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戦略人事:バズワード化している“ジョブ型”と言う言葉(1/2)(企業の本音の所在)

■ジョブ型と対比される「パートナーシップ型」

この対峙はどう考えるべきか。

企業が業務を遂行させるためには、階層的ないし決定システムと統治システム、役割と権限をバリューチェーンなどによる機能分化、ある程度の自由は与えるものの標準的な行動を担保させるための規範が必要になる。それはどのような企業でも同じであろう。

これらを行なわさせるための規範は、ある程度の融通性を持たせた組織にするか軍隊のように細かく役割を設定するかは、その有事の程度で決まってくる。いつもガチガチに設定していては何もできないマンパワーが発生するのであるから、いわゆるパートナーシップ型の方が優れている。余剰人員の自由配置ができるからだ。

しかし、これは、その人材のパフォーマンスを有効に使う点では非効率である。考えてみれば当たり前である。100以上の仕事を強制されてもそれができなければ、それ以下80程度のパフォーマンスしか出せ無いであろうし、100のパフォーマンスを持っていても80のパフォーマンスですめば、パフォーマンスの無駄が生じる。

これが今の企業人事の課題なのであろう。
すなわち人事戦略の根幹思想が曖昧さの中にある限り、すなわちパートナーシップ型ではパフォーマンスが出ないと言う危機感があるのではないか。

しかし、これは論点がおかしい。
パートナーシップ型では職務(ジョブ)が明確でないからパフォーマンスが出ないというのであれば、その客観的な事実が欲しい。では分かっている事実(らしい)ものは何だろう。

■能力の反映、職務の曖昧さ

よく云われるのは、年齢とともに自動的に上がる給与が能力や業績を反映されていないのではないかという批判があるが、これは誤解である。確かに一定程度昇給はあるが、これはライフステージを配慮したベーシックインカムである。能力を発揮し、成果を上げれば昇格(一般→主任→係長・課長)は早くなるし抜擢もある。号俸制であっても昇給幅が早い遅いはあるし、等級のアップもある。能力があり成果を出していれば評価される仕組みはあった。
また、職種についても適性がなければ変更も可能であっただろう。

職務をジョブと訳しているようだが、これも誤解を招きかねない。
企業の組織は機能分化しており、多くはバリューチェーンが基本であろう。その中での部門では役割は決定されており、多くは企業が設けた目標に向かって社員は活動する。彼らもまた、部門内の機能分化の中で役割が決まっており、何をすべきかが曖昧なことはあり得ない。

ただし、人数が限られており、また繁閑の程度が異なる以上、多能工化は求められ一人何役もこなすことは組織要請として発生する。こうしたことは実際に行なわれており、パートナーシップ型での利点でもある。ジョブ型にすれば解決できることではない。

仕事の進め方の効率性は、その仕事の特性であろう。しなくてもよい仕事はしない、誰かに任せることができるなら任せる、IT技術で効率化できるならそうする、などは人事制度とは関係ない。

上位階層の人間が方向性を示すことができず怒鳴り散らすだけでは目標は達成できないだろう。ハラスメント対応は人事制度とは関係ない。

これが私が知る事実である。
これの何が問題なのか。

■企業の本音を知る

企業や行政は「ジョブ型」をどのように見ているのだろうか。それを垣間見える記事と資料がある。

○ジョブ型人事指針まとめる 内閣官房
2024.09.10

内閣官房と厚生労働省、経済産業省は連名で、すでに“ジョブ型人事”を導入している企業の事例をまとめた「ジョブ型人事指針」を公表した。

 富士通㈱や㈱日立製作所、㈱リコーなど20社の制度について、それぞれ導入の目的、導入範囲・等級制度・評価制度・報酬制度など制度の骨格、採用・人事異動・キャリア自律支援・等級変更などの雇用管理制度を整理した。人事部と各部署の権限分掌の内容や導入プロセスについても紹介している。

https://www.rodo.co.jp/news/182335/

この中で参照されている資料は下記である。

○ジョブ型人事指針 令和6年8月28日 内閣官房 経済産業省 厚生労働省
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/jobgatajinji.pdf

この資料の冒頭に下記の記載がある。

日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進める。

従来の我が国の雇用制度は、新卒一括採用中心、異動は会社主導、企業から与えられた仕事を頑張るのが従業員であり、将来に向けたリ・スキリングがいきるかどうかは人事異動次第。従業員の意思による自律的なキャリア形成が行われにくいシステムであった。

個々の職務に応じて必要となるスキルを設定し、スキルギャップの克服に向けて、従業員が上司と相談をしつつ、自ら職務やリ・スキリングの内容を選択していくジョブ型人事に移行する必要がある。

従来の制度では、ⅰ)最先端の知見を有する人材など専門性を有する人材が採用しにくい、ⅱ)若手を適材適所の観点から抜てきしにくい、ⅲ)日本以外の国ではジョブ型人事が一般的となっているため社内に人材をリテインすることが困難、との危機感が日本企業から提示されている。日本企業の競争力維持のため、対応を図る必要がある。

(ここまで)

社員は与えられた仕事だけをするわけではなく自身のキャリアデザインも無視しているわけでもない。企業の訴求力が無ければ人材は集まらず、社員にだけおねだりする企業に明日はない。これは人事制度の問題ではなく企業戦略の問題である。冒頭からピント外れである。

しかし企業はどう思っているのかを知ることは重要であり、その意味では有益な資料であろう。

■リコーを事例として

上記の資料の中でしか分からないので、錯誤があるかもしれない。まずは個人の感想として。

事例としてリコーの記述で、やはりその冒頭で以下の記述がある。

(デジタルサービスへの転換に向けた3つの課題)
〇株式会社リコー(以下「リコー」という。)は、事務機器・OA(オフィスオートメーション)を主力事業としてきたが、2020 年に「デジタルサービスの会社への変革」を宣言。本社機能の変革や、事業の取捨選択等の経営改革を推し進めている。
〇組織の変革を目指すにあたっては、従来型の職能基準の資格制度がボトルネックになっていた。同社が抱えていた課題は以下の3つ。
① 高い管理職比率
② 年功的な配置と登用
③ 若手のやる気減退
〇新たな人事制度の在り方として、特に重視したのは以下の3点。
① 過去の実績ではなく、現在の実力と意欲によって抜擢され、活躍できるようにする
② 難しい仕事へのチャレンジや、会社への貢献度が高い人が報われるようにする
③ 適所適材を実現し、柔軟なポジションオン/オフができるようにする

(ここまで)

今の人事制度を変えることが組織変革のきっかけになるという考え方は安易であろう。
また、資料の中でこれに続く人事制度の内容は、従来から進められている職能資格制度の焼き直しである。ジョブ型とは関係ない。社員との対話をどうするかを無視して会社都合だけでいろいろな制度をいじっている。

こうした企業側の自己都合は、業瀬kに対する責任をしっかり取らず人的資本を調整弁にする傾向に見え隠れする。

○リコー、国内外の2000人削減 事務機縮小受けDXに集中
2024年9月12日

リコーは12日、2025年3月までに国内外で2000人の人員を削減すると発表した。連結従業員の3%に相当する。オフィス向け事務機の営業部門や保守メンテナンス、管理など幅広い部門が対象となる。事務機市場がペーパーレス化で縮小するのをにらみ、オフィス業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援に経営資源を集中する。

24年3月末時点の連結従業員数(7万9544人)の3%程度を減らす。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC06ACB0W4A900C2000000/

■経営課題としての解雇権

上記で指摘されている
① 高い管理職比率
② 年功的な配置と登用
③ 若手のやる気減退
は、伝統的な大企業であれば多少の違いはあるが共通した悩みであろう。
これを、構造的に変革する一番の早道は、「若手以外の社員」のリストラであろう。(それが若手社員の不信を招くとしてもだが)

これへの後押しを政策に求めている影がちらつく。

○小泉進次郎氏、「クビを切りやすくなる」とかつて批判された解雇規制緩和に前向き 自民総裁選、候補者間には温度差
2024年9月14日

企業側の都合による「整理解雇」は(1)人員削減の必要性(2)解雇回避の努力(3)対象者選定の合理性(4)手続きの妥当性―の4要件を考慮しなければならない。小泉氏は、大企業にリスキリング(学び直し)や再就職支援などを課すことで、4要件を満たさなくても解雇しやすくする考えだ。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/354078

社員はレゴのブロックではない。
古くなったからと云って捨ててよいものでもないし、彼らの都合を何も聞かずに離散・集合を自由にしてよいわけでもない。労働契約を無視してもよいわけでもない。

○“生粋の技術職”に突然「総務課」への異動命令…「これってあり?」 職人の訴えに最高裁が出した“画期的な判決”
2024年09月17日

これまで日本では、長期雇用システムの下でさまざまな職種をローテーションさせて従業員を育成する(いわゆる「メンバーシップ型雇用」)という色合いが濃かったので、職種限定の合意は簡単には認められなかった。(日産自動車村山工場事件:最高裁 H10.9.10、九州朝日放送事件:H1.12.7など)

しかし、これからはXさんのように、特定の技能を持つことを前提に採用される「ジョブ型雇用」が浸透してくると考えられる。そうなると、本件と同様に職種限定の合意が認定されるケースが増え、会社は従業員に対して他職種への配転命令は出せなくなるだろう。

https://www.ben54.jp/news/1502

業績の悪化や試乗のみ誤りは経営者の責任である。社員を交代させる前に経営者を交代させるべきである。

ジョブ型を語るのであれば、解雇はしないという表明をして欲しい。

■処方箋

そもそも今の企業の人事戦略の何が問題なのだろう。多くの記事や資料が示唆しているのは
・企業のパフォーマンスが上がっていない。そのために人的資本の組み替えをしなくてはならず、簡単にリストラに逃げるしかない。
・しかし、それは人的資本が安定化しない事につながる。業績の不安定さ、安易なリストラで高品質の人材が大量に獲得できるというようなマジックはない。

したがって、人的資本に対して誠実である事をブランドとして確立しないと人材市場からの信頼を確保できないと考えるべきである。

人的資本開示は資本家だけの話ではない 社員への訴求力としてもじぃいすべきである。採用面だけでなく離職防止にもつながるであろう。

その上で、選択肢の伏線化を考えて欲しい。
すなわち組織の目標と個人の目標のすりあわせの機構(システム)を構築し、ジョブ定義はそのために使う。そのジョブの遂行のための組織支援をどうおこなうのかを検討し、リスクリはその延長線上にある事を理解し政策に反映させる。

戦略人事のグランドデザインを作成することだろう。
アクターとして社員、組織(機能)、市場・顧客の関係性を整理しないままのジョブ型人事の議論に危うさを感じる。

2024/09/19

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