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秋の日のヴィオロンの溜め息の

夜、次の予定の前にぽっかりと時間が空いたので、フランソワ・オゾン監督の新作『婚約者の友人』を観た。

シネスイッチ銀座で映画が終わるのが21時5分。汐留に21時半前には着きたかったので、歩くとギリギリかなとちょっと迷い、ほかの映画も探してみた。けれどやはり無理をしてでもコレだな、と。オゾン監督の映画は静かな語り口で押し付けがましくない。毅然とした強さがある。襟を正すような作品が多い。今日はそんな映画が観たかった。

1919年、戦後まもないドイツが物語の舞台。
婚約者を戦地で亡くした若い女性が、彼の墓の前で涙するフランス人男性の存在に気づくことから、物語は始まる。

ヴェルレーヌの詩『落葉』が印象的に使われていた。

秋の日の ヴィオロンの溜め息の
身に沁みて ひたぶるにうら悲し

字幕では直訳していたけれど、わたしには上田敏の訳しか浮かばない。ほんとうは『秋の歌』というタイトルらしいけれど『落葉(らくよう)』のほうがずっといい。

この詩はこの映画にとても呼応して、主人公アンナの心模様を端的に、美しく表現していたと思う。

モノクロとカラーが交錯する映像は効果的といえたかどうか、そこは少し微妙な気持ちはしたけれども。

ラストはわたしの好きな終わりかただった。
今も焼きついている、彼女の凛々しい顔。
きりっとしていて、素敵だった。

追伸。いい映画です。謎はあまり謎ではなかったので、謎とかミステリーとかそういう期待はせず、フランス映画の佳作を観るつもりで映画館へ。

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