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【MLB】カルロス・コレアのツインズ移籍に繋がったナショナルズの選択

「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺がある。

単なる屁理屈の例えとして使われる事もあるのだけど、要は一見関係のない事象同士でも間接的に因果関係があることの例である。


さて、先日、2021−2022オフのFAの目玉、カルロス・コレアが3年$105Mでツインズと契約した。

コレアの契約に関しては、昨年12月のロックアウト前にコーリー・シーガーがレンジャーズと交わした10年$325Mというメガディールをベンチマークとする見方が多くあり、また、スモールマーケットで”WIN NOW”という雰囲気でもなかったツインズが獲得したという事で、サプライジングなニュースであった。


ただ、ここ数日のツインズの動きから紐解くと、どうもこの契約にはいくつもの伏線があったように思える。


それは2019年末のナショナルズの決断から始まるのである。


本内容はもちろん「風が吹けば桶屋が儲かる」の一例である。ツインズのコレア獲得のみならず、影響があったものを探せばいくらでもある。

ただ、チームにはライフサイクルとリソースの上限があり、各球団の思惑が交錯した中での移籍劇であり、シーズン中の試合とは異なったMLBの面白さが垣間見れると思う。


【2019年12月】ナショナルズがスティーブン・ストラスバーグと契約延長

2019年、今となればパンデミックなんてものはなかった古き良き時代である。

この年ワシントン・ナショナルズはワールド・シリーズを制覇した。

特にチーム関係者、そしてゴッド・ブレス・アメリカの首都・ワシントン市民の自尊感情を一気に高めたのがスティーブン・ストラスバーグの大活躍である。


2005年に本拠地をモントリオールから移転し、エクスポズからナショナルズとして再出発を図るものの地区最下位が続いていた中、2009年にドラフト史上最高の投手と騒がれたスティーブン・ストラスバーグを堂々の全体一位指名。

デビュー当初から過保護な投球制限をしていたものの、あっけなくTJ手術、そして復帰後の2012年は球団初の地区優勝争いをしている中、エース級の活躍をしていたストラスバーグは年間のイニング上限に達し、シーズンの残り試合を欠場。

当時は大きな議論があったが、ストラスバーグの輝かしく眩しくなるはずの将来を考えた球団の断腸の思いの決断である。


そんなストラスバーグが、2019年は大車輪の活躍をしチームは世界一を達成。

その年のオフ、ストラスバーグは契約をオプトアウトし、FAとなった。


同時にナショナルズからFAとなったのはレギュラーサードでWARマシーンと化していたアンソニー・レンドーン。

どちらも、契約にはメガディールが必要であり、ナショナルズとしても両者と契約延長は不可能であった。


結局、ナショナルズは10年間落っことしていた愛のバクダンが爆発し、7年$245Mでストラスバーグと契約。

レンドーンはエンゼルスへ移籍した。


これが始まりなのである。


【2020年〜2021年】ナショナルズの低迷

ナショナルズはワールドチャンピオンになった後、すぐに低迷した。

チームのハートアンドソウルであったライアン・ジマーマンのシーズンキャンセルやレンドーンの移籍、パトリック・コービンの不良債権化、オビ=ワン・ドゥーリトルの不調など様々な要因があるが、何よりもショックだったのがシャーザーと共にローテーションを引っ張るべきストラスバーグが怪我で全く投げられなくなってしまったことである。

この2年間の合計投球回数は30イニングにも満たず、一方で年間$30M以上のサラリーが球団経営を圧迫し身動きも取れない。

2019年のハイパフォーマンスの代償はあまりにも大きかった。

(確かにレンドーンは移籍先のエンゼルスでは期待に比べるとさっぱりである。ただし、2020年はそこそこ働いていたし、昨年も30イニング以上は出場している。)


当初思い描いていた首都ワシントンの王朝は1年にして、崩れたのである。


【2021年7月】マックス・シャーザーの放出

2021年も早々に地区優勝争いから脱落し、ナショナルズは再建に入ると決意。

ナショナルズで二度のノーヒッター、二度のサイ・ヤング賞を受賞した平成の怪物、オッドアイ・シャーザーを7月のトレードデッドラインでドジャースに放出。
チームの低迷だけでなく、その年に契約満了となるこということで、シャーザーのトレードは既定路線であった。


ただ、運命を変えたのがこのトレードに含まれていた、トレイ・ターナーである。


ナショナルズはドジャースからキャッチャーのルイーズ、スターターのグレイという有望な若手選手獲得のため、翌年オフにFAとなるターナーも含めてドジャースに放出。


ドジャースとしては首位ジャイアンツ猛追をしている中で、カーショウが満身創痍であり、プレイオフで勝ち進むためにもゲームチェンジャーとなりうるスターターの補強が急務であった。

また、直前までシャーザーは同地区のパドレス移籍も噂されており、シャーザーの獲得はこの年のトレードデッドラインの大勝利であった。


そんな中、シーズン後半からプレイオフにかけてしっかりと活躍していたのが、シャーザーと共にナショナルズから移籍してきたターナーである。

本来のポジションはショートであるものの、チームにはカーリー・シーガーがいたためセカンドで出場。

メジャーデビュー当初はセンターを守っていた器用さと身体能力を活かし、シーズン中のセカンドコンバートにも順応。

バッティングでも首位打者を獲得し、ビッグネームの揃うドジャース打線の中でなくてはならない存在となった。


【2021年12月】コーリー・シーガーがレンジャーズに移籍

2021年オフ、ドジャースのコーリー・シーガーはFAとなり、10年$325Mでレンジャーズと契約した。

シーガーは怪我に悩まされながらもマイナー時代からの高い期待に応えるように成長したドジャースの生え抜きショートストップである。

ドジャース在籍中にはシルバースラッガーを二度受賞し、2020年のドジャース世界一の際には、ワールドシリーズでMVPも獲得。

打撃力の高いショートで、ドジャースの核となる選手の1人であった。


ただ、ドジャースは同年大活躍したターナーが本来のポジションであるショートに復帰し、走塁も含めて同様の攻撃力が期待でき、シーガーの代替は可能であると判断。


ムーキー・ベッツと13年$390Mという天文学的な契約を結んだドジャースである。当初は契約延長もあったはずである。

ただし、ターナーの予想を遥かに超えた活躍でロスの心を掴んだ事もあり、シーガーは深追いせずにあっさりと移籍してしまったのである。


【2022年3月】レンジャーズとツインズのトレード成立

レンジャーズはコーリー・シーガーだけでなく、前年の2021年にセカンドとての最多ホームランを記録し、MVP投票でも 3位となったマーカス・セミエンを獲得。

今後、中長期的に二遊間が決まった事もあり、それまでレンジャーズの正遊撃手として活躍していたカイナーファレファが余剰戦力となったため、ツインズへ放出。

レンジャーズはミッチ・ガーバーを獲得。ガーバーは2019年に93試合の出場ながら31本塁打を記録し、同年シルバースラッガーを獲得した強打の捕手。フレーミングも優れており、守備力も高い。


【2022年3月】ツインズとヤンキースのトレードが成立

ツインズはカイナーファレファをレンジャーズからトレードで獲得した翌日、同選手をサードのジョシュ・ドナルドソンも含めてヤンキースへトレードで放出。

ツインズはヤンキースからキャッチャーのサンチェスと、サードだけでなくショートも守れるアーシェラを獲得。


ヤンキースとしては昨年トーレスのショートコンバートが失敗し、レギュラーショートの獲得が急務であった。

一方で、マイナーにはボルペというメジャー昇格間近の若手もおり、大型のFA補強は敬遠していた。

そんな中で、ヤンキースはアーシェラをとサンチェスを放出し、カイナーファレファをレギュラーショートとして獲得。


もともと、ヤンキースではサンチェスのトレードは既定路線であった。

チームは、ブロンクスボンバーの先駆けとなった強肩強打のゲイリー・サンチェスに大きな期待をしていたものの、守備面で成長が見えず、コールや田中といったエース級の投手とはバッテリーを組みにくい状況が続いていた。また、自慢の打撃でも長打力はあるものの確実性に欠け、ここ数年は不調。

ヤンキースにはDHに絶対的なレギュラーのジャンカルロ・スタントンが堂々と座っていることもあり、チーム内での起用が限定されていたのである。


ツインズはこのトレードで36歳となるドナルドソンも放出。

2年前にFAで獲得したものの、近年は守備力が低下傾向であっただけでなく、残り$50M近いサラリーを浮かすことに成功した。


ツインズにとって、このドナルドソンの放出はあまりにも大成功だったようである・・・


【2022年3月】ツインズがカルロス・コレアと契約

そして1週間後の3/19。現地は深夜の出来事である。

ツインズがドナルドソン放出で浮いた資金をもとに、3年$103MでFAの目玉選手であったカルロス・コレアと契約。

ツインズとしては2021年のレギュラーショートであったシモンズが移籍、カイナーファレファも放出し空席であったショートストップに球界屈指の選手を獲得することに成功。

また、3年の短い期間なのでリスクも抑えられ、後ろに控える若手有望株ロイス・ルイス昇格のハードルにもならない。

ツインズは、昨年、エースの活躍をしていたベリオスをブルージェイズに放出し、地区最下位になったチームであり、同地区のホワイトソックスが戦力的に頭ひとつ抜けている。

ただし、今シーズンはプレイオフの枠も増え、勝率5割をターゲットにすれば十分プレイオフ出場もあり得る状況である。

ツインズは昨年のシーズン終了後、レギュラーセンターのバクストンと契約延長し、レッズから先発投手のグレイも獲得。

大方の考えと反し、2019年にチームを改革したバルデッリ監督のもと、今季のツインズはプレイオフを本気で狙っていて、その最後のピースがコレアだったのかもしれない。


また、コレアとしても、このオフは他にFAとなったショートの選手も多く、おそらく本人の健康面の懸念もあって思うような評価がなかったようである。

3年契約というものの、選手側に毎年契約破棄できる権利も残っており、今年再びキャリアイヤーを残し、満を持して2022年終了後のシーズンオフに備えようと判断したようである。

(翌オフもスワンソンやターナー、オプトアウトの可能性のあるボガーツなどショートの顔ぶれは粒揃いであるが)



以上がナショナルズから始まるカルロス・コレアのツインズ移籍までのストーリーである。

ツインズはコレア獲得が決定打となり、競合チームへ成長するのか、もしくはこれが黒歴史となり再建モードへ走り、別のチームの快進撃に繋がるのか。


MLBの面白さは、これでストーリーが終わらないことである。

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