サヨナラババァ5

サヨナラババァ(5)

「Hは小者な詐欺師で谷内田はホンモノの詐欺師」

とババァによく”H”といるときに冗談で言われました。その”H”は精神障害か?ってぐらい、相手がフラフラになるくらい嘘をつく。大概の人は「もういい二度と会いたくない!」といった物別れに終わることがほとんど。

相手がヤクザだろうと政治家だろうとお構いなしに金があると喰いにかかる。また顔が無駄にハンサムなのでホステスにモテるそしてホステスの金を喰う。毎晩アメックスのカードで酒を飲み回ってターゲットを探してる。 どうしてこんな風に育ったのかぼくは興味があったが、こいつにはなれないな・・・と思ってずっと関係を避けていた。

もしくは・・・

Hと勝負してみたいなと心の中でどこか思ってたのかもしれない...。

ランドローバーを運転するHとベラベラと思い出話を語りながら北九州の港へと向かっている。
途中わかったことだが、Hは無免許運転だった。

警察に止められたらどうするの?と聞いたらいとこの名前と生年月日をだして免許不携帯で逃げるそうだ。今回同乗してるぼくは免許持ってないぞ・・・どうすんだ?と考え始めたらきりがなかったので目をつぶった。


そしてランドローバーは、Kの社員のローンで買わせて踏み倒してるということもわかった。とんでもない魔窟のようなところへ来たもんだ・・・とちょっと頭の整理が必要だなと思って引き返したい気持ちになっていった。

約5000坪の敷地に2つの大きな倉庫が連なってユンボやトラックが止まっている。倉庫は縦に長く、周りは海に囲まれている人口島だった。

潮の匂いに混じって腐敗したゴミの匂いが鼻につく。

倉庫の搬入口に行き中を見るとぼくは鳥肌がたった。

倉庫の天井一杯に端から橋まで『ゴミ』が敷き詰められている。

「これはすごいね・・・」と声を失ってると。

「これは東北の『震災ゴミ』で、ここは中間処理場。」

津波で流れた廃材や家庭ゴミなど分別されずごちゃ混ぜになってそこに詰め込まれていた。

総額4億円分の『震災ゴミ』だ。

前経営者が、ゴミの処理代をもらい東北のゴミを受け入れた。処理代にはもちろん最終処分場までの経費が含まれている。ざっと計算すると、トラック1台につき12万円で処分費が6万円で残りが利益になる。一日数回の往復をして最終処分場に納品するのだ。

それが処分されず、前の経営者は4億分の処理費をもってそのまま夜逃げしてしまった。

そうして倉庫に放置され、北九州市は市の予算をつかって処分することになった。そうしてそこに目をつけたHは、この中間処理場の経営権を奪取したわけだ。

しかしその奪取にそれなりの金がつぎ込まれおそらく金がショートしたのだろう。長期的な金の運用にむいてる奴じゃないので、そこでHは、Kに相談したら僕に行き着いた。僕がKの会社を取得した経緯をHに話して資金調達を手伝わそうと考えたのだろう。

HとKも散々ババァに食わされて、同じく食ってきた共存関係にあった。

僕は、こういった商売が大好きだ。

両替商みたいに右から左に移動して1円利益を出すような商売が好きだ。
『震災ゴミ』『中間処理場』ゴミを見た瞬間に欲しくてたまらなくなってきた。

それも相手が、因縁のHとなると面白い勝負だなとその時おもった。

すってんてんになるか0になるかマイナスになるだろうしプラスにするイメージは湧かなかった刺し違えてもいいから奪取することだけを考えることにした。

「先輩、俺こんな汚い場所の商売嫌いなんよね。先輩好きやろこんな商売」

「そやな、そんでいくら必要なんや?」

「1500万で俺の株式分を売りたい。けどここに債権が2億くっついててそれを処理せなあかんのやわ。それ込みで考えて欲しい。」

「けど運営費とか含めたらそれなりに現金いるやろ?2億3000ぐらいか?」

「稼働始まったら、現金毎日でる商売なんや」

「そうかわかった、ちょっと時間くれるか?」

「2月の半ばまでに用意してほしい。」

「わかったちょっといろいろ調べるけどええか?」

そうして2億の債権と株式取得1500万と運営費1500万を用意する段取りと様々な根回しに動くことにした。そして韓国へ戻らずまた滞在を延ばすことにした。

Hと話すと頭がぐるぐるする。

どれが本当のことなんだ?と訳がわからなくなっていく。

一度博多へ戻り、とある一報がババァからくる。

「Kの会社が差押えられた。」

先日金を送り込んだのに、差押えを食らう。
案の定Kの会社は債務が膨らみ続けてたのだろう。
加えて、一度も訪れたことのない事務所が退去させられることになった。

これで時間の猶予がない泥沼劇が始まった。

つづく

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