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晴耕雨読:「学習する組織」(組織は個の集団である:第10章 共有ビジョン)

■はじめに
 ピーター・センゲの「学習する組織」(邦題)は原書名を表していないし、誤解を招きかねない訳である。この本は、私の見る限り、企業がその競争力を維持するためのヒントを示した本である。ノウハウ本でもなければ技術本でもない。
 散文的に話題がちりばめられた本書は難解であり、その取り扱いには悩むだろう。
 それでも、この本は経営革新には以下の事項が必要だと断じている。

(1)「志の育成」
・自己マスタリー
・共有ビジョン

(2)「内省的な会話の展開」
・メンタルモデル
・チーム学習

(3)「複雑性の理解」
・システム思考

 今回は、その中の「共有ビジョン」について確認してゆこう。
 第10章になる。

■序文(P40)での説明

 組織が統一的な行動を取るためには、企業理念から経営理念に落とし込むための、ビジョン・ミッション・バリューが重要であることは、今の経営理論では自明のこととして扱われる。 そこで示されるビジョンは、組織全体が目指すべき姿であり、組織の構成員は皆それに共感すべきである。

- 組織全体で深く共有されるようになる目標や価値観や使命なくして、偉大さを維持し続けている組織はほとんど思い当たらない。
- これまで欠けていたのは、個人のビジョンを共有ビジョンにつなげるためのディシプリン、つまり、「料理のレシピ」ではなく、一連の原則や基本理念だ。

■個人ビジョン

 第8章では「自己マスタリー」の重要な要素として「個人ビジョン」を取り上げている。個人ビジョンを奨励することを共有ビジョンを築く重要な体系としている。それは以下のように記述している。(P289)

「自分自身のビジョンを持っていなければ、誰かのビジョンに「参加」するしかないからだ。その結果は追従であって、決してコミットメントではない。」
「この意味で、自己マスタリーは共有ビジョンを築くための基盤である。」

■共有ビジョンの意義

 では共有ビジョンとは何であろう。本書ではこう説く。(P281)

「共有ビジョンとは「自分たちは何を創造したいのか?」トイウトイに対する答えである。・・・共有ビジョンは組織に浸透する共通の意識を生み出し、多様な活動に一貫性を与える。」

「共有ビジョンは「学習する組織」にとって不可欠なものだ。共有ビジョンがあることによって学習の焦点が絞られ、そして学習のエネルギーが生まれるからだ。」

したがって、個々の人間で構成される組織の統一的な活動を担保するのが共有ビジョンだという。

■上から押しつけるものは共有ビジョンではない

しかし、こうも言う。

「組織は本質的に「高圧的なシステム」である。」(P239)したがって、従来の「企業理念から出発したビジョン」は組織からの押しつけになる。これは共有ビジョンではない

そうして以下のように警告している。(P282)

「共有ビジョンの多くは外発的なものだ。つまり競合他社などの外部tのものと比較した何かを達成することに主眼を置いているのだ。しかし、敵を打ち負かすことに限定された目標は一時的なものだ。ひとたびそのビジョンが達成されてしまえば「手に入れたものを守り、ナンバーワンの地位を失うまい」とする守りの姿勢に転じやすい。そのような守勢の目標が、何か新しいものを生み出す創造性や興奮を呼び起こすことは滅多にない。」

あわせて以下のようにも述べている。
「ほとんどの「ビジョン」は「ひとりの人間(あるいは一つの集団)」のビジョンを組織に押しつけたものである。」
そして
「共有ビジョンは多くの人が心から打ち込めるビジョンであり、それは共有ビジョンに自分自身の個人ビジョンが反映されているからだ。」と述べている。

■共有ビジョンの生成の要諦(P289-P307)

そして、共有ビジョンを構築する上での要諦として以下を上げている。
・個人ビジョンを奨励すること
・個人ビジョンから共有ビジョンに展開してゆくリーダーシップを発揮すること
・ビジョンに基づき、コミットメント・参画ができる組織作りをすること
・ビジョンを一連の経営理念に定着させること

こうしたことの重要性が続く。この章の要であろうが、すべて引用すると長くなるので実際に読んでほしい。

■組織がすべきこと

しかし、ここで改めて自己マスタリーで指摘した重要な概念「創造的緊張」、「真実に忠実であること」が述べられている。(P307)

「学習する組織の証は、ふわふわ中を漂う美しいビジョンではなく、自分たちのビジョンに照らして「今どうなっているか」を徹底的に吟味しようとする積極的な姿勢だ。」

「自己マスタリー」の章の最後に組織がすべきこととして以下が挙げられていることを思いだそう。
・メンバーが安心してビジョンを描くことができる組織を構築すること
・異議を唱えることが期待されている組織を築くこと

「志の育成」として「自己マスタリー」と「共有ビジョン」について確認してきた。
次回は「内省的な会話の展開」として「メンタルモデル」について読み解いて行く。

<続く>

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