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必見☆『カーラ/黒い砦の闘い』

 ラジニカーント主演映画『KAALA』。
本国インドで“Super Star Rajni”と呼ばれるラジニカーントは、かつて『ムトゥ 踊るマハラジャ』(98年日本公開)で我が国に一大旋風を巻き起こし、いわゆる「インド映画」を巷間に知らしめた。
その彼を主役に、Pa.ランジット監督(被抑圧階層出身)がメガホンを取った本作は、アクション映画仕立ての中にカースト問題、経済格差、宗教の欺瞞などを見事に織り込んだ必見作。舞台となるムンバイのダラヴィ地区は「アジア最大のスラム街」とも云われ、そこには改宗仏教徒の居住エリアも在って、私も数年前に訪れたことがある。
今回、東京都荒川区の南インド料理店「なんどり」様 https://nandri-tokyo.com/ の御尽力により、この快作が日本語字幕付きDVDとなった。是非ともお買い求め頂きたいと思う。
さて、以下に『KAALA』の個人的な感想を述べたい。この作品は、私にとって他でもない「仏教映画」だ。わざわざ言うまでもなかろうが、この場合の「仏教」とは、従来の日本人が仏教に対して抱いていた「無常の詠嘆、侘び寂び」とは真逆である。なんとなれば、無常の原語अनित्य(アニティヤ)は momentary, changeable の意味であり、詠嘆どころか変革の意思を惹起させる教えだったのだ。

とはいえ、スラム街の顔役カーラーは、仲間と共にヒンドゥーの祭礼を祝い、モスクへ詣でてイスラム教徒と共に祈り、仏教寺院の前で青年達に熱く語り掛ける。特定の宗教宗派に肩入れすることなく、いつも民衆に寄り添っている。おかみさんを愛し、昔の恋人との再会に心を揺らし、宴席では飲めない酒に酔い、人々と泣き笑いを共にする。だが、ひとたび怒りの炎が燃えれば、身の危険を顧みず単身で敵陣へ乗り込んで行く…。
このような市井の人のことを、昔のインド人は「ボーディ・サットヴァ」と呼んだ。漢字音写で菩提薩埵(ぼだいさった)、略して菩薩(ぼさつ)である。
一方、敵対する地元政治家ハリのキャラクターは、明らかに現インド首相モディ氏をイメージさせる存在であり、ハリの選挙キャッチコピー
「I am a PATRIOT」
などは、モディ氏出馬当時のコピー
「I am a HINDU Nationalist」
に真っ向から仕掛けている。つまり、我が国に例えるなら、非道な悪役に“美しい国、日本を取り戻す”と言わせたようなものである。

後半、大群衆がハリ陣営の弾圧に抗議する場面では、改宗仏教徒のグループも登場する。
このシーン、私は何度見ても震える。嗚咽する。
インド娯楽映画の日本語字幕にはっきり「ジャイ・ビーム!」と表示されたのは、私の知る限り、この作品が初めてだ。邦訳に携わられた「なんどり」様には、日本在住のインド人仏教徒に成り代わり、心からの感謝を申し上げる。

民衆の中で生きる泥まみれの菩薩:カーラー。彼が怒りに燃えて立ち上がる姿に、私は知らず知らず、師父佐々井秀嶺の姿を重ねていた。

 最後に、あえて繰り言を書く。
2009年初夏、佐々井師は44年ぶりに日本の土を踏んだ。約二カ月の滞在を終え、インド帰国の直前、某宗門大学に招かれて最終講演会を行なった。会のラストは、当然「ジャイ・ビーム!」。
だが、終了後に寄せられた感想の中には、以下の如き“日本的な”声もあったのである。
「他宗の唱え言を強制されたようで苦痛だった」

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