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【読書コラム】もはや笑えない冗談 - 『泰平ヨンの現場検証』スタニスワフ・レム (著),深見弾 (訳)

樋口恭介の炎上騒動で、大野典宏がレムの『現場検証』で皮肉を言っていたと書いてあるのを見て、この状況で皮肉が成り立つ小説ってどんな内容なんだろうと気になり読んでみた。

これがめちゃくちゃ面白い。

なぜ絶版? もったいない。

本当に前情報なしで読み始めたので、「泰平ヨン」が名前ということに最初驚く!

どうやら泰平ヨンは宇宙を冒険した過去があり、そのときの記録を出版、有名人になっているらしい。

で、優雅なスイス旅行に出かけたら、詐欺にあって大変なことに、とドン・キホーテの後編みたいなメタ的展開に。

たぶん、その詐欺師と戦う話になるのかと思いきや、偶然出会った謎の歴史学者に泰平ヨンは自分の本の間違いを指摘されでしまうあたりから、もう先はまったく読めない。

なんでも、その間違いが理由で後々、他の惑星から抗議が来て大変なことになるとタイムマシンで判明しているんだとか。

そして泰平ヨンは過去作の内容がどう間違っていたかを現場検証するため、再び宇宙に旅立っていく! と、正直、このストーリーだけでも荒唐無稽で最高だった。

ただ、ここまでは単なるフリでしかなく、本当に凄いのは現場検証パートだった。

現場検証に向かったエンチア星では、原始的な生き方をする勢力と、過度に知性(知精)が発展し過ぎた勢力が、それぞれ異なる社会を築いている。

これが冷戦構造を喩えているのは明らかなのだけれど、当時の状態を揶揄するのではなく、それぞれの成れの果てを描いているので、もはや笑えない冗談。

読みながら『第十四回の旅』という過去作に絡めた仕掛けっぽい箇所がたくさんあり、読む順番を間違えたと自覚はしつつも、面白いので最後まで読み切ってしまった。

いちいち哲学的なので、途中、ストーリーが消えてなくなろうと、そんなことはどうでもよくなるぐらい文字を追うのが楽しい小説だった!





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