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システム思考:賃金は衛生要因ではないのか(間違ったメンタルモデル)

■メンタルモデル

 メンタルモデル(英: mental model)とは、頭の中にある「ああなったらこうなる」といった「行動のイメージ」を表現したものである。

単純な例として、「野生動物は危険だ」というメンタルモデルがあるとする。このメンタルモデルを保持する人は、野生動物に遭遇したとき反射的に逃げようとするだろう。これは自身のメンタルモデルを適用した結果であり、野生動物に対するメンタルモデルが形成されていない人や違うメンタルモデルを保持している人はこのような反応はしないと考えられる。

Wikipediaより

 このメンタルモデルはシステムダイナミクスのフィードバックプロセスの重要な要素となっている。最も単純なプロセスのループは「意思決定」→「現実世界」→「情報フィードバック」→「意思決定」を繰り返すことである。

 その時、メンタルモデルが変わらない限り意思決定のルールは変わらず、従って意思決定も同じことを繰り返す。

■加速する賃金アップの対応

 2023年春。今年の春闘は「賃上げ」がテーマであり、人手不足への恐怖であろうか満額回答をする企業が多い。

○JR西日本、初任給最大30,000円引上げ ベアも3,000円
2023/03/14
https://raillab.jp/news/article/29134

○サッポロビール、5.7%賃上げ ベア9千円、過去40年で最高額
2023/03/09
https://nordot.app/1006483738692190208

○日高屋、新卒初任給の引き上げを決定 3年連続ベースアップ実施で過去最高の引き上げ額
2023.03.09

 ハイデイ日高は今回のベースアップについて、「社員ひとりひとりが安心して働ける環境を整える為に実施します」と説明。正社員を対象に、全体で5%弱(1万3000円~1万5000円)となる。定期昇格による給与の引き上げを含めた昇給率は全体で5%強となり、最大45万円の特別感謝金(2月28日支給済み)を含めると昇給率は、全体で6%強となると発表している。

https://encount.press/archives/427854/

○【春闘】サントリーHD「満額回答」 平均7%の賃上げ 一律1万円のベア 大卒初任給も26万円超
03/08

 新浪社長は「未曽有の物価上昇から社員の生活を守るとともに、さらなる成長のモメンタムにつなげていきたい」とコメントしています。

https://www.asahi.co.jp/webnews/pages/abc_18754.html

○島津製作所、正社員対象に5・7%賃上げ…大卒初任給24万5400円に
2023/03/06

 島津製作所は6日、今年4月から正社員を対象に平均5・7%賃上げすると発表した。大卒と大学院修士修了の総合職の初任給もそれぞれ2万5000円引き上げ、大卒は24万5400円、修士は27万340円となる。物価高への対応とともに、優秀な人材確保につなげる狙いがある。

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230306-OYT1T50147/?from=smtnews

 彼らのメンタルモデルは
 ・給料が上がれば社員はやる気を出し生産性が上がる
 ・給料の高い会社に優秀な人材が集まる
と言うものだろう。
 本当か?

■衛生要因

 給与は「衛生要因」だと言われている。

(1) 彼らの職務満足の決定的要因となるものは,自己実現欲求の充足を可能とする,達成,承認,仕事そのもの,責任,昇進といった事項であり,
(2) これに対する「不満要因」に,会社の政策と経営,監督技術,給与,対人関係,作業条件などの事項があるとするもの

この2種の要因のうち後者の「不満要因」を,それが職務不満を防止する役目をもちえても,真に職務満足を引き起こすことはないとするところから精神的な「衛生要因」と呼び,前者の「満足要因」を,それらが個人をよりすぐれた職務遂行と,そのための努力へ動機づける効果をもつことから,「動機づけ要因」と呼んでいる。

コトバンクより

 一言でいえば、給与が一定水準であるコトは当然のことであり、これが上がることは一時的には士気の向上につながるが長続きしないと言うことだ。
 したがって、下記の論点は正しくないことが分かる。

○イオン、パートと正社員の待遇同等に 賞与や子育て手当
2023年3月15日

イオンは、パート従業員の待遇を同じ業務の正社員と同等にする制度を始めた。正社員のみに支給していた退職金や賞与、子育て支援の手当などについて、働いた時間分をパートに支給する。同じ働き方をしている正社員とパートの待遇格差をなくすことで、従業員の士気向上などにつなげる。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC150V90V10C23A3000000/

■メンタルモデルの変更

 上記のメンタルモデルへの反論は以下のとおりである。

・給料が上がれば社員はやる気を出し生産性が上がる
 給料を上げても生産性は上がらない。
 生産性はプロセスの変更がなければできない。
 仮に報酬を上げて生産性が上がるのであれば、それは一時的なものであり、今までサボっていたか、今ムリをしているかのどちらかである。

・給料の高い会社に優秀な人材が集まる
 これは、今いる従業員は優秀で無いといっているようなものである。侮辱以外の何物でもない。
 また、他社に比べて圧倒的な水準でなければ優秀な人事は集まらない。GAFA並みにできないなら期待できない

と言うことになる。従って、賃金の上昇に臨むメンタルモデルは
・他社が賃金アップと言っているのに当社がしないと従業員の不満足が高まる
・不満足が高まると、言われたことしかしない従業員が多くなり生産量も変わらない
・したがって会社の成長が望めない
と言ったところだろうか。

 また、従業員の士気が気になるのであれば、
・それはやりがいのある仕事なのか
・仕事を進める環境を会社は用意しているのか
・仕事の達成に対して十分な報償を与えているのか
を見直し、それを含めたメンタルモデルを作成しなければならない。

<閑話休題>

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