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初めての “sea”顛末【前編】

冬晴れの日曜日。
仕事で初めて『東京ディズニーシー』へ。
慣れないリュックを背負いながらも、意気揚々とディレクターやカメラマンとのロケハンに同行した。

わたしはなるべく現場へ行って、自分の目で確かめてから原稿を書きたい。ふつうはロケハンには作家は同行しないのだけれど、可能な限り行くことにしている。

やはり行って良かった。
取材だったので、アトラクションにはほとんど乗らなかったものの、ランドとの違いや、大人にも愉しい『夢の国』であることを実感できた。

スタッフたちと一通り回り、夜に解散。
お土産を少しだけ買って、さあ帰ろうと『Exit』を出て、舞浜行きのステーションへ歩き始めた途端、はっとして立ち止まった。

背中にリュックが、ない。

携帯と地図とお土産の袋は持っている。
だが、肝心のリュックがないのだ。
財布も小銭入れもパスモも、全部入っているリュックが。

すぐに、出口近くのトイレに忘れたと気づいた。
慌てて引き返す。しかし、再入場のスタンプを手の甲に押してもらっていないため手間取ってしまう。「忘れものをしたんです!大切なものが入ったリュックなんです!」
何時に入場したか確認され「次回からはスタンプを」と優しく諭され(ハイそうします、不測の事態に備えて必ずスタンプ押してもらいます!と心に誓い)、なんとか中へ。

先ほど出たばかりのトイレへ駆け込み、空いているドアを片っ端から開けた。だが、どこにもない。まだ中に入っている人もいる。とにかく全部確かめなければと閉まったドアの前で焦っていると、若いお母さんに声をかけられた。
見覚えがあった。
たしか、わたしがここを出たあのときに、赤ちゃんのオムツを替えていた人だ。

(つづく)

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