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【コラム】有馬記念2021〜世界を席巻するドイツの血脈〜


はじめに


「損して得取れ」

 私が競馬において指針としていることわざである。短期的な成功のみを追うのではなく、長期的に正しいとする信念を持つことの重要性は何も競馬に限った話ではないだろう。信念を持って考え抜いた点の数々はやがて一つに繋がり線となる。
 競馬において日々の予想が点だとするならば、それを線とするのが1年の総決算有馬記念である。
 年始のドイツ旋風から始まった2021年の中央競馬。そこから11ヶ月の時を経て結ばれた点の数々を、集大成とも言えるこの舞台に全てぶつける。それこそが有馬記念という特別なレースに参加する最低限の礼儀なのではないだろうか。



展開考察


コース解説



 予想に先立って展開面の考察を行う。初めに中山2500mのコース形態を確認しておこう。以下の画像は当該コース図である。

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〔出典〕競馬ラボ

 外回りの3コーナー地点からスタートし、そこから内回りを約1週半するコース。2500mという距離に加えて、直線の急坂を2度登るコース形態故に豊富なスタミナを持つ馬に有利な条件と言える。
 実際に過去5年の好走馬を見ても、フィエールマンやワールドプレミア、シュヴァルグラン、キタサンブラック、サトノダイヤモンド、ゴールドアクターなど3000m以上のGIレースで実績がある馬の活躍が目立っており、このレースにおいて長距離戦を戦える資質を持つ事の重要性が読み取れるだろう。今回のメンバーで3000m以上GIで複勝圏実績がある馬は、アリストテレス、キセキ、タイトルホルダー、ディープボンド、ユーキャンスマイルの5頭。


ラップから見る中山2500mの適性

 前節で、このレースでの好走には豊富なスタミナが必要だと述べた。しかし、これだけでは求められる適性が余りにも不明瞭である。そもそも”豊富なスタミナ”という表現自体、馬の適性を表す上では不的確なものと言えるだろう。
 そこで、前節で示したコース図からより深く適性面についての考察を行う。便宜上同様の画像を下記にもう一度示す。

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〔出典〕競馬ラボ

 このコースは冒頭で述べた通り外回り3コーナー地点からのスタートとなるのだが、そこから最初のコーナーまでの距離は僅か192mと極めて短い。加えて直線入口から2コーナー前地点までで約5mの上り坂が続いている為、基本的に前半は流れが落ち着きやすい。その後2コーナー途中から下り坂へと転じ、向正面半ばまでの約400mで一気に4mを下り切る。ここからレースは佳境に入る訳だが、知っての通り中山競馬場は直線が308mと短く、トップスピード性能で後方からまとめて差し切るのは困難。加えて、先に述べた2コーナー過ぎからの下り坂で加速が付く為、後半は持続的な末脚が問われやすくなる。
 この傾向に関しては実際のラップを見た方が分かりやすい。以下は2016〜2021年に当該コースで行われた全レースの平均ラップをクラス毎に示したものである。

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〔出典〕TARGET frontier JV

 やはり前半〜中盤にかけて緩んだ後、残り5Fからペースが上がってそこからはラストまでワンペースで推移している。
 つまりこの舞台で求められるのは持続的なラップを刻む能力であり、天皇賞秋やジャパンカップのようなトップスピード性能の要求値は低くなる。
 この点を念頭に置いてこの先の予想を進めていきたい。


今年の展開

 ここからは実際に今年の展開を考察していく。まずどの馬が逃げるかだが、順当に行けばパンサラッサが最有力候補となるだろう。前走福島記念のラップからもテンのスピードはNo.1であり、この馬の持ち味を生かす意味でも再び逃げる競馬を選択する可能性は極めて高い。逃げて結果を残したという意味では3番人気想定のタイトルホルダーも同様だが、こちらは皐月賞で番手からでも結果を残しており、無理に競ってくることは考え難い。また、その他ではキセキが行くパターンも可能性としては0ではないが、京都大賞典や宝塚記念の競馬を見る限り、仮に出遅れなくてもハナを取る展開は想像し難い。ということで、ここではパンサラッサが逃げると仮定して展開考察を行う。
 ではパンサラッサが逃げるならどれぐらいのペースとなるのか。まずはこの馬が逃げて連勝を飾った近2走のラップを以下に示す。

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同じ逃げ切りでも、2走前オクトーバーSは前後半差が小さいミドルペースでの逃げなのに対し、前走福島記念は4.6秒の前傾ラップで逃げ切っており、その内訳は大きく異なる。ちなみに前後半で分けた数値は以下の通り。

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これを見ても2走前と前走が異なる逃げだったことが分かる。
 とはいえ、この数値をそのまま鵜呑みにするのは余りにも短絡的である。というのもこの2レースは異なる競馬場で行われており、コース形態の違いが全く考慮されていないからだ。そこでそれぞれの施行条件についての確認を行う。以下は福島2000m及び東京2000mのコース図である。

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〔出典〕競馬ラボ

 まず福島記念が行われる福島2000mだが、スタートは直線奥のポケット地点で、そこから約200m下り坂が続く。その後ゴール板に向けて若干の上りを経て2コーナー手前まで再びの下りに転じる。前半は下り坂が多く、加えて最初のコーナーまで約500mある為、必然的に前半は早くなりやすい。
 続いてオクトーバーSが行われる東京2000mだが、まずこのコースで特徴的なのは何と言っても最初のコーナーまでの短さ。1コーナー奥のポケットからのスタートとなるが、そこから2コーナーまでの距離は僅か130mしかない。加えて東京は直線が長く、トップスピードの質で後方からでも差し切ることが可能である為、向正面で極端なペースアップが起こることは稀である。そのため傾向としては前半が遅くなりやすい。この条件の前半ペースが落ち着きやすいことについては天皇賞の記事で詳しいデータを載せているので、気になる方は是非こちらを一読して頂きたい。


 上記のコース解説から、福島2000mの方が前半は早くなる傾向にあることが読み取れる。
 では今回はどちらに近いラップが刻まれるのかだが、前節で説明した通り中山2500mは前半が遅くなりやすい舞台設定。それを踏まえれば、前半1000mは2走前オクトーバーSに近い時計が記録されると見ており、今回のレースでは59.0〜59.5辺りを想定して予想を組み立てたいと思う。

 ではこの数字は過去のレースと比較してどれほどの水準にあるのか。実際に過去5年の有馬記念と照らし合わせていく。以下は2016〜2020年における同レースの前半及び後半1000mのタイムである。

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前半が落ち着きやすい傾向は有馬記念においても例外ではなく、5年のうち4回は後半1000mの方が早くなっている。唯一例外的だったのは2019年で、この年は前半が58.4とかなりのハイペースとなっているが、基本的にこのレースで前半が60秒を切ることは稀である。
 ただ、前述の通り今年の前半は59.0〜59.5を想定している。これは例年の有馬記念の水準から考えるとかなり早いペースである。つまり今年は、近年の同レースの中でも前半から早いラップを耐え得るだけのスタミナが重要になってくる。

 まとめると、今年の有馬記念は後半5Fで持続的な末脚を使う能力に加え、前傾戦に耐え得るだけの豊富なスタミナが要求されるレースだと言える。



最強3歳世代定点観測


データが示す世代の強さ

 様々なところで語られている通り今年の3歳世代は強い。エフフォーリアを筆頭に、中距離、マイル、スプリントと条件を問わずに古馬混合重賞を席巻している。現3歳世代の強さについては前章で紹介した天皇賞の記事に詳細データを載せているので是非そちらも参照して頂きたい。その時用いたデータは天皇賞前時点までのものだったが、それ以降もこの世代の勢いは止まらない。まず天皇賞でエフフォーリアが三冠馬コントレイルと女傑グランアレグリアを撃破。続くエリザベス女王杯ではステラリアが7番人気ながら2着好走、マイルCSではシュネルマイスター&ダノンザキッドが2,3着確保、ジャパンカップでもシャフリヤールが2度の大きな不利を受けながら3着と面目を保った。
 その最強世代から今回は実に4頭が参戦。その中で真に強いのはどの馬なのか。この章では彼らの序列付け及び定点観測を行っていく。


皐月賞で示された絶対的序列


 まず初めに断っておくが、この記事で日本ダービーに関する分析は行わない。というのも今回求められる適性とは全く異なる質のレースだったからである。そうなると必然的に皐月賞が分析対象となるのだが、このレースに関しては過去に詳細な回顧を行っている。詳しくは以下の「菊の大輪へ〜時を経て見えてくる皐月の適正評価〜」を参照して頂きたい。


記事の内容を要約すると、このレースはペース的に先行勢、とりわけ早めにスパートをかけた前6頭に苦しい展開で、加えて馬場の悪いインを通った馬にも不利なバイアスであった。つまりこのレースで最も厳しい競馬だったのは前6頭の中で馬場の悪いインを通った馬であったと結論付ける事が出来る。この形を強いられたのはエフフォーリア、タイトルホルダー、ワールドリバイバルの3頭だが、その中でワンツーフィニッシュを果たしたエフフォーリアとタイトルホルダーは3着以下に明確な力の差を示したレースだったと言えるだろう。とりわけ後続に3馬身差をつけて勝利したエフフォーリアはその他の15頭に対して絶対的な序列を生み出す走りであった。



皐月賞の適性整理

 前節では皐月賞で示された能力の序列について説明を行った。ではこのレースで求められた適性はどのようなものだったのか。それを紐解く為に同レースのラップ推移を見ていきたい。以下はレースラップである。
12.1-11.7-12.5-11.9-12.1-11.4-11.9-12.1-12.3-12.6
前半から淀みないペースで流れた一戦。前半1000mは60.3で通過しているが、これは当時の馬場状態を考えればハイペースの水準。この日は前夜からの雨の影響で時計が掛かるコンディション。表記上は稍重となっているが、その他のレースの時計を見ると体感上は限りなく重に近かったと思う。加えて、このレースは6F目からペースが上がり、そこからラストまで持続的なラップが刻まれている。

 まとめると、このレースで求められたのは前傾戦に耐え得るだけの豊富なスタミナと後半5Fで持続的な末脚を使う能力であり、前章で示した今年の有馬記念で求められる適性との親和性は極めて高いものと言える。
 ちなみにこのレースのラップを前後半で分けると60.3-60.3のイーブンで一見ミドルペースのように映るが、これは勝利したエフフォーリアが異次元のパフォーマンスをしたからに他ならない。前節の序列付けと合わせて考えても、やはりこの世代において同馬が抜きん出た存在であることに疑いの余地はないだろう。


定点観測

 ここまでは皐月賞時の序列とそこで求められた適性について解き明かしてきた。そこから8ヶ月、序列に変化は生まれたのか。これを紐解く為、菊花賞の結果を見ていく。記事冒頭で述べた通り有馬記念は長距離GIでの実績が重要になるレース。加えて前節で述べた皐月賞と有馬記念の親和性を踏まえれば、このレースもまた皐月賞との間に適性面で一定の相関性を認めることが可能となる。
 皐月賞から半年を経ての一戦となった菊花賞だが、結果はタイトルホルダーが後続に5馬身差をつける圧勝。皐月賞で3着以下に明確な力の差を示した同馬の勝利は、当時から序列に変化がないことを証明するには十分過ぎるものであった。


まとめ

 最強世代と名高い現3歳世代。データからもこの点に疑いようはなく、今回のレースにおいても無視出来ない存在であることは間違いない。また、その中でも皐月賞で厳しい競馬ながらワンツーフィニッシュを果たしたエフフォーリア、タイトルホルダーは他の馬に明確な力差を示しており、その序列は現在においても変わっていない。今回の有馬記念においてもこの2頭は高い評価が必要で、とりわけエフフォーリアに関しては勝ち負けの筆頭候補と見るべき1頭だろう。



猛威を奮うドイツ血統


 前章では、現3歳世代の強さについて述べた後、その中でもエフフォーリアとタイトルホルダーの2頭が突出した存在であることを示した。
 ではこの2頭を倒す馬は他にいないのか。答えはNoである。この答えを解く為に必要なのが血統面からのアプローチとなるのだが、その際に重要となる鍵こそが記事のタイトルにもなっているドイツ血統なのである。


冬の中山におけるドイツ血統

 普段から私のnoteを見てくださっている方ならお分かりだと思うが、冬の中山はドイツ血統がとにかく強い。ここ数年は特にその傾向が顕著で、重賞、平場問わず高い好走率を誇っている。とりわけ2000m以上のレースにおける影響力は凄まじく、近年の中山中長距離重賞では当該血統保持馬が人気の有無を問わず猛威を奮っている。
 この事実を客観的に捉える為、以下のデータを見て頂きたい。これは2016年〜2021年(12月19日終了時点)に冬の中山開催(11〜1月)で行われた2000m以上重賞における3代以内ドイツ血統保持馬の成績である。尚、ドイツ血統の定義としては、①ドイツ産馬②最多出走国がドイツ③ドイツGI勝利馬のいずれかを満たしている馬とする。

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これを見ると単勝回収率、複勝回収率ともに100%を超えており、この条件における当該血統の強さが分かるだろう。馬の能力などを全く考慮せず、ドイツ血統保持馬全てを抽出した上でのこの数字は、まさに異常値と言える。また、上記のデータを1年毎にも分類した。それが以下の表である。

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このデータから、ここ3年で特に影響力を伸ばしていることが分かる。そこで同様の統計を過去3年で括ったものも以下に示す。

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近3年で見るとその影響力はさらに拡大し、単勝回収率、複勝回収率はともに200%超え。好走率ベースでも連対率33.3%、複勝率に至っては52.4%と驚異的な数値を示している。

 以上のように冬の中山中長距離重賞においてドイツ血統の影響力は極めて高く、またそれはここ3年において特に顕著であることが読み取れる。
 ただ、これまでの話では当該条件においてドイツ血統が好走する要因について全く触れられていない。そこで次節では、そもそもドイツ血統が冬の中山中長距離重賞に強い要因について、ドイツ競馬のレース体系をもとに探っていく。


ドイツ競馬がもたらす資質

 前節で示したデータからドイツ血統が冬の中山中長距離重賞に強いことが読み取れた。ではその要因はどこにあるのか。これを紐解く鍵は、ドイツの特徴的なレース体系にあると考えられる。ドイツではバーデン大賞やドイチェスダービーなど年間でG Iが7レース行われるのだが、そのほとんどが2400mで施行されており、全体的に長距離志向が強い。このようなレース体系の中では、当然生産者側も長距離戦に特化した馬の生産を目指す。このようなサイクルの中で、いつしかドイツでは長距離戦に強い重厚な血統が生き残ることとなった。
 このような歴史の中で、ドイツからは時折凱旋門賞などのビッグレースを制する馬が現れていたのだが、その勢いが一気に加速したのがここ数年である。MonsunやAcatenangoといった名血を引いた馬がヨーロッパ競馬を賑わし、凱旋門賞では19年1着ヴァルトガイスト、20年2着インスウープ、21年1着トルカータタッソとドイツ血統が3年連続の連対を果たした。奇しくも19年は日本においてドイツ血統の活躍が顕著となった転換点と重なる。このようにドイツ血統はここ数年で世界での地位を急速に向上させている。そして歴史の中で育まれた重厚な血統が、凱旋門賞を始めとしたタフな長距離戦において有利に作用していることは言うまでもない。

 この歴史的背景、そして特徴的なレース体系こそがドイツ血統が冬の中山中長距離戦に抜群の強さを誇る要因である。ご存知の通り冬の中山は元の野芝に洋芝をオーバーシードして開催される。その為、他の施行時期に比べて時計が掛かり、スタミナの要求値が上がる。そのタフな馬場の中で長距離戦を戦う資質を引き出す物、それこそがドイツ血統なのである。



ドイツ血統撃破の2頭


ドイツ血統を破る意義

 前章では、冬の中山中長距離重賞におけるドイツ血統の強さについて解き明かした。しかし今回の有馬記念を予想する上で一つ大きな問題がある。それは3代以内にドイツ血統を保持している馬が1頭も出走していないということだ。ここまで散々当該血統の強さについて話しておきながら、肝心の保持馬がいないのでは本末転倒である。
 ではこの理論は今回のレースにおいて全く使えないのかというと、決してそういう訳ではない。何度も言っている様に、冬の中山はドイツ血統が最高のパフォーマンスを発揮する条件である。これは裏を返せば、そこでドイツ血統を破った馬もまた当該条件で抜群の強さを誇る、もしくは絶対能力が高いという一つの指標となり得るのだ。
 これを裏付ける為に、実際にドイツ血統を撃破した馬を見ていく。以下は当該血統の活躍が特に顕著となった2019年以降において冬の中山2000m以上重賞で好走したドイツ血統保持馬と、その際の1着馬(2着馬)の一覧表である。

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これを見ても、1着馬(2着馬)の方が一般的に強いとされている馬であるケースがほとんどで、またその差異も極めて大きい。
 この結果から、冬の中山においてドイツ血統を破ることには一定の価値があると結論付けることが出来る。


ラストランの女王に立ちはだかる壁

 今年の有馬記念においてドイツ血統を撃破した馬が2頭存在する。1頭目が昨年の同レース覇者クロノジェネシスだ。前人未到のグランプリ4連覇を狙う女傑について、今さら適性面、能力面をあれこれ言うつもりははい。例年より前傾寄りのレースが想定される点についても、昨年の宝塚記念を見れば全く問題ない。万全の状態であれば間違いなく今年も勝ち負けに加わってくるだろう。ただ、今回はその状態面こそが最大の焦点となる。凱旋門賞からの帰国初戦で果たして100%の力を発揮できるのか一抹の不安がある。
 この点について考察する為、先日別記事で海外遠征馬の帰国初戦成績についての統計を行った。以下は当該記事である。


この記事では過去5年における帰国初戦の成績を、遠征距離、レースレベル、レース間隔の観点からそれぞれ分析した。結果としては①遠征地域の距離が遠くなるに比例して実質的な次走成績が下降する②レースレベルが高くなるにつれて次走成績が下降する③レース間隔が短くなるにつれて次走成績が下降する、の3点が確認された。
 今回のクロノジェネシスは①フランス②有馬記念③2ヶ月半となるが、記事のデータを欧州遠征×3ヶ月以内で絞ると(0.0.0.3)、また欧州遠征×G Iで絞ると(0.0.0.5)とともに1頭も馬券になっておらず、極めて厳しい条件だということが分かる。

 とはいえこれだけを持ってクロノジェネシスを切るというのは余りにも早計だろう。実際に過去には凱旋門賞からの帰国初戦で馬券になった馬は複数存在する。ということで今回は帰国初戦にジャパンカップor有馬記念に出走した凱旋門賞挑戦馬の成績についても統計を行った。それをまとめたものが以下の表である。

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これを見ると複勝率はともに50%超えと思いのほか馬券になっている馬は多い。とはいえ、大前提として凱旋門賞に挑戦する馬はほとんどが日本国内においてトップクラスの成績を残しており、それを考えると逆に約半数は馬券を外しているという事実もまた重く受け止めるべきである。
 では実際どのレベルの馬が帰国初戦に馬券となっているのか。以下は上記のデータで3着以内に入った馬の内訳である。

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ご覧の通り錚々たるメンツが名を連ねており、やはりフランスからの帰国初戦で馬券になるには相当な能力が必要であるということが分かる。
 もちろんクロノジェネシスの実績はこのメンバーに入っても見劣るものではなく、やはりこのデータを持って完全に切るという判断を下すのは困難である。とはいえ前年より厳しい臨戦過程であることもまた間違いない。この悪条件を乗り越え前人未到のグランプリ4連覇を達成したならば、その時は名実ともに歴史的名牝だと認めようではないか。



天才を背に迎えたダークホース

 今年の有馬記念においてドイツ血統を撃破した経験を持つ馬がもう1頭存在する。それがアリストテレスである。
 アリストテレスは今年1月に行われたAJCCでヴェルトライゼンデ、ラストドラフトのドイツ血統保持馬2頭を撃破したのだが、この2頭を破った意味は極めて大きい。というのも2頭ともドイツ血統の純度が高く、それに比例するように冬の中山重賞で抜群の強さを見せてきた馬だからである。
 まずヴェルトライゼンデだが、母はドイツオークスを制した名牝マンデラであり、まさにドイツが誇る名血中の名血。兄弟には有馬記念3着のワールドプレミアや冬ではないが馬場が悪かった皐月賞で2着のワールドエースがおり、まさに中山の申し子とも言える血統である。実際にこの馬自身も、ホープフルSでは好位からコントレイルと並ぶ上がり最速を記録し2着に肉薄する走りを見せており、冬の中山では抜群の強さを見せてきた。
 続いてラストドラフトだが、この馬は父にドイツが誇る名馬ノヴェリストを持つ血統。その血統通り冬の中山では、京成杯で後続を寄せ付けない完勝、19年AJCCでは故障馬が下がってきた影響をモロに受けて外ラチ沿いまで膨れる不利がありながら3着と、2レースとも極めて高いパフォーマンスを見せている。
 ともに1代前にドイツ血統を持つ馬で、その純度に比例するように冬の中山では高いパフォーマンスを見せてきた。特に前者はダービーでも3着に入る実力馬で、その馬が適性条件でさらにパフォーマンスを跳ね上げてくるとなればそれを倒すには相当な能力の持ち主である必要がある。この2頭を完封したアリストテレスは少なくともこの条件においては現役屈指の能力を有していると考えて問題ないだろう。

 1章の展開考察で、有馬記念は3000m以上GIでの実績が重要になると述べた。また、後半5Fで持続的な末脚を使う能力が求められることも話した。菊花賞、及びAJCCで2点ともクリアしたアリストテレス。先週、朝日杯のジンクスを破った天才とコンビを組むこの馬を、今年の有馬記念における本命馬に指名したいと思う。



あとがき

 冒頭に「日々の予想を線として繋ぎ合わせるのが有馬記念」と述べた。年始のドイツ旋風、POG馬ワンダフルタウンのダービー出走、トルカータタッソの凱旋門賞制覇。全てはこの日の為に繋がっていたのだ。1年かけて線にした予想の集大成をこの舞台で昇華させる。的中という結果を持って。






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