歌会は「対話」なのかもしれない

以前もnoteにも書いたけど、ワークショップについての勉強をしている。
いよいよ授業も始まって、やればやるほど「短歌でいつもやってたアレって、こういう効果があるんや」という発見だらけでめちゃくちゃ面白い。

(まだ授業は序盤なので、いまわかってる範囲だけで書く。)

前回学んだのは「対話」の必要性だった。

現代社会ではいろいろな社会問題が複雑化していて、人々の考え方も多様化しているからこそ、対話(話し合い)が必要なのだそうです。

「対話」は、言葉を通じて話し合う中で、自分と相手の考えの差(ズレ)を共有しながら、新たな意味を一緒に創造するような行為だという。(「対話」の定義もいろいろあるようだが、私が1番納得したものを書いている)

これって短歌の「歌会」の形式に近いと思ったんですよね。

歌会を知らない方のために説明しておくと、歌会では、1つの短歌について、参加者が向き合って、自分の意見を出していきます

短歌は基本的に31文字しかないので、いつ・どこで・だれが・どうした を全てが明確にされていることは少ないです。(明確にする必要もない)
限られた文字数で全てを詳しく説明するのは困難なので、必ず「すき間」が生まれ、読み手の解釈も異なります。

その解釈の違いをシェアしあえるのも、歌会の1つの良さだと思っています。作者の意図=正解 ではないので、自分の意図と違う解釈があってもいいんです。

思ってることがそのまま伝わることはほぼ無い」というのも歌会で得られる1つの学びだと私は思っています。

歌会ではどんなふうに短歌を解釈していくのでしょうか。

例として過去に歌会に出したもののなかで、私の短歌でわりと元の意図がわかりやすいかなというものを挙げます。ここではあえて元の意図は書きません。

似合わない苗字になった先輩が自分に似合うドレスを着てる

「けっこうわかりやすい歌」と書きましたが、それでも

先輩って会社の先輩? 学校の先輩?
先輩と作者の関係性は?
作者の感情は?

のように、このなかでも開示されてない情報は多々あるんですよね。31文字しかないから。

この歌に対するよくある解釈の流れは以下の感じだと思います。


似合わない苗字になった先輩が」の時点で、

似合わない苗字になった
=苗字が変わった?
→「先輩」が結婚または離婚したのかな? 
という推測ができるんじゃないでしょうか。

この時点では「先輩」が男性か女性か、学生時代の先輩なのか会社の先輩なのか、先輩の年代もわかりません。

自分に似合うドレスを着てる」が出てきたので、「ドレス」なら女性の可能性が高そう(と言っても多様性の時代なので、男性の可能性もゼロではない)とも読めます。

先輩の結婚」の解釈の場合、ドレス=ウェディングドレスかな?

となり、だいたいの意図がこんな感じで補完されるんじゃ無いでしょうか。

(結婚して)似合わない苗字になった先輩が(結婚式で)自分に似合う(ウェディング)ドレスを着てる

ここから作者の心情を予想すると

結婚を選び、まだ先輩を見ている自分的には違和感のある新しい苗字になった先輩だけど、式ではちゃんと先輩らしいドレスを選んでいて、この人は新しい苗字でも自分らしく生きていけるんだろうなあ。

という感じにイメージできるかもしれません。

もちろん、別の解釈もできます。

この短歌を書いている人(主体)は男性で、

(あんな男と結婚して)似合わない苗字になっ(てしまっ)た先輩(…俺のほうがふさわしい苗字の男だったのにな…)が(結婚式で)自分に似合う(ウェディング)ドレスを着てる(から、まあいいか。結婚しても先輩は先輩か。おめでとう)

のような解釈です。

歌会では匿名で短歌を出すことが多いので、この短歌を私が詠んだとわかっているのはその時点で私だけで、ほかの人からしたら作者の情報もないんですよね。

また、似合わない苗字になった「離婚」という解釈もできなくはないです。その場合は、

(離婚して)似合わない苗字になった先輩が(他の人の結婚式やパーティでは)自分に似合うウェディングドレスを着てる(から、ようやく先輩は自分を取り戻せたんだ。離婚も先輩にとっては良い選択だったのかもしれないな)

という感じです。
結婚元の苗字のことを「似合わない苗字」って言うかな? という点はちょっと気になりますが…、先輩は結婚前に自分の苗字が嫌いと言っていたのかもしれないですね。

また、「似合わない苗字になった」=苗字が変わった「先輩」が結婚または離婚したのかな? と書きましたが、もしかしたら、親が離婚再婚したとも取れなくもないですね。
ただ、ドレスを着るのは大人になってからの方が多そう…? なので、親の離婚や再婚ではなく自分自身の再婚に読めるかもしれません。

こういう風に、ひとつ仮定を考えて、その前後との整合性を考えたりもします。

そういう風に、参加者が自分が感じたことを口にして共有していきます。

今回は内容にだけ言及しましたが、実際はもっと細かい表現の部分にコメントされることも多いです。
この3文字を削って別の情報入れた方が良いとか、助詞についてとか、語順についてとか、リズムについてとか…注目する場所、言及する場所からして異なります。他人同士、歌の読み方が違うからこそ楽しいんです。

歌会を通して他の人の意見を聞くことで、1つの歌からたくさんの解釈が生まれます。

解釈がどんどん広がり、膨らんでいきながら、最終的にそれぞれが自分的に納得できる解釈を持って帰れるのが歌会の良いところだと思います。

1人だけでは思いもよらなかった新しい解釈に触れられること。
たった31文字から、たくさんの解釈が広がること。

最初に書いた「対話」の定義を見直すと、


「対話」は、言葉を通じて話し合う中で、自分と相手の考えの差(ズレ)を共有しながら、新たな意味を一緒に創造する行為

で、やっぱり歌会は対話なんだと思いました。

私が運営しているTANKANESSでは、歌会をほぼまるまる文字起こししたレポートもあるので、こういう風に解釈を深めていくのか、という参考になれば幸いです。


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