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2023『佐々井師誕生祭』

 インドへの出発前夜、荷造りしている私の携帯電話が鳴りました。関係者を通じて、佐々井秀嶺師から私宛の伝言。「お前が着く頃には、まだタイへ行っとるだろうから、ねぐらは自分でなんとかしろ」
 所用による不在自体は珍しいことではありませんが、驚かされたのは、その気力と体力。数日後に八十九歳(数え年)となる高齢者であり、この6月には四年ぶりの来日・7月は首都デリーで文化財保護の交渉事を勤めておられます。直後に、タイ仏教会からの招聘を受けて、緊急渡航。
── 不惜身命 (フシャクシンミョウ/仏道のため命を惜しまないこと)
これを、譬え話でなく本気で実践しているのが、佐々井秀嶺上人。

 8月26日。佐々井師不在の間、インド仏教会の依頼により篤志家が運営する女子寄宿舎にて、臨時教室を開くことになりました。
 報道等でご存知のようにインドの女性は、ジェンダー、階級、宗教、部族など差別社会の下辺に置かれています。そんな彼女らにとって、男女同権と人間平等を推し進めたアンベードカル博士は文字通り菩薩であり、その跡を継いだ佐々井師がいるナーグプール市は、まさに仏国土なのです。

親許を離れ勉強に励む少女の家

 アーリア系、ドラヴィダ系など様々な出身の女の子たち。中には、紛争が続く北東部から避難して来たモンゴロイド系もいます。学問という〝武器〟を身につけるため。
「例のガンディーさんは、तीन बंदर(ティーン・バンダル︰三猿/見ざる・聞かざる・言わざる)が好きだったけど、大事なのは〝ちゃんと見て、しっかり聞いて、はっきり声を上げること〟だよね」
 私ごときがインドの仏教徒に何かを語るなど釈迦に…いや、仏母に説法するようなもの。きれいごとや屁理屈は見透かされます。

食前のお勤め。仏法僧に感謝。

 終盤の質疑応答で気付いたことがありました。立ち上がって自己紹介する時、どの娘も必ず〈ラッパー〉のように胸を張って腕組みするのです。合掌を礼儀とし、『長幼ノ序』を重んじるインドでは、あり得ない所作。疑問に感じてその理由を訊ねると、
「負けないわよ、の決めポーズ。みたいな?」
明るい笑顔が弾けました。

Girl's Power is Human Power

 8月27日、佐々井秀嶺師帰印。翌28日には慈善団体の行事に協力する予定が入っていましたが、タイでの疲れが抜け切っていないとのことで、急遽、私が代役を努めました。
『AMRAPALI foundation』、仏伝に登場する舞姫︰アームラパーリーにちなんだ芸術家とクリエイターによる財団。この日は、貧困層のお年寄りに無料で老眼鏡を配布する催しでした。加齢による視力の低下は、知ることへの意欲をも削いでしまいます。

パーリ語の偈を唱えてお配りしました

 8月30〜31日。『佐々井秀嶺師誕生祭』。二日間に渡るイベント開始。
まずは誕生日の30日、インドーラ寺にて。

 佐々井師をお祝いするため、パンジャーブ州から来てくれたスィク教徒のシンガーによる『ササイ・ジー讃歌』奉唱。どこか演歌のコブシにも通じるその声は必聴!画像をクリックしてフル動画(約3分)をお聴き下さい。

 祝祭は夜も続き、若者たちによるドラム隊パレードが展開。画像をクリックするとインド仏教会が編集したハイライト動画(無音。27秒)を御覧いただけます。

 翌31日。会場をマンセル遺跡…佐々井師によって発見された大乗仏教発祥之地…に移し、より深く民衆の中へと入って行きます。

本物の蓮の花

「皆さんは大地から涌き出た菩薩です。マハーヤーナの法華経にそう書かれています(従地涌出品)。インドの国花︰蓮は、泥に咲く花。まさに、苦しみの泥沼から立ち上がった貴方たちのことです!」

 ナーグプールを発つ日の前夜、佐々井上人の居室にて。
私「考えてみれば、かれこれ二十年になりますね」
師「もうそんなか」
「ええ。怒鳴られたり叩かれたり」
「またやるか?」
「改めて思います。俺は生涯、佐々井秀嶺師の弟子です」
「…うむ」

「ジャイ・ビーム!」

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