」
千里、回覧板で仁志の頭を叩く。
仁志「痛てえ!」
千里M「この髪と、この呼び方」
〇 駅・ホーム
千里、電車を待つ列の最後尾に並んでいる。
千里の前に、パーマをかけた髪の男が立っている。
千里、男の頭髪をじっと見つめる。
千里M「天パ、もとい縮毛というのは、遺伝によって起こるとされている。親から子へ、子から孫へ、天パの優性遺伝子は受け継がれていく」
〇 電車内
空いた車内。
座席に座っている千里、電車内の男の頭髪を見る。
猫っ毛、薄毛、パーマ、痛んだ染髪などの男たち。
千里M「私、樋口千里には夢がある。このチリチリ遺伝子を中和する、サラサラの直毛とエンジェルリングを持つ男との間に、ストレートヘアーの子供を作ること」
アナウンス「間もなく、下北沢駅に到着いたします。お出口は左側です」
千里、座席から立ち上がり、扉の前へ。
千里M「生まれてくる子供がサラサラヘアーで女の子だったら、名前は『沙羅』にする。男の子だったら、とりあえず『直』の字は入れる。子供が直毛の相手と孫を設け、それが続けば、この天パ遺伝子は薄れていくはず」
〇 下北沢駅・改札前
千里、改札を抜け、辺りを見回す。
千里M「私は待っている。私だけの救いの天使が、天使の輪を輝かせながらやってくるのを」
和泉由梨子(20)、千里に手を振る。
由梨子「チリちゃん、こっちこっち!」
千里、由梨子に駆け寄る。
千里「チリちゃん言うな! チサトちゃんと呼べ」
由梨子「えー。可愛いのに、チリちゃん。じゃ、行こ」
二人で並んで駅を出ていく。
〇 歩道
千里と由梨子、並んで歩く。
由梨子、携帯電話の地図と辺りを見比べながら歩いている。
由梨子「圭くん、ほんとイケメンだから、期待してていいよー。でも、私のなんだから好きになんないでよ!」
千里「ってか、いつ前の彼氏と別れたのさ」
由梨子「えっとね、二週間前」
千里「手、速っ!」
由梨子「切り替えが早いの」
曲がり角を曲がると、地下への階段の傍らにライブハウスの看板を見つける。
由梨子「あっ、あそこ!」
〇 ライブハウスへの階段
地下から音楽が漏れ聞こえてくる。
千里と由梨子、階段を降りる。
千里「どこでバンドマンなんかと会ったの?」
由梨子「ナンパされて、一緒に飲みに行ったの」
千里「…それ、大丈夫なの?」
由梨子「大丈夫! 今じゃすっかりラブラブだから!」
もぎりの男性スタッフに由里子が二枚のチケットとドリンク代を渡し、半券とドリンク券を受け取ってライブハウス内へ。
〇 ライブハウス
スピーカーから音楽が流れており、ステージ前にちらほらと客がいる。
千里と由梨子、ドリンク引換所で券をビールと交換する。
千里「あんま入ってないね」
由梨子「インディーズだからね」
千里「バンドの名前、なんだっけ?」
由梨子「『玉響ルーメンズ』」
千里「だっさ!」
由梨子「そんなことないよ~」
客電が消え、ステージのライトが照らされる。
由梨子「始まる始まる!」
少ない観客の歓声を浴びて、ドラム担当の若い男、ギターボーカルの西宮圭(23)が出てくる。
由梨子「圭くーん!」
圭、由梨子に向かって手を振る。
千里、ビールを飲みながら、手を振り返す由梨子を見る。
他メンバー二人に少し遅れて、サラサラの黒い長髪のベース、周修吾(19)が出てくる。
千里、ステージに視線を戻すと、修吾に釘付けになる。
ステージ上の修吾は、ベースのストラップを肩にかけ、演奏の合図を待っている。
ライトに照らされて、修吾の黒髪にエンジェルリングができている。
圭「今日は、来てくれてありがとう! 相変わらず客は少ねーけど、最高に楽しませるからな!」
由梨子「圭くん、かっこいいー!」
ドラム担当がドラムスティックを打ち鳴らして合図をし、演奏が始まる。
千里、修吾の揺れる黒髪と、エンジェルリングから目が離せないでいる。
由梨子「ほら、イケメンでしょ!」
千里「…天使」
由梨子「?」
千里「天使が、ようやく私のところに降りてきた!」
由梨子「…ちょっと、圭くんは私のって言ったじゃんー!」
千里、喜びに満ちた顔で、修吾をじっと見つめている。
タイトル 『私の天使(仮)』
〇 チェーン居酒屋・座敷(夜)
座敷席で隣り合って座る由梨子と圭、その向かいに千里が座っている。
三人とも、ビールを飲みつつ、通しの枝豆をつまんでいる。
由梨子「チリちゃんはね、高校の時からの友達なんだよー」
圭「へぇ~。また二人で来てくれな、今度は別の友達も連れて。客少ねーから、一人でも増やしたいんだよ」
千里「はい、また是非」
由梨子「そうそう! チリちゃんは、あのベースの人がお気に入りなんだって!」
千里「(恥ずかしげに)ちょっと、由梨子…!」
圭「あぁ、修吾な。あいつのファン、多いんだよなぁ」
千里「いや、ファンっていうか、音楽のことはよくわからないんで…」
圭の携帯電話からLINEの通知が鳴る。
圭「あ、着いたって」
座敷の外の廊下に顔を出し、修吾を見つけ手招きをする。
圭「修吾! ここ、ここ!」
千里、髪を撫でつけて整える。
修吾がやってきて、靴を脱いで座敷に上がる。
修吾「お疲れ様です」
圭「おせーな、ベース置いてくるのに何分かかってんだよ。(千里の隣の空席を指して)とりあえず、座れよ」
修吾、千里の隣の席に座り、千里は腰をずらして修吾から少し離れる。
千里、修吾のサラサラな髪に見惚れる。
千里M「サラッサラ…! 枝毛一本無いし、しかもツヤツヤ…! 間違いない。この人こそ、私の救いの天使!」
修吾「…ども」
千里「あ…。ライブ、お疲れ様です」
修吾「見てくれたんですか。ありがとうございます」
由梨子、注文パネルを操作しながら、
由梨子「修吾くんはビールでいい?」
修吾「あ、俺飲めないんで。ウーロン茶で」
由梨子「了解~」
圭、由梨子の肩を抱いて、
圭「どうだよ、修吾。俺の女、気が利くだろ」
由梨子「やだ、も~!」
修吾「はぁ、そうですね」
千里、由梨子と圭のカップルを冷めた目で見ている。
圭「チリちゃん、そいつ周修吾。さっきベース弾いてたロン毛。(修吾に向かって)で、由梨子の友達のチリちゃん」
千里「チリじゃなくてチサトです。樋口千里っていいます」
由梨子「千の里って書いて千里!」
修吾「…あ、それで『チリ』なのか」
千里「(ちょっとムッとして)ええ、まあ…。あと、見ての通り、天パなんで…」
修吾、千里の髪に触る。
千里、驚いて後ろにのけぞるが、修吾は構わず髪に触っている。
千里「あの、なにしてるんですか」
修吾「なんだ、ガサガサしてるんですね」
手を離す。
修吾「もっとふわふわしてるのかと思った」
圭「(吹き出す)」
千里「(唖然として言葉が出ない、という感じで)…」
座敷に店員がウーロン茶を持ってやってくる。
店員「ウーロン茶のお客様ー」
修吾「あ、俺です」
千里、店員からウーロン茶を受け取って圭と乾杯する修吾をじっと睨む。
千里M「この野郎、ぶっ殺すぞ…! 人の地雷を躊躇なく踏みやがって…!」
由梨子、千里の様子を見計らったように、
由梨子「チリちゃん、サラダ一緒に食べよ! なにがいい?」
千里「え? あぁ、うん…そうだね…」
由梨子と一緒に注文パネルを覗きつつ、修吾を見る。
居酒屋の仄かな照明に照らされ、エンジェルリングが浮かび上がっている。
千里M「まあいい。そのエンジェルリングに免じて、人間性は大目に見てやる…。テメーなんか、その直毛遺伝子さえ取り込めば用済みだ!」
〇 居酒屋前(夜)
千里と由梨子、居酒屋から出てきて、圭と修吾を待つ。
千里「なに、圭さん家に泊まるの?」
由梨子「そう! お泊りデートなの」
千里「…まあ、いいんじゃない? 楽しめば」
由梨子「チリちゃんも、修吾くん誘ってどっか行かないの?」
千里「いや、会ったばっかだし…」
由梨子「だから?」
千里「だからって、いきなり誘うとか、常識的にアレでしょ…」
由梨子「そんなんだから彼氏できないんだよー」
千里、由梨子の頭をはたく。
由梨子「いたーい! 私、なんも間違ったこと言ってないのに!」
千里「私とあんたは違うの! 顔の出来もキャラも!」
圭と修吾、会計を終えて居酒屋から出てくる。
圭「お待たせー。んじゃ、行こうぜ」
由梨子の肩を抱き、帰路につく。
由梨子「じゃあね、チリちゃん! チリちゃんも頑張ってー」
千里「いや、まあ、じゃあね…」
去って行く二人。
二人を見送った後、千里と修吾の眼が合う。
修吾「この後、どうします?」
千里「え? あー…。その、私、明日の朝、早いんで…」
修吾「じゃあ、駅まで送りますよ」
千里「えっ、いいですよ、別に。近いし」
修吾「そうですか。それじゃあ」
千里に小さく頭を下げて、その場から去って行く。
千里「あ…」
声をかけようとするが、かける言葉が見つからず、黙り込む。
その場に立ち尽くし、去って行く修吾の背中を見つめる。
〇 大学・講義室
講義前、学生達がざわついてる。
千里と由梨子、前の方の席に向かい合って座っている。
由梨子「この、処女!」
千里、キャンパスノートで由梨子の頭をはたく。
千里「(小声で)人前で何てこと言ってんの!」
由梨子「事実じゃん! なんでそこで連絡先の一つも交換しないのかなー。LINEとか、SNSとかは何のためにあるのさ」
千里「いや、いきなりそれはハードルが…」
由梨子「仕方ないなぁ。初心なチリちゃんのために、この由梨子が圭くんから修吾くんの連絡先、聞いといてあげる」
千里「今、はじめて由梨子が頼もしい…。ありがとう、頼むわ…」
講義室に講師が入ってきて、学生達が一斉に席につきはじめる。
由梨子「ま、可愛いブラとパンツ、用意して待っててね」
後ろの方の席に向かう。
千里「うるさい!」
喋るのをやめて、講義の準備を始める。
千里M「…大見得切ったはいいが、直毛遺伝子を持つ子供を生むためには、やらなければならないことがある。さらには、その行為に至るまでが、一番大変なのもわかっている」
講師「はい、では前回出した課題の答案用紙を配りますね。後ろの人、余ったら前に持ってきてください」
答案用紙を配り始め、千里も受け取る。
千里M「その辺が全くのビギナーズラック、っていうか未経験の私に、できるかどうかが不安だが…」
机の下で隠れて携帯電話を取り出し、『男ウケのいい服装』と検索をかけ、画像の載ったページを開く。
様々な服装の画像の中に、ワンピースにカーディガンを羽織った画像があり、その画像を開いて見る。
千里M「この負の系譜を断ち切る為に、やるしかない!」
〇 カフェ・店内
カップルや女性客の多い、お洒落な感じの店内。
窓際の席に、前シーンで見ていた画像に似た格好の千里と、修吾がいる。
千里「なんか、緊張するな…」
修吾「なんでですか?」
千里「こういう店に、男の人と二人って、あんまないから…」
修吾「へー、そんなもんですかね」
千里「はい、まあ…」
沈黙。
千里「…あの、周さんって、おいくつですか?」
修吾「19です」
千里「えっ、じゃあ年下だったんだ!」
修吾「あっ、樋口さん、年上ですか? じゃあ、タメ口でいいですよ」
千里「いや、といっても二つぐらいしか違わないし、そっちもタメ口でどうぞ。全然、気使わなくていいんで」
メニュー表を見ながら、ページをめくろうとする。
修吾「そう? じゃあ、千里さん」
千里、ページをめくろうとしていた手が途中で止まり、修吾を見る。
千里「(照れたように)…あははは」
修吾から目を逸らして、メニュー表で顔を隠す。
修吾「なんか、変なこと言った?」
千里「いやっ! そういうんじゃなくて…。久々に、男の人にちゃんと名前を呼ばれたから…」
メニュー表から、少し顔を出す。
千里「いや、ほら…。昔っから、チリちゃんとかチリチリとか、あだ名でばっか呼ばれてたから!」
修吾「そう呼んだ方がいい?」
千里「いや、それは嫌。その呼び方、嫌いだし」
顔を出して、メニュー表を見て注文を決める。
千里「えっと、修吾くん、どうぞ」
メニュー表を修吾に渡す。
修吾「ありがとう」
メニュー表を見るのに目線を下にした時に、髪が揺れる。
千里「ほんと、綺麗な髪だよね」
修吾「そう? なんか伸ばしてたら客にウケがよかったから、そのままにしてるだけなんだけど」
千里「シャンプーとか何使ってるの?」
修吾「まあ適当に、薬局とかで一番安いやつ」
千里「え…トリートメントとか、コンディショナーとか使ってる?」
修吾「いや、別に」
千里「えっ、何もしてなくて、天然でそれ!?」
修吾「でも、姉ちゃんとかおふくろとかも、こんな感じだから」
千里M「正に天使の遺伝子…!この男とだったらきっと、綺麗な髪の子供が生まれる…!」
〇 駅前(夕)
千里と修吾、並んで駅前へ。
千里「今日はありがとう、楽しかった」
修吾「こっちこそ、奢ってもらっちゃって」
千里「私が予定入れてもらったんだから、それくらいするよ。そんなに高い店でもなかったし」
修吾「いやでも、申し訳ないっつーか…ごちそうさまです」
千里「いえいえ」
修吾、携帯電話を取り出す。
修吾「LINE、やってる? バイト代が入ってからになるけど、次は俺が奢るから」
千里「え!? いいのに、そんな」
修吾「いやいや、どちらにせよ、連絡先は交換しよう。また飯食いに行きたいとき、誘いやすいし」
千里「(照れつつ)…うん、わかった」
携帯電話を出し、修吾のLINEのQRコードを読み取る。
修吾「じゃ、あとでLINEしといて」
千里「うん」
修吾「今日はほんと、ごちそうさま。じゃあ、また今度」
千里「…また、今度ね」
修吾に小さく手を振る。
修吾、手を振り返し、その場を去る。
千里、携帯電話の画面に映る、修吾のLINEのプロフィール画面を見つめる。
〇 樋口家・風呂場
千里、シャワーを浴びて、シャンプーの泡を流している。
顔に張り付いた濡れた髪を掻き上げると、鏡に自分の姿が映っている。
千里、くせのある髪を引っ張り、真っ直ぐの状態にするも、手を離すとくせが戻る。
千里「…」
〇 同・廊下
風呂上がりの千里、髪を拭きながら風呂場から出てくる。
仁志の声「おい、チリチリ!」
千里、振り返る。
〇 同・玄関
廊下続きにある玄関に、袋に入った白菜を持った仁志と、花代がいる。
千里、玄関にやってきて、
千里「なんで仁志がうちにいるのよ」
花代「京谷のおじいさんの畑でとれた白菜、おすそ分けしてくれたのよ」
仁志「もう食いきれないほどあるんだよ。おばさん助けて! 貰ってって!」
花代「じゃあ、ありがたくいただいてくわね~」
仁志から白菜を受け取り、台所へ。
仁志、千里をじっと見ている。
千里「…なに、帰んないの?」
仁志「いや…風呂上りのお前、何つーかさ…」
千里「…なによ」
仁志、吹き出して、
仁志「『チリチリ』ってか、『うねうね』だな!」
千里、持っていたタオルで仁志の頭を思いっきり叩く。
〇 講義室
講師が教卓の前に立ち、講義をしている。
講師「えー、例えばですね。皆さん、電車に乗ったとき、隣の席に人が座ると、なんだか落ち着かなくなって、気を紛らわせるのにスマホを弄ったり、ゲームしたりしますよね」
講師の話の途中、千里の携帯電話の通知が鳴る。
千里「(慌てて)すいません」
千里、携帯電話を見る。
トーク画面には、『バイト代入ったから、今日ヒマだったら飯奢るよ』の文。
講師「これは、自分のパーソナルスペースを侵されたからなんですね」
千里、『了解!』と返す。
〇 同・女子トイレ
千里、トイレの鏡を見ながら、髪にヘアーアイロンをかけている。
隣で化粧をしていた由梨子、千里を見て、
由梨子「デート?」
千里「夜ごはん食べにいくだけ」
由梨子「つまりはデートじゃん」
千里、手を止める。
千里「え、そうなの?」
由梨子「逆にデートを何だと思ってたの?」
千里「いや…映画館に行ったり、公園を散歩したりとか」
由梨子「可愛いー! チリちゃん、超純情ー!」
千里、ヘアーアイロンを振り上げ、由梨子は頭を化粧品ポーチで庇う。
由梨子「それはナシ、それは痛い! ってか熱い!」
千里「さすがにこれでは殴らないっつーの」
振り上げた手を降ろし、アイロンがけを再開する。
〇 駅前ロータリー(夜)
千里、時折携帯電話をチェックしながら、修吾を待っている。
バイクに乗った修吾がやってきて、千里の前で止まる。
修吾「ごめん、遅れた」
千里「いいよ、そんな待ってないし」
修吾、後ろの座席部分にしまわれていたヘルメットを千里に差し出す。
修吾「じゃ、乗って」
千里、躊躇いながらヘルメットを受け取る。
千里「…被らなきゃダメ?」
修吾「別にいいけど、風で髪が物凄いことになると思うけど」
千里「…それじゃあ被る…」
髪が崩れないよう、そーっとヘルメットを被る。
千里がバイクの後ろに乗ると、すぐに発車する。
千里「きゃあっ!」
〇 道路(夜)
修吾、度々車線を変更して車を追い越しながら、バイクを走らせている。
千里、修吾の身体に必死にしがみついている。
千里「待って、タンマ! 怖い、っていうか速い!」
修吾「痛いって。力強いよ、千里さん」
千里「スピード落として! 安全運転ー!」
〇 駐車場(夜)
修吾、バイクを止め、降りる。
千里、足がすくんでしまい、修吾の手を借りてバイクから降りる。
修吾「酔った?」
千里「怖かった…」
修吾「そう? 次は気を付ける。じゃあ、行こう」
ヘルメットを外して、ハンドルに引っ掛ける。
千里、ヘルメットをそっと外すが、静電気が発生して髪がボサボサになる。
修吾、ヘルメットを受け取り、千里の髪を見て笑う。
修吾「すげー髪」
千里「(ムッとして)…」
修吾に背中を向け、髪を直す。
修吾、ヘルメットを座席下にしまった後、千里の髪を撫でつける。
千里「?」
振り返ると、すぐそこに修吾の顔がある。
修吾「めっちゃ、バチバチいってんね」
千里、照れ臭さのあまり、修吾から離れる。
千里「(しどろもどろに)お腹空いたね! ご飯、行こ!」
修吾「うん。(道を指して)こっち」
先に店に向かう修吾の後を、千里が付いていく。
千里M「…なんなんだ、この男は」
〇 イタリアンレストラン・店内(夜)
こじんまりとした店内に、何人か客がいる。
店の奥の方の席で、千里と修吾がパスタを食べている。
千里M「時々、本気でムカつくし、ぶん殴ってやろうかと思うんだけど…」
× × ×
修吾、会計を終え、千里と二人で店を出る。
〇 レストラン前(夜)
千里、店から歩道に出ようとした瞬間、後ろから修吾に手を引かれて止められる。
すぐさま千里のすぐ前を、自転車が横切る。
千里が振り返ると、なんてことのない表情の修吾。
千里M「時々、なんか胸がぐってなるようなことを、なんてこともないっていう風にしてくる」
〇 駐車場(夜)
修吾、バイクのエンジンを入れる。
千里、髪を撫でつけ、ヘルメットを手に取るが、修吾はバイクを押して歩いていく。
修吾、途中で振り向いて千里に手招きする。
千里、修吾に駆け寄ってヘルメットを返し、バイクを押す修吾と並んで歩いて帰路につく。
千里M「結局、ムカついたことも忘れて、また会いたいなんて思ってしまう」
〇 大学・カフェテリア
千里と由梨子、向かい合って昼食の天ぷらそばを食べ終わろうとしている。
千里「いや、単に私が男慣れしてないだけとは思うけど!」
由梨子「(ニヤニヤ笑って)恋しちゃってんね~、チリちゃん」
千里、由梨子から顔を逸らす。
千里「うるさいなー! 笑いなさいよ、チョロくて滑稽な私を!」
由梨子「そんなことないよ、それは期待しててもいいと思うよ?」
千里、由梨子に向き直る。
千里「ほんと?」
由梨子「うん。向こうもチリちゃんに気があるんじゃない?」
千里「いや、それはないわ。ないない」
由梨子「もー。チリちゃん、なんでそんなに卑屈なの? もっと自己評価高くてもいいのに」
千里「あんたが無駄に高いの。私は普通」
そばを食べ終え、トレーを持って返却口へ。
由梨子「チリちゃんは明らかに、平均より下でしょ!」
〇 居酒屋・店内(夜)
狭い店内、カウンター席に千里と修吾が座って焼き鳥をつまみに飲んでおり、修吾は長い髪を後ろで束ねている。
千里はビールを飲んで酔っぱらっており、空いた小瓶が3本ほどカウンターに置いてある。
千里「(呂律が回ってない状態で)バンドの曲はよかったけど、あのボーカルは嫌いだったよ! なんかやたらに偉そうだし、由梨子はほんとに男を見る目がない!」
修吾「言うねぇ、千里さん」
千里「あとバンド名がダサい! 誰よ、あんなセンスない名前つけたの?」
修吾「圭さん」
千里「だと思ったー!」
修吾、ビールを飲んでいる千里を見て笑っている。
千里、ふと修吾の髪をじっと見る。
すると、修吾の束ねている髪をほどく。
修吾、千里の行動に驚く。
修吾「なに?」
千里「やっぱり、天使みたいな綺麗な髪だよねぇ…」
修吾の髪を撫でたり、手で梳いたりする。
千里「子供は、こういう髪の子に産んであげたいなぁ」
修吾「なんで?」
千里「だって、私みたいな髪じゃ、可哀想じゃん」
瓶ビールの中身を全て空のグラスに注いで、飲む。
千里「男子から『チリチリ』とか呼ばれてからかわれたり、女子は『やめなよ~』とか言っておきながら笑ってたり…。中学上がった時、小学校が別だった知らない奴からも『よう、チリチリ!』とか言われたり…。なんか思い出したらムカついてきた…」
グラスのビールを一気飲みする。
千里「(店員にむかって)すいません、ビールもう一本!」
修吾「そんなに飲んで大丈夫?」
千里「へーき、へーき! (店員に向かって)あと、ねぎま一本くださーい!」
〇 居酒屋前(夜)
千里と修吾、居酒屋から出てくる。
店員の声「ありがとうございましたー」
千里、何もないところでつまずく。
修吾「やっぱり、飲みすぎじゃん」
千里「だって、ビールと焼き鳥が美味しいんだもん」
修吾「なにが『もん』だよ」
千里、ふらつきながら歩く。
修吾「真っ直ぐ歩けてないよ」
千里「真っ直ぐ歩いてるよー」
修吾「歩けてないって」
ふらついている千里の手を握る。
千里「(驚いて)なに?」
修吾「牽引」
千里「なにそれ」
修吾に手を引かれながら歩く。
修吾「…俺ん家、ここから近いんだけど」
千里「へぇー」
修吾「酔い、覚ましてく?」
千里、足を止め、硬直する。
修吾「水くらいだったら、出せるよ」
千里「(何と言うべきか戸惑っている)」
沈黙が走る。
千里、修吾の手を振りほどく。
千里「…明日、朝早いから! 帰る!」
修吾「…そう、じゃあ駅まで送るよ」
千里「平気、近いし! じゃあね、またご飯行こう!」
千里、少しふらつきながらも、速足で歩き出す。
修吾「大丈夫?」
千里「大丈夫!」
どんどん速足で遠くへ。
〇 電車内(夜)
乗客の少ない、座席がちらほらと空いている車内。
千里、扉近くの手すりに捕まって、その場にしゃがみこんでいる。
千里「(大きくため息)」
〇 大学・講義室(フラッシュバック)
由梨子「この、処女!」
〇 電車内(夜)
千里「由梨子は正しいよ、ほんと…」
電車が止まり、千里側の扉が開く。
仁志が電車に乗ってきて、入口の千里に気付く。
仁志「あれ? チリチリじゃん」
千里、顔を上げる。
仁志「何やってんだよ。席空いてんじゃん」
千里「だから何なのよ…」
仁志「いや、座れよ。なんなのお前、酔ってんの?」
千里「酔ってたら何なのよ…」
仁志「めんどくせー奴だな! ほら、転ぶぞ」
扉が閉まり、電車が発車すると仁志が転びそうになる。
仁志「うわっ」
〇 駅前の道(夜)
千里、仁志に肩を借りて歩いている。
仁志「大丈夫か? 死にそうな顔してるぞ、お前」
千里「(力ない声で)死んだら、由梨子に生まれ変わりたい…」
仁志「飲みすぎだろ…。飲む量考えろよ」
〇 駅前のバス停(夜)
仁志、千里をバス停のベンチに座らせ、携帯電話を取り出して電話をする。
仁志「あ、じいちゃん? 俺だけど、駅着いたから迎え来てくれ。あ、千里もいるから、軽トラじゃなくてワゴンの方で来てくんない? …おう、ありがとー」
電話を切り、千里の隣に座る。
仁志「茶、あんぞ。飲むか?」
千里「いらない…。ありがと、タクシー代が浮いた…」
辺りに人気は無く、車の音が時折聞こえてくる。
仁志「…っつーか、誰と飲んできたの。由梨子とかいう子?」
千里「違う、天使と…」
仁志「はあ? なんじゃそりゃ」
千里「エンジェルリングの綺麗な天使がいるの」
仁志「訳わかんねーけど…。…もしかして、男と飲んだとかか?」
千里「そうだけど」
仁志「…へー」
沈黙。
仁志「…あのさぁ。俺、おまえのこと『チリチリ』っつっていじめてたじゃん。小学校の時とか、中学校の時とかさ」
千里「ぶん殴んぞ」
仁志「話は最後まで聞けよ! お前今こそ、そういうノリだけど、昔は泣いたりしてたろ」
千里「それがなによ」
仁志「俺、お前のこと好きだったんだよ」
千里、驚いて仁志を見る。
仁志「(照れ臭そうに)あれだよ、ほら! 構ってほしくて、ってやつだよ。ガキだったから、そんなことしかできなかったんだよ」
千里「…」
仁志「だから、その…。悪かったよ、昔は…」
千里「…」
〇 中学校・教室(回想)
黒板前にテレビが置いてあり、性教育のビデオを生徒達に見せている。
中学生の千里(13)、退屈そうにビデオを見ている。
千里の前の席に座る中学生の仁志(13)、千里に振り返って、
仁志「おい、チリチリ! お前は子供作んなよ、子供に天パが遺伝したら可哀想だろ!」
周りの男子生徒が笑う。
千里、傷ついた表情。
〇 駅前のバス停(夜・回想明け)
仁志「おい、千里?」
黙っている千里の顔を覗く。
千里、持っている鞄で仁志を殴る。
仁志「痛てっ!」
千里、立ち上がってもう一発殴る。
千里「なめんな!」
仁志「え?」
千里「私の子供を、可哀想な子供になんかさせない!」
仁志を置いて駅へ。
仁志「おい、どこ行くんだよ!?」
千里、駅のホームへのエスカレーターに乗る。
取り残された仁志のもとに、仁志の祖父が乗ったワゴン車が迎えにやってくる。
仁志の祖父「おい、仁志! 千里ちゃんはどうした?」
仁志「…」
〇 賃貸アパート・外観(夜)
〇 修吾の部屋・ロフト下(夜)
レコードやCD、音楽雑誌の入った棚や、ベースが置いてある、ロフト付きのワンルーム。
ローテーブルを前に座っている千里に、修吾が水を出す。
千里、水を飲む。
修吾「別れてから、2時間ぐらい経ってるんだけど」
ローテーブルを挟んで千里の前に座る。
千里「気が変わったの」
修吾「…終電、もうないんだけど」
千里「始発で帰るからいいの!」
修吾「…明日、朝早いんじゃないの」
千里「別に対して早くないからいいの!」
修吾「…まあ、別にいいけど」
千里、残りの水を飲み干す。
千里「…お風呂、貸して!」
修吾「…千里さん、なんか変だよ。どうかした?」
千里「どうもしない!」
修吾「…玄関入ってすぐ左のとこ」
千里立ち上がってユニットバスルームへ。
修吾、不思議そうに千里を見ている。
〇 同・ユニットバス(夜)
千里、空の浴槽に入り、頭からシャワーを浴びている。
くせのある髪を引っ張って、真っ直ぐの状態にする。
千里「…」
手を離すと、くせ毛が元に戻る。
シャワーを止め、深呼吸する。
〇 同・ロフト(夜)
一組の布団が敷かれているロフト。
千里、裸にバスタオルを巻いた姿で、布団の上に正座している。
その向かいに、部屋着の修吾が座っている。
千里、険しい顔つき。
修吾「…なんか、出陣前の武士みたいな顔してるけど」
千里「(緊張で口がきけない)」
修吾「別に、無理矢理しようって訳じゃないし、布団貸すから寝れば?」
千里「(緊張しながら)覚悟は決めたから…! どこからでも、かかってどうぞ…!」
修吾「試合じゃないんだから…」
千里の手を握って、軽く揉む。
修吾「いいの?」
千里「(頷く)」
修吾「怖かったら、目瞑ってていいよ」
千里、目を瞑る。
千里「余計怖い…!」
修吾「(笑って)めんどくさい人だな」
千里「うるさい!」
修吾、千里にキスする。
そのまま布団の上に横になって、重なり合う。
修吾、キスしながらバスタオルを剥がし、胸を揉む。
千里「それやめて! 気持ち悪い!」
修吾「…じゃあ、こっち先にする?」
千里の女性器に手を這わせる。
千里「うぎゃあっ」
修吾の腕を掴む。
修吾「千里さん、力抜いて」
千里にキスして、片手で千里の手を押さえながら女性器を弄る。
千里、羞恥のあまり目が泳いで、顔を修吾から背ける。
修吾「指、入れるよ」
千里「待って! 一回待って! (深呼吸)…よし、どうぞ…!」
修吾、女性器に指を入れる。
千里「…いったぁー!」
千里、痛みで一瞬硬直し、暴れる。
千里「痛い痛い痛い! 待って、タンマ! 痛い、マジで痛い!」
修吾「ちょっと我慢して、そのうち良くなるから」
千里の手を押さえていた修吾の手から逃れ、拳で修吾をめちゃくちゃに叩く。
千里「痛いーっ! 痛いっつーの! 抜いて! 抜け!」
修吾「(慌てて)千里さん、声でかいって…。(殴られて)いたっ」
千里、片手で修吾を殴りつつ、修吾の髪を引っ張る。
千里「痛てえっつってんだろ! ぶっ殺すぞ、てめぇ! 抜けっつーの!」
修吾「痛たたたた!」
急いで指を抜く。
修吾「抜いたよ、抜いたから! 髪はやめて、マジで! もう抜いたって!」
× × ×
千里が暴れたせいで、敷布団のシーツがグシャグシャになっている。
〇 同・ロフト下(夜)
修吾、千里に叩かれて赤くなっているところに湿布を貼る。
修吾「初めてだっていうのは前にもいたけど、あんなに痛がってなかったよ」
〇 同・ロフト(夜)
千里、身体に掛布団を巻き付けて、ロフトの隅で縮こまっている。
千里「私だってびっくりしてるよ…。針を何本も刺されたみたいだった…」
修吾、水を持ってロフトに上がってくきて、千里に渡す。
修吾「俺も痛かったんだけど」
千里「すみませんでした…。御髪を引っ張ったりして…」
水を飲む。
修吾、敷布団の上に座る。
修吾「…なんで、そんな急に気が変わったの?」
千里「…」
修吾「俺、そんなにがっついてないと思うんだけど」
千里「別に…。ただ、ヤケになったというか…」
修吾「ヤケ?」
千里「修吾くんとの間に子供が欲しかったの!」
修吾「…え、重っ」
千里、慌てて立ち上がる。
千里「違う違う!」
身体に巻き付けてた布団が落ちそうになり、慌てて再び座り込む。
千里「そういうんじゃなくて! …修吾くんとの間に出来た子供なら、天パには生まれないだろうなって思ったの」
修吾「…なんで?」
千里「ほら、髪質は遺伝によるものだから…」
修吾「あ、そういうことか。そんなに、天パが嫌?」
千里「嫌っていうか、可哀想じゃん。子供が」
修吾「…別に、その子が幸せなら、髪なんてなんだっていいんじゃないの?」
千里「…」
修吾、千里の隣に移動する。
修吾「まだ生まれてない子供のこと考えるとか、千里さんは案外、理想主義だね」
千里「…すみませんね、理想主義で」
修吾「別に悪くないけど。ただ、指入れただけであんなに痛がってんのに、そんな先のこと考えても」
千里「だからすみませんでしたー!」
頭から掛布団を被って、修吾から隠れる。
修吾、千里の様子に笑って、ロフト下へ降りる。
〇 同・ロフト下(夜)
修吾、洋服ダンスを探る。
千里、ロフトから顔を出して下を覗く。
千里「…私のこと、嫌いになった?」
修吾「まあ、萎えはしたけど、嫌いにはなってないよ」
千里「うっ…申し訳ありませんでした…」
修吾「嫌いになってないって」
上下のスウェットを取り出し、ロフトの千里に投げる。
修吾「それ来て、布団使ってていいよ。明日の朝飯、買ってくる」
財布と携帯電話を手に取って、部屋を出て買い物へ。
〇 同・ロフト(夜)
千里、修吾を見送り、スウェットの上着を着る。
ぶかぶかのスウェットの余った袖を見て、照れ臭くて壁に頭をこつんとぶつける。
千里M「あそこの針刺すような痛みを思い出したら、なんだか色々なことが馬鹿馬鹿しくなってしまった」
〇 京谷家・リビング
仁志、こたつに入って鳴らない携帯電話をじっと見ている。
チャイム音。
仁志の母の声「はーい」
台所にいた仁志の母、玄関へ。
仁志の母の声「仁志、千里ちゃんが用があるんですってー」
仁志「えっ!?」
慌てて立ち上がり、玄関へ。
〇 同・玄関
仁志、慌てて玄関へやってくる。
玄関には仁志の母と、朝帰りの千里がいる。
千里、仁志に向かって小さく手を振る。
千里「…おはよう」
仁志「電話出ろよ! LINEもしたろ!」
千里「充電切れちゃったんだもん」
仁志「『もん』じゃねーよ!」
〇 同・庭
よく手入れされた庭の、蕾がついている梅の木の傍に、千里と仁志が向かい合って立っている。
千里「昨日はごめん、完全に酔っぱらってて」
仁志「あの後、夜中だってのに、じいちゃんに説教されたんだからな!『女の子は大事に扱え!』って」
千里「だからごめんってば」
仁志「…昨日、俺が言ったこと、覚えてるよな」
千里、小さく頷く。
仁志「…お前は、俺のことはどう思ってた?」
千里「ぶん殴りたいって思ってた」
仁志「なんだよそれ! この暴力天パ!」
千里、仁志の頭をはたく。
仁志「実行してんじゃねーか!」
千里「あははは。…まあ、あんたと私は、こういう関係だよね」
仁志「…そうだよなぁ」
溜息を吐いて、千里の頭をグシャグシャと撫でまわす。
千里、嫌がって仁志の手を跳ね除ける。
千里「なにすんのよ!」
仁志「相変わらず、ゴワゴワだな」
千里「またぶん殴ってほしいなら、そう言いなさいよ」
仁志「やめろっつーの! …俺は寝る。じいちゃんの説教のせいで、ろくに寝てねーんだよ」
欠伸をしながら玄関へ。
千里「…仁志」
仁志、振り返る。
千里「私に子供が生まれたら、あんたに見せてあげるね」
仁志「まだ彼氏もいないくせに、何言ってんだよ」
千里「うるさい! 今に見てろ!」
仁志、家の中に戻り、玄関扉を閉める。
千里、扉が閉まったのを見ると、庭を出て帰路につく。
〇 同・玄関
仁志、靴も脱がないまま、フローリングにうつぶせに横たわる。
居間から出てきた仁志の祖父、仁志を見つけて驚く。
仁志の祖父「何やってんだお前、死んでんのか?」
仁志「俺、ここで寝る…」
仁志の祖父「自分の部屋で寝ろ、邪魔くせえ!」
〇 大学・廊下
千里と由梨子、並んで歩いて来る。
由梨子「えーっ、今日はお迎え付きなんだ! バカップル~」
千里「誰がバカップルだっつーの…! あんただって、前に圭さんが大学まで迎えに来てたじゃん」
由梨子「あ、圭くんね。もう別れた」
千里「えっ、いつの間に?」
由梨子「バンドやめて、動画サイトで稼ぎたいらしくてさ。なんか馬鹿馬鹿しくなって別れた」
千里「くだらねー…」
〇 同・校舎入り口前
千里と由梨子が校舎から出てくる。
由梨子、辺りをキョロキョロ見回して、
由梨子「どこどこ? 修吾くん、どこにいんの?」
千里、携帯電話の画面を見ながら、
千里「もう着いてるらしいんだけど」
由梨子「ま、あの髪だったら目立つし、すぐにわかるよね」
千里と由梨子、修吾を探しながら歩く。
ベンチに坊主頭の男が座っており、そのすぐ脇を二人が通る。
その坊主頭は、修吾である。
修吾「あ、千里さん」
千里、振り返って修吾の坊主頭に驚く。
千里「!?」
由梨子、遅れて振り返る。
由梨子「えっ、誰?」
修吾、立ち上がって二人のもとへ駆け寄る。
修吾「あ、圭さんの彼女さん。元ベースの修吾です」
由梨子「えっ!? 修吾くん!?」
千里、駆け寄ってきた修吾の頭を、両手で挟んで掴む。
千里「なにこれ!?」
修吾「見ての通り、坊主」
千里「あの完璧なエンジェルリングが…!」
頭を抱えてしゃがみ込み、嘆く。
由梨子、修吾の坊主頭をじろじろと見る。
由梨子「うっわー、綺麗な坊主! でも、なんで髪切っちゃったの?」
修吾「髪が長いと、引っ張られた時に痛いんで」
千里「私のせい!?」
修吾「いやいや、冗談冗談。新しく入ったバンド、全員坊主ってのがウリでさ」
由梨子「えー、なにそれ見たい! ライブ呼んでね!」
修吾「結構いい感じなんで、期待しててくださいね」
由梨子「うん! じゃ、チリちゃん、頑張って~」
千里と修吾に向かって手を振り、去って行く。
千里、しばらく放心状態だったが、修吾に手を引かれて立ち上がる。
修吾「坊主、嫌いだった?」
千里「いや、ショックが大きかっただけ…。だってあの天使の輪が…」
修吾「結構気に入ってんだけど。楽だし」
千里「…まあ、髪が無くなっても髪質は変わらないし…。うん、よしとしよう」
修吾「まだ未来の子供のこと考えてんの?」
千里「そりゃ、今までそのことばっか考えてたんだから」
修吾の頭をぺちぺちと叩く。
千里「…なんか、冷静に見てみたら…。(噴き出す)めっちゃ笑える…!」
修吾「ヒロトみたいでかっこいいじゃん」
坊主頭を摩る。
千里「誰それ」
修吾「ブルーハーツのボーカル」
千里「あぁ、リンダリンダの人ね!」
修吾「ま、いいや。行こう」
千里に手を差し出す。
千里「(恥ずかしそうに)うっ…」
修吾「なに、まだ恥ずかしいの」
千里「こっちはあんたと違って慣れてないの!」
修吾「まるで人が慣れきってるみたいに…」
千里、修吾の手を取る。
千里「…指、硬い」
修吾「ベーシストだからね」
二人で手を繋いで、並んで歩いていく。
千里「…今回は、ちょっとはマシになってると思うから」
修吾「なにが?」
千里「…言わない!」
修吾「なんで? なにがマシになったって?」
千里「だから言わない!」
修吾「…あ、もしかして、自分の指で試した?」
千里「言わないっつってんでしょうが!」
握っていた手を離し、修吾の坊主頭をはたく。
修吾「痛てっ」
千里、痛がる修吾を置いて、速足で歩いていく。
修吾「今、髪ないんだから、頭は勘弁して…」
駆け足で千里に追いつき、再び手を繋ぐ。
千里、修吾の手を握り返す。
千里M「いつか生まれる予定の娘の沙羅、もしくは直の字が入る予定の息子。君たちを産めるのは、まだまだ先になりそうです。今の私じゃ、これが精一杯なんだよ!」
END
反省点としては、モノローグ使い過ぎ、起承転結しょうもなさすぎ、登場人物が少女漫画の上澄みだけすくって更に薄めたみたいな男女像すぎ、などなど。
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