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SailGPピットからの景色7

7チームが各国代表として世界を転戦しながら優勝賞金100万ドル(約1億円)を懸けて戦うヨットのプロリーグ「SailGP」。時速100kmで走る船のちょっとマニアックな内容を数回に分けてお届けしたいと思います。

今回のテーマは「F50に乗った!」です。

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「キィーーーーーン」

戦闘機の様な音を立てながら疾走する船は全てが目から鱗でした。

この船に乗った感想はヤバいとかスゴイとか、そんな薄っぺらい言葉しか出て来ません。語彙力が無いっていうのもありますが、スピードも迫力も何もかもが衝撃的過ぎて言葉が出てこないんです。

特にGが半端なくてジェットコースターより怖いし、いつダガー(水中翼)が空気を噛んで浮力を失って落ちるか分からないという恐怖感もあります。

そんなモンスターマシンに乗るチャンスがやって来たのでシドニーで6番目のスポット(予備クルーやゲストが乗る場所)に乗せてもらいました。

F50概要

ワンデザイン
全長: 15m(50フィート)
幅: 8.8m
ウィング: 24m(スタンダードサイズ)
クルー:5人(ヘルムスマン、ウィングトリマー、フライトコントローラー、グラインダー×2)
体重制限: 438kg ( 1人平均87.5kg)
最大スピード: 時速96.3km +
搭載カメラ: 3つ
搭載マイク: 3つ

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前からグラインダー2人、フライトコントローラー、ウィングトリマー、ヘルムスマンの5人でマシンを動かします。

海上では体感速度が2倍になるので時速200km!

時速100kmは秒速に直すと約25mなので単純に計算して100mを4秒で走り切る事になります。つまりレース中に何か迷いがあれば考えている間に何百メートルも進んじゃうのです。

ちなみに、江の島ヨットハーバーから葉山マリーナまで7.4kmありますが計算すると4分ちょっとで着いてしまいます。速い!

改めて「風だけで」走っているんです

どうやって浮き始めるの?

水中翼によって水面から船体を浮かせるというのはご存知かと思いますが、浮かせ方がありそれによって加速度が変わってきます。日本チームもそうですが上手なチームは浮き始めからトップスピードになるまでがめちゃくちゃ早いという事が観察していてよく分かりました。

ディンギーのカタマランに乗った事がある方は分かると思うのですが、片方のハルが浮くと抵抗が少なくなってスピードが上がります。下の写真で言うと②の状態。

そこから更に飛ばすキッカケを作る為に少しベアーしてスピードをつけたら一気にラフします。

そして、③の状態で飛び始めます。ここまで来ると水中翼による抵抗しかないので飛躍的に加速し始めます。

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首が折れそうになるくらいGを受けるのはタック中。下の写真の様にタック中は足でしっかり踏ん張らないと吹っ飛んじゃいます。
↓こんな感じ。

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また、タックは極端にスピードが落ちる動作なので一気に回頭させないとハルが水面に浸かり遅くなってしまいます。ギュイーンと約4秒間の間に回すのでGが半端ないのです。

内輪差、外輪差が大きく関係する?

カタマランは車と同じ様に内輪差、外輪差があります。

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上記のイラストで例えると、ポートからスターボにタックする時、内側の水中翼(赤線)は外側の水中翼(青線)よりも短い距離を走るので、水流のスピードが遅くなります。

よって、青線の外側の水中翼の方がより速い水流を受ける事になるので浮力が大きくなります。つまりタックやジャイブ、マーク回航など大きくカーブする時は左右の水中翼で浮力が違う為、迎角を船の回頭に合わせてあげなければバランスを崩してしまうという事になります。ここはフライトコントローラーの腕の見せ所です。

飛ばすキッカケもこの特性を利用しています。

動画で見る限り安定して走っているように見えますが、頑張ってバランスを取っているのです。

移動は忍者の様にササっと!

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両サイドを移動する時はダッシュ!

タック、ジャイブの時はまずエイデン(ウィングトリマー)とティム(グラインダー)の2人がダッシュで反対側に移動してきます。1人はウィングの前から、1人はウィングの後ろから移動して準備完了。ネイサン(スキッパー)が足もとのフットスイッチでダガーを降ろすと船を回し始めます。

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↑この写真をよく見てください。前にいるティム(グラインダー)はまだグラインド出来る体制になっておらず、先にフライトコントローラーを握っています。これは次に上がるダガー(次に風上側となる方)の迎角をコントロールをしているからです。

この後、スキッパーのネイサンとグラインダーのゆうきさんがダッシュで上側に移動して来てウィングトリマーがコントロールしていた舵を「マイウィール」と言ってネイサンが取ります。

レオ(フライトコントローラー)は最後まで残り、安定した走りになったと判断してから移動して、反対側の新しいコントローラーを操作し始めます。

見た感じ、フライトコンローラーが移動するタイミングが難しそうでした。しっかり安定した状態でないと焦って移動してしまえばフラフラして失速してしまうからです。

タックやジャイブなどの動作が多い場面ではチームワークがめちゃくちゃ大事だなと感じました。

あれ?ネイサン余裕?

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このネイサンの様子見て「めっちゃ余裕じゃん」ってそっちにビックリしました。

凄いスピードで走っているのに楽な体制で、しかも片手で操作しながらたまに後ろを注視。え!こんな感じなんだ、、、と。

しかもネイサンは常に平常心を保っていて、チームメイトとのコミュニケーションも平常心。まだ取り乱しているネイサンを見た事はありません。

この余裕が強さに繋がっているのかもしれません。

しかも、次に何が起こるか相当先まで予測していていてそれが当たるし、自分が走ったコースに加えて誰が何処で何をしていたかまで覚えてる。それに、何てったってバランス感覚が半端ない。

後ろに乗せてもらって改めて凄さを実感させられました。

今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。

次回もお楽しみに!




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