【コラム】菊の大輪へ〜時を経て見えてくる皐月の適正評価〜


はじめに

皆さん、私が執筆した皐月賞の回顧記事は覚えているだろうか?
恐らくほとんどの方は記憶の片隅にも無いだろう。個人的に問題作だと思っている回顧。菊花賞前のこのタイミングで皆さんの為にも、そして自分自身が納得する為にも、改めて皐月賞について振り返って行きたいと思う。



当時の皐月賞回顧記事


まずはレース直後に出した問題の回顧記事から一部抜粋。

画像1

当時の見解としては馬群の隊列やコース取りの観点から内を通った馬に分があったと結論付けている。



皐月賞出走馬のその後


では結果的にこの見解は正しかったのか?
この時の出走メンバーのその後の成績を見て行く。

まずは1〜3着、当時の見解で恵まれたと評した3頭

エフフォーリア→ダービー2着

まずは勝ったエフフォーリアだが、ダービーでも2着としっかり能力を証明。このダービーは前半ドスローながらも後半力でレコードが飛び出しており、ここでマッチレースを演じたシャフリヤールとエフフォーリアの能力の高さは疑いようがない。
タイトルホルダー→ダービー6着,セントライト13着

着順だけ見ると奮わないように映るが、ダービーは血統面からも苦手な瞬発力勝負ながら大崩れしていない点で評価できる内容。前走セントライト記念はペース的に先行勢に高負荷だったのに加え、直線絵に描いたようなドン詰まりで完全に度外視可能。
ステラヴェローチェ→ダービー3着,神戸新聞杯1着

レコード決着かつ上がり勝負のダービー、非根幹距離不良馬場神戸新聞杯と真逆の条件でともに好走しているように総合力の高い1頭。戦績通り能力面はこの世代でもトップクラス。


続いて当時の見解で不利と評した外回し組
ちなみにここでは3〜4コーナーにかけて4頭分以上外を回した馬を外回し組と定義する

グラティアス→ダービー8着,セントライト記念9着

レース後の回顧で一番不利が大きかったと述べたのがこのグラティアス。大外をぶん回した上に直線で内からぶつけられる不利、さらに血統面から苦手な道悪ながら6着まで追い込んでおり、一見すると好内容に映る。ではその後はどうか?ダービーは高速馬場替わり+瞬発力勝負。高速馬場に滅法強いアルゼンチンG I馬の母を持つ配合、京成杯で快勝した瞬発力勝負と馬場、展開ともにドンピシャだったにも関わらず結果を出せず。前走も先行勢に厳しい展開だったとはいえ無抵抗で沈むだらしない内容。
ディープモンスター→ダービー16着

皐月賞の負け方から広い東京に替わるのは大きなプラスであったはず。その中で16着大敗。もちろん道中の大捲りでこの馬の良さを掻き消したという側面はあるのだが、それを差し引いても能力面で劣っていると評価せざるを得ない。
ヴィクティファ...→ダービー14着,セントライト5着

文字数の関係で馬名省略。ダービーでは特に見せ場もなく14着大敗。セントライト記念も展開向いた中で勝ち馬と0.8差と一戦級との比較では厳しいものがある。
シュヴァリエローズ→ラジニケ5着,3勝クラス2着

ラジオNIKKEI賞はインが圧倒的に有利な馬場で内を通って5着と低調なパフォーマンス。さらに前走は3勝クラスで取りこぼし。皐月賞で一番外を回した馬だけに、仮に過去の回顧が正確ならば物足りない走りと言える。
アサマノイタズラ→ラジニケ12着,セントライト1着

ラジオNIKKEI賞では12着と大敗するも、前哨戦のセントライト記念では見事に1着。もちろん展開の恩恵が大きかったのは否めないが、一先ず面目躍如の走りと言える。
レッドベルオーブ&ダノンザキッド→未出走


最後に上位3頭以外で直線インを通った馬
尚、直線インについては下記画像の黒い線より左側の馬と定義する(馬場が変色している境目)
※レッドベルオーブに関しては前述の通り未出走なので省略する

画像2

ワールドリバイ...→ラジニケ2着,セントライト11着

文字数の関係で馬名省略。ラジオNIKKEI賞では馬場の恩恵ありきとは言え2着好走。その後セントライト記念では11着に大敗しているものの、先行勢総崩れレースだったことを考えると着順よりは評価できるだろう。
イルーシヴパンサー→1勝クラス1着,2勝クラス1着

これは相手関係からも大きく評価できるものではないが、一応1勝クラス、2勝クラスと連勝中。


この成績を見ると色々と見えてくることがあるだろう。その辺りを次の章で解説して行く。



時を重ねて見えてくる皐月賞の評価


ここで当時の結論をもう一度確認しておく。
「外差し馬場+直線追い風の騎手意識を逆手に取り、インをロスなく立ち回った3頭が上位独占」

では上位3頭は本当に内を立ち回ったのが好走要因なのか?ここまで読んで下さった方はもう気付いていると思うが、これは間違った結論である可能性が極めて高い。
既に当記事で何度も述べているように、この日の中山はインが荒れていたことと、直線で強烈な追い風が吹いていたことにより外差し傾向。実際にこの日の芝レースでインを通った馬はその後軒並み巻き返している。そしてそれは皐月賞も例外では無かったのだ。

しかしそうなると一つ疑問が出てくる。
外を回しながらその後巻き返したアサマノイタズラの評価はどうなるのか?

この疑問については別の視点から見ることで解決することが出来る。
それはラップと前後の隊列である。以下は皐月賞のレースラップだ。
12.1-11.7-12.5-11.9-12.1-11.4-11.9-12.1-12.3-12.6【2:00.6 前60.3-後60.3】

ご存知の通り当時の中山は雨の影響で時計の掛かるコンディション。表記は稍重だが、体感的には重に近かったと思う。その中で1000m通過60.3というのはそれなりに早い水準と言える。前後半は60.3のイーブンで一見ミドルペースにも映るが、これは勝ったエフフォーリアが異次元のパフォーマンスをしたからに他ならない。2着タイトルホルダーを基準に考えると60.3-60.8と0.5秒の前傾ラップとなり、やはり先行勢には負荷の掛かる競馬だったと考えられる。

次はこのラップを頭に入れた上で前後の隊列について見ていきたい。このレースは前述の通り前半1000mももちろん早いのだが、そこからさらに先行勢に厳しい展開となった要因が残り5F〜6F目にかけて11.4-11.9とラップが早くなっている点。このペースアップに呼応したのが以下の6頭(画像)

画像3

そしてこの6頭はその後、未出走の2頭を除いてきっちり高いパフォーマンスを見せている。

・ワールドリバイバル→ラジニケ2着
・タイトルホルダー→苦手展開ダービー6着
・レッドベルオーブ→未出走
・ダノンザキッド→未出走
・アサマノイタズラ→セントライト記念1着
・エフフォーリア→ダービー2着

この結果は前述のラップの話と整合性が取れている。つまりこのレースは先行勢、とりわけ上記の6頭には厳しい展開であり、馬場傾向からアドバンテージのあった外回し組ながら大敗したアサマノイタズラがセントライト記念で巻き返した話とも辻褄が合うという訳だ。



新たな結論


これまでの話から、皐月賞の結論は以下の通り、

・当時の馬場傾向通り、インを通った馬は不利
・ラップ、隊列両面から先行勢、とりわけ前の6頭に
 は厳しい展開であった。

そしてこの結論から皐月賞で真に強いパフォーマンスを見せたのはエフフォーリア、タイトルホルダーと言うことが分かる。



まとめ


改めて振り返ると、内を通った馬が上位独占したからといってイン有利と決め付けた当時の回顧は余りにも浅はかであった。
しかし人間は成長する生き物である。過去の見解を否定し、新たに導き出した答えが菊花賞の的中へと繋がれば、それは意味のある間違いだったと言えるのではないだろうか。
10月24日、真に強い馬が勝つと言われる菊花賞でその答え合わせをしよう。





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