海外遠征後の帰国初戦における競争成績と遠征距離、レースランク及びレース間隔の相関性


はじめに


昨今、日本競馬のレベルは飛躍的に上がり、日本調教馬が海外G Iで勝利するのはもはや日常茶飯事となっている。特に芝の中距離カテゴリーにおいて日本は世界的にも最高水準であり、国内G Iを勝てない馬が海外でGⅠ初制覇を飾るという例も珍しくない。このような状況により、年々日本調教馬による海外遠征は活発になっている。しかし海外遠征にはリスクも伴う。輸送によるダメージで調子を崩してしまう可能性だ。実際に近年でもマカヒキやサトノダイヤモンドといったトップホースが海外遠征後に調子を崩し、長らく勝利から遠ざかっていた。

では実際に遠征によるダメージはその後の成績にどれほど影響を及ぼすのか。今回は海外遠征を行なった競走馬の帰国初戦成績について分析を行った。
調査対象は2016年〜2021年に海外レースに出走した競走馬とし、それらの帰国初戦の成績を遠征地域、レースランク、レース間隔に分けて検証を行う。
なお海外転戦(例:香港→UAE)等のデータは含まれていない。あくまで日本国内への帰国初戦のみのデータであることを予めご了承頂きたい。
遠征馬の情報についてはJRAホームページ「日本馬海外遠征の記録」を参照させて頂いた。

統計データ及び考察


では実際に遠征馬の帰国初戦データを見ていく。
まずは全体成績を示す。統計データは以下の通り(表1)。

表1 海外遠征馬帰国初戦成績


統計数は136件、同一馬の複数遠征も含まれている。このデータをより深く分析する為、まずはこれを遠征地域ごとに分類する。統計データは以下の通り(表2)。

表2 遠征地域ごとの成績


当然ではあるが香港及び中東(主にドバイ)への遠征が多くなっている。仮説段階では遠征距離が遠くなるに従い成績が下降すると考えていたが、サンプル数の多い2国の比較では意外にも香港<中東というデータに。
ただしこれを鵜呑みにするのは危険である。というのも中東は3歳限定戦やG II、GⅢレースも多く、このデータではそれらに出走した馬の帰国初戦のレースレベルが低い点が考慮されていない。またレースレベルという観点では、韓国遠征馬の成績が悪い点について、そもそもここに遠征する馬が日本国内において決してトップクラスではない事についても留意しなければならない。対照的に、欧州遠征馬は基本的に日本国内において頂点、もしくはそれに準ずるレベルの馬であるにも関わらず、次走成績が悪い点は見逃せない。
これらを是正する為に、帰国初戦の成績をレースランクごとに分類した。統計データは以下の通り(表3)。
なおJpnⅠ,JpnⅡ,JpnⅢについては便宜上それぞれGⅠ,GⅡ,GⅢとして統計を取った。

表3 レースランクごとの成績


これを見るとGIでの成績が悪くなっており、やはり帰国初戦での大レース出走は分が悪いことが読み取れる。
しかしレースレベルとの相関性という意味で言うと、GⅡよりレースレベルが落ちるGⅢ、オープンの方がむしろ次走成績は悪くなるという結果に。ただこれについてはそもそも日本トップクラスの海外遠征馬が帰国初戦にG III以下のレースを使うことは稀であり、ここに関しては単に出走馬のレベルに起因すると考えられる。
また出走馬のレベルという観点で見ると、最も成績が良かったのはレースランクが一番低い条件戦・その他(未勝利、障害など)となったが、ここで3着以内に入った計8頭のうち5頭は前走遠征地域中東の馬が占める結果に。表2で中東に次いでサンプル数の多かった香港については全レースがGⅠ競走ということもあり、出走馬の帰国初戦は9割以上がGⅠ、もしくはGⅡである。それを踏まえれば実質的な次走好走率では香港の方に優位性を見出すことが可能だろう。また遠征距離が遠いながら高い好走率を示したアメリカについても、好走した4頭の内訳は、条件戦・その他が2、オープンが1、GⅢが1といずれもランクの低いレースとなっている。これらのデータに加え、先の欧州遠征馬のレベル及び成績を踏まえれば、やはり遠征距離が遠くなればそれほど帰国初戦の成績も悪くなると考えられる。

ここまでは遠征地域及びレースランクと帰国初戦の成績の相関性を探ってきたが、最後にもう一つ別の観点から分析を行う。まずは以下の表を見て頂きたい。これは帰国初戦の成績を遠征からのレース間隔ごとに統計を取ったものである(表4)。

表4 レース間隔ごとの成績


これを見ると前走からの間隔が長くなるに比例して成績が上がっており、やはり海外遠征の疲労回復にはある程度のレース間隔が必要であると考えられる。また、必要疲労回復期間は遠征地域への距離とも相関する。間隔3ヶ月以内の7勝を地域ごとに分類すると、香港4勝、オーストラリア1勝、中東2勝となる。また中東の2勝はともに条件戦であることから、やはり遠征地域への距離が長ければ長いほど、回復に要する期間も相対的に長くなると結論付けることができる。

まとめ


今回は海外遠征馬の帰国初戦成績を3つの観点から分析した。結果としては次の3点が確認された。1点目は、遠征地域の距離が遠くなるに比例して実質的な次走成績が下降する。2点目は、レースレベルが高くなるにつれて次走成績が下降する。3点目は、レース間隔が短くなるにつれて次走成績が下降する。
今回挙げた3つの観点はそれぞれ次走成績と相関関係にあることが分かった。余談だが、上記のデータを欧州遠征×3ヶ月以内でソートすると(0.0.0.3)となり、また欧州遠征×GⅠでソートすると(0.0.0.5)となる。どちらもサンプルが少ないのでこれで傾向を断じることは出来ないが、ともに1頭も馬券に絡んでいないのは興味深い。
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