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ISO9001と経営:撤退基準がないという欠陥(ラピダスに思う:6.1 リスク及び機会への取組み)

■失敗するまで続ける性癖

「サンクコスト効果」という言葉がある。「すでに支払ったコストに気をとられ、合理的な判断ができなくなってしまう心理効果」を指す。平たく言えば「ここまでやったのにここまでの苦労を無駄にするのか?」という圧力です。

こうした無責任な発想があるために、取り返しのつかないところまで突き進み、結果として、その他の事業を巻き込んで会社を傾けると言うことが良くある。

ISO9001ではそれを防げないのかと言えば、ヒントはないにしても、やはり難しい

○6.1 リスク及び機会への取組み
6.1.2 組織は,次の事項を計画しなければならない。
a) 上記によって決定したリスク及び機会への取組み
b) 次の事項を行う方法
 1) その取組みの品質マネジメントシステムプロセスへの統合及び実施(4.4 参照)
 2) その取組みの有効性の評価
リスク及び機会への取組みは,製品及びサービスの適合への潜在的な影響と見合ったものでなければならない。

すなわち、「何かに取り組むときには、それがうまくいったかどうかを判断できるように、望ましい結果と得られた結果を比較して、大きな差異があるようならば改善しなさい」という文脈はあるのだが、十分ではない。

■撤退基準を配慮しろという要求事項がない

現在進めている事業や生産を、どのような状況になったら辞めるのかをあらかじめ決めることを、大枠では撤退基準という。

あらかじめ「こういう状況になったら撤退・中止する」と言うことを決めておかないと、致命的になるまでその状況を放置することになる。もっと不味いのは、失敗することを予測しないで最後まで事業を続けるので、失敗した原因を探り、再発防止・反省ができなくなる。

なぜならば、失敗した原因は、「撤退できるときに撤退しないで傷を広げたこと」なのだが、多くは「撤退すべき状況になったこと(例えば資金不足、市場へのリーチの失敗など)」をあげつらう。それでは、撤退できないで最後まで突き進み、会社を傾けた理由に至らず、再発を繰り返す。

下記の記事をそう言う眼で読むと、「ラピダス」は、幸運がとても必要だと言うことが分かる。

○国産有機EL 「日の丸」再編の失敗検証せよ
2023/04/20
 経済産業省が推進した「日の丸連合」による電機業界の再編は、失敗続きだ。その理由を検証して、今後の産業政策に生かさねばならない。
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20230419-OYT1T50213/?from=smtnews

○TSMCでも2nm量産準備に5年、ラピダスの27年量産開始に疑問符
2023.02.27

 ラピダスが短期間でTSMC並みの量産技術を習得することは極めて難しいと言わざるを得ません。理由は2つあります。(1)先端半導体の量産までにかかる期間、(2)サムスン電子との比較――です。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02258/021300013/?n_cid=nbpnxt_goad_res_2304_005&gclid=Cj0KCQjwi46iBhDyARIsAE3nVrYmFmLygrJlRIncW0Zy2Ffmog3I7NK30uzHK3rowq-Vrfx3uiF83h8aAs4dEALw_wcB

(参考:会計実務から考える撤退基準は下記を参考)
○撤退マネジメントとその会計実務 第2回 事業撤退基準・ルールの設定
https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/finance/rs/jp-rs-management-withdrawal-02.pdf

■私的な感想

どうも日本人は「失敗」と言う言葉に極端に嫌う性癖を持っているのではないだろうか。失敗=悪という構図でものを見るから、引き返せないという発想につながるような気がする。

そして、「失敗=悪」であるために、その事実を無視する傾向がある。そのために、反省すると言うことをしない。多くの政府の取り組みが、同じようなことを繰り返すのはそのためではないか。

と感じてしまう。

<閑話休題>

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