「日本の分断」 三浦瑠璃 感想

この本は面白い。

三浦瑠璃は、いつも通り冴えている。

豊富な知識をつなげて、新たな着眼点、新たな表現で、興味深く、示唆に富む内容。

迂闊に読み飛ばすことを許さない博士的な文章が難点。

戻りながら読んで、3回目にようやくわかるケースも多々あるのは、私の弱い短期記憶が影響しているのかもしれないが、複雑な内容を正しく伝えるための技術かもしれない。

前半で、値観調査のデータを利用して以下の点を論証している。
① 日本の選挙においては、米国のような社会軸・経済軸上の「価値観」の違いにより投票されているわけではない点
② 日本の投票行動を決めるのは、外交安保に関する価値観の相違である点

この時点で、私なんかは「ほほう」となる。
これは政治学では一般的な知見なのかな?素人の私にとっては新鮮。

ここから導き出される結論として、「政権交代を実現」していくためには、「外交安保リアリズムをとる人が国民の多数を占めるため、」「価値観を外交安保で中道リアリズム寄りに振ったうえで使える戦略を全て動員するしかないのだ。」

賛成である。そうあって欲しい。

本書の前半でかなりのボリュームを割いている。
日米における価値観サーベイ。

私はちょっと表にしてみた。

画像1

比べてみると米国はリベラルが非常に多く、リバタリアンが日本に多く、米国に少ないのが驚き。

私は、同書の中の自己診断ではリバタリアン。
診断するまでもなく自覚ありましたが、自分の立ち位置の再確認は、
本書の楽しみのひとつです。

著者もリバタリアンの一人である。
彼女の本が出ると手に取ってしまう理由かもしれない。
そして、自信を深めて、リバタリアンの度合いを深めてしまう。
・・・これは社会生活上、問題もあろう。

4章の「本音と建前」の分析手法は、
商売人の一人として覚えておきたい内容。
意思決定の分析方法としては、メモ。
(=本音の分析に相関係数を利用するという点)

6章のグローバル化と保革の分断のストーリー(欧米編)は面白かった。 
右派ポピュリズムと左派ポピュリズム台頭の背景・相互作用。
欧米での現在の政治状況を上手く説明している。

7章が日本の分断。いよいよ本論。
日本には、海外におけるポピュリズムの台頭が起きていない。良くも悪くも自民の安定政権。

筆者は、
「憲法と同盟をめぐって左右が対立してきた結果、経済思想をめぐる対立軸が機能しないという副作用と、それゆえの適度な分配という副産物が生まれた。」

つまり、日本には、欧米のような分断はない。ということ。
それゆえのコストもある。

「複数の政党が、複数のイデオロギーや価値観に基づく政治を展開することは、万人の番員に対する闘争や破壊的衝動から社会を守る効果がある。その効用は、異なる価値観を持つ人々に対して一貫性のある政策思想に基づく複数の選択肢を提供することで達成される。」

「政治による分断は、それが内戦ではなくゲームにとどまる限りにおいて存在意義を見直すべきではないだろうか。」

「あらためて健全な分断とは何かを考えなければならない。分断を厭うのではなく、分断の中身を見極め、そして将来における文壇の在り方を考えることが必要なのである。」

要するにもう少し健全な形で分断を作った方が良いというのである! 

全く賛成だ。

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