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2024.1.17 100才の芥川龍之介

 芥川龍之介は1892年生まれで、1927年に亡くなった。
 芥川龍之介の小説は教科書に確か載っていてそれも読んだし、教科書に載っていないのもいくつか読んだことがあるし、国語便覧には顔写真とともに詳しいことも書いてあった。芥川賞といえば、小説の賞の中では一番有名なのではないかと思う。
 なので、芥川龍之介はずっと、わたしは子どものころから存在が遠いというか、歴史の中の人という感じがしていた。
 ある日ふと、芥川龍之介のことを考えて、もし、芥川龍之介が100才まで生きていたら、100才の芥川龍之介は、1992年にも生きていた、ということになるんだな、と思い、それで、1992年というのは、わたしが10才だった年だから、もし、芥川龍之介が100才まで生きていたとしたら、10才のわたしは、芥川龍之介が生きている世界にいることができたのだ、と思った。
 人間が100才まで生きられるというのはあり得る話だから、100才の芥川龍之介がある日散歩に出かけて、その日は近所のショッピングモールまで歩いて、歩くといっても100才だからとてもゆっくりで、杖もつきながら、そこまでしてショッピングモールに行きたいのは、芥川龍之介が好きなコーヒーショップがあって、そこの季節限定のドリンクがどうしても飲みたかったから。
 それで同じ日に、たまたま両親に連れられてショッピングモールを訪れていた10才のわたしは、フードコートでラーメンを食べて、お腹がいっぱいになったあとにはおもちゃ売り場に行って、買わないよ見るだけね今日は、と言われて並んでいるおもちゃをただ見て、父はゴルフ用品を見に行って、母の日用品の買い物についっていって、あるていど見た両親とわたしはコーヒーショップで合流して、おのおのドリンクを注文して席に着いたら、隣の席に100才の芥川龍之介が座っている。わたしはその老人が芥川龍之介だとは知らないけれど、両親は知っていて、こそっとわたしに耳打ちしてくる。
 ほら、羅生門とか、鼻とかの、すんごくえらい小説家のおじいさんだよ、どうしよう、声かけようかな、サインもらう? けど、迷惑かもしれない、えらい小説家なんだから、きっと気難しいに違いない、なに飲んでるんだろう、うわ、すごいクリームてんこ盛りの飲んでる、元気だね、だって、100才だよ、芥川龍之介は。
 それで、そのときの記憶がわたしの中にあるとしたら、今のわたしにとっても、芥川龍之介は、そう遠い存在ではない。

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