世間に転がる意味不明:取り残される中小企業【2】(日銀の金融政策の恩恵はあったのだろうか)
最近の出来事を「中小企業」という視点で整理してみた。
あくまでも個人の感想です。
■トリクルダウンの欺瞞
2024/03/22現在、2024年春闘で大手企業での賃上げが行なわれていることは周知のことであろう。まだ中小企業についての趨勢については報道されていないが、一つはこれに追随しなければヒトの調達が難しいこと、二つ目は賃上げしようにも原資の確保が難しいことは、簡単に賃上げの波に乗れないことを示唆している。
そうした中でのマイナス金利の解除の動きは欺瞞に満ちている。
○日銀、マイナス金利解除で最終調整 高水準の賃上げ確認
2024年03月15日
日銀は18、19両日に開く金融政策決定会合で、マイナス金利政策を解除する方向で最終調整に入った。15日に連合が公表した2024年春闘の回答集計で、前年を大幅に超える賃上げ動向を確認。2%の物価上昇目標の持続的・安定的な実現が見通せる状況になったとの見方を強めている。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024031500869
元々、マイナス金利とは民間銀行が日本銀行に預けるお金の一部に、マイナス0・1%の金利を適用する政策をさし、 お金を預けると利子をもらえるのが普通だが、マイナス金利では逆にお金が減ってしまうことになるので 短期金利を低く抑え、企業や家計がお金を借りやすくする狙いがあるとされている。
実際そんなことはなかったことは無かったことは明らかであろう。こうした政策が続いていても、賃金は中々上がらず家計が苦しい状況が続いていることや、中小企業の苦しい経営状況が続いていることは明らかである。
それは、中小企業白書などを見るとコロナ渦を過ぎたことで若干の景況感は戻っているものの中小企業での資金繰りが改善されていないことが読み取れる。水準は回復したものの資金繰りDIの推移は低下傾向にあり、資金繰りに悩む中小企業は依然として多いと考えられる。
参考:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/index.html
結局のところ、安倍政権下で主張されたトリクルダウンの政策が思うようなお金の流れを生み出さなかった。それは単に大企業をぬるま湯に浸して優遇していただけである。
○経団連会長「『ぬるま湯』は終わった」 マイナス金利解除
2024年3月19日
大規模緩和の転換で「ようやくカンフル剤での『ぬるま湯』の時代が終わった」と評した。
正常化に向けて「まずは実質賃金がプラスに転じ、かつ継続していくことが鍵となる」と指摘した。
日本商工会議所の小林健会頭はコメントで「適度な物価上昇は好ましいことで、見直しが2%の物価安定の目標が見通せる中で行われたことを好感する」とした。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA195DG0Z10C24A3000000/
しかし中小企業が取り残されている懸念は一顧だにされていない。
○中小企業の30.9%が「賃上げ予定なし」 大手は待遇改善が進むのに… 城南信金と東京新聞アンケート
2024年3月18日
日銀のマイナス金利解除の見通しについては約3分の2が「関心ある」。また半数以上が「(金利上昇への)不安がある」と回答した。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/315861
■マイナス金利の解除
賃上げが、2024年問題から波及した人手不足対策の結果であり、従って景気との好循環が背景ではないことが明らかである。賃上げも大企業だけの動きである。
○日銀が「このタイミング」でマイナス金利を解除したホンネは? 中小企業の賃上げは出そろってないのに…
2024年3月19日
日銀が今会合で政策の見直しに踏み切ったのは連合による春闘の一次集計で、大企業中心に高い賃上げ率となったことがある。植田氏は会見でこの結果を「重要な判断材料になった」と説明。大規模緩和が始まった当初から日銀が掲げてきた物価上昇率2%も22カ月にわたって達成。この先も安定的に実現することが「見通せる状況に至った」とした。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/316098
理由が欲しかったのだろうマイナス金利の解除に踏み切った。
○日銀 きょうから金融政策決定会合 マイナス金利政策解除検討へ
2024年3月18日
19日の会合では2%の物価安定目標の実現が見通せるかを見極めたうえで、大規模な金融緩和策の柱となってきたマイナス金利政策の解除や、短期金利に加えて長期金利も抑え込む「イールドカーブ・コントロール」という枠組みの変更などについて検討します。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240318/k10014393981000.html
ただし、ETFにより大きな金利上昇は押さえ込まざるを得ず市場も極端な反応を示さなかった。
政府や日銀が目指すところはないかと云えば、岸田政権発足時に口にした「試算倍増計画」であろう。その主旨は
中間層がリターンの大きい資産に投資しやすい環境を整備すれば、家計の金融資産所得を拡大することができる。また、家計の資金が企業の成長投資の原資となれば、企業の成長が促進され、企業価値が向上する。企業価値が拡大すれば、家計の金融資産所得は更に拡大し、「成長と資産所得の好循環」が実現する。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/dabiplan2022.pdf
とあるように、家計が抱える金融資産を市場に流すことで投資の循環を促し、株価の上昇や資金調達のしやすさなどを実現するという構想である。
したがって先進的な設備投資を行い成長に積極的な大企業や投資に余力のある中間層以上以外は配慮されていない。
これは長年の自民党の政治姿勢であり不動の政策の基軸である。そのためだろうか、市場は大きな混乱も無く、これはしばらく続くのだと皆は判断しているのだろう。
■中小企業の資金調達
こうした状況下では一般企業と同じような金融政策は採ることができない。ゼロゼロ融資に飛びついた企業の多くが返済に苦しみ倒産に至っていることはいくつかの記事で確認できる。
○「ゼロゼロ融資」利用後の倒産 2023年は631件で前年の約1.4倍 2020年7月からの累計は1,216件
2024/01/15
2023年の「ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)」利用後の倒産は631件(前年比39.2%増)で、前年の約1.4倍に増加した。2023年は毎月40件超のペースで推移し、3月には集計を開始以来、最多の63件発生した。返済開始を迎え、借換支援も打ち出されたが、業種の幅を広げながら増勢を持続している。
初めて倒産が発生した2020年7月から3年半の累計は1,216件に達した。
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198288_1527.html
日銀政策決定会合でのマイナス金利の解除は中小企業にとって懸念があることが示唆されている。
○借り入れ負担増、企業圧迫 中小苦境、息切れ倒産も―マイナス金利解除
2024年03月19日
日銀のマイナス金利政策解除は、企業経営を圧迫しそうだ。大規模金融緩和策の修正に伴い、金融機関からの借入金利は既に上昇しており、「金利ある世界」の本格到来で負担は一段と増す。原材料価格や人件費の上昇で資金繰りが窮迫する中小企業の苦境はさらに深まり、息切れ倒産の増加が懸念される。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024031900935
こうした中での中小企業の資金調達戦略は下記が考えられる。
①目標の設定
中小企業であろうと健全な財務状況は必須である。自己資本比率、短期借り入れ、長期借り入れの比率の目標値を設定し監視すること。達成できないときには何が原因かを探り対策を施すこと。
②補助金や助成金を活用すること
有名なところでは「ものづくり補助金」がある。一時期より規模の縮小はあるがいまだに活用できる資金調達手段である。ただし、こうした補助金や助成金は老朽化した設備の買い換えや賃金などの運転資金には使えない。あくまでも成長のための調達だと認識することが必要になる。
③金融機関との健全な関係性を築くこと
自己資本だけでは如何ともしがたいときもある。
通常の金融機関だけでなく行政機関(日本政策金融公庫、中小企業庁)にも配慮し、外部からの資金調達のノウハウを築くこと。突然「貸してください」と云っても相手にされないこともある。無理のない範囲で関係性を構築し続けること。
なお、云うのは簡単であるが中々難しい面もある。しかし一顧の価値はあるのでトライしてみて欲しい。
(2024/03/22)
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