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今日のジャズ: 6月28日、1955年@ポリスアカデミーLA

June 28, 1955 “I Got Rhythm”
by Hampton Hawes, Red Mitchell & Chuck Thompson at Los Angeles Police Academy in Chavez Ravine for Contemporary (Hampton Hawes Trio)

華麗なるテクニックを持つピアノ奏者、ハンプトンホーズのデビューアルバム。名作を輩出している西海岸レーベル、コンテンポラリーの創設者レスターケーニッヒによるライナーノーツによると、ホーズの想像力に配慮して、通常の機材の整った密閉されたスタジオではなく、自然で活き活きとした演奏を収めるべく、ホーズの出身地、ロスアンゼルスにある環境の良い警察署内、ポリスアカデミーの大きな体育館で録音したそう。

近隣のドジャースタジアム建設予定時の写真
ポリスアカデミーの建物が奥に見える
中央のドジャースタジアムと、
その真上にあるポリスアカデミーはほぼ隣接
70年代に撮影された写真。広大な敷地

そのプロデューサーの意図を受けて、ホーズは勢いと活力に溢れる演奏を繰り広げている。そこに設置されていた名門スタインウェイのグランドピアノもホーズは気に入ったそうで、悦びに満ち溢れて途切れる事なくスウィングするピアノの張りのある音色が、キレがあって小刻みながらノリの良い、モダンジャズの開祖チャーリーパーカーとの共演歴があるチャックトンプソンのダイナミックなドラムと、絶え間なく動き回る名手、レッドミッチェルの快活なベースと共に記録されている。

この作品が好評を博して、同メンバーによるアルバムがシリーズ化し、本作を含めて三作がリリースされた。ホーズの特徴は、想像力とテクニックに支えられた絶え間無く溢れ出るメロディーにあって、そのスタイルは同世代のオスカーピーターソンやアンドレプレビンにも影響を与えたという。確かに、手数多く明るいフレーズで鍵盤を縦横無尽に駆け巡り、畳み掛けるようにドライブする点に共通項が見出せそうだ。

一方、この時代に音響機器の整備されたスタジオではなく、屋外的な場所で録音するとなると、録音機材も重いし録音側は相当苦労したものと思われる。これだけの演奏が繰り広げられたら、その甲斐があったと間違いなく言える。

同じ月に大陸の反対側の東海岸ニューヨークでは、スタジオ好きな奇才クラシックピアニスト、グレングールドが衝撃的なデビュー作となるバッハの「ゴルトベルク変奏曲」の初レコーディングを行った、そんな時代。

“Kind of Blue”等の名作を打数排出した
コロンビアNY30thスタジオでのモノラル録音

オーディオ的にはモノラル録音なのでストレートな濃厚感が味わえる。体育館という事で、特にピアノの響き方を聴くと広い空間がある事が窺い知れる。

録音はコンテンポラリーながら、その名物録音技師のロイデュナンではなく、ジョンパラディノが手掛けている。パラディノもビートルズやシナトラを手掛けた実力者。マルチミキシングを使いこなして聴き取り辛い中低音のリズムセクションを音の隙間に埋め込んでバランスを取る技法を編み出し、その後の録音技術に大きな影響を与えたそう。また、ポールマッカートニーの「バンドオンザラン」ではシングルカット用に音源(テープ)を巧みに編集したとの記録も残っている。そんな話も聞くと、本演奏の有り難みも増すのかもしれない。

名コンビ、ガーシュイン兄弟が音楽を手がけたミュージカル、”Girls Crazy”からの一曲のジャズ演奏。実はこのミュージカルから”But, Not For Me”等の複数曲がジャズスタンダード曲化しているが、ミュージカルそのものも、1990年代に”Crazy for You”と改名して現代に蘇りヒットした。

ミュージカル初演時のプログラム(1931-)

鮮やかな黄緑色のフォトモンダージュを交えたアルバムジャケットのデザインは、女性イラストレーターのポーリーンアノンによるもの。著名ジャズアルバムのデザインも手掛けている。

同じく西海岸拠点のパシフィックジャズ作品

最後に、同ミュージカルからスタンダード曲になった”But, Not For Me”にご興味ある方は、こちらをどうぞ。

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