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今日のジャズ: 12月5-6日、1991年@バスク地方

Dec. 5-6, 1991 “Moon and Sand” by Tom Harrell and Jacky Terrasson at Capbreton, France for Jazz Aux Remparts (Moon and Sand)

米国白人トランペッターのトムハレルと、フランス人ピアニストのジャッキーテラソンによるデュオ演奏で、フランス拠点レーベルによるフランス録音作品。

別リーダーのアルバムの伴奏者として両者が共演して演奏した際の合間を縫って、両者がスタジオに入って録音したのが本作という触れ込みで、そのリーダーが誰かと言うとフランス人ベーシストのピエールブサーゲ。

本作直前の1991年12月1-3日録音
レイブラウンに師事したフランス人の中堅

チェットベイカーを想起させる孤高の詩人的なメロディー重視のアプローチでミュート気味に透き通ったトーンで叙情的なリードを取るハレルと、伴奏者の役割に徹して、クラシック音楽のスタイルを織り交ぜて多様な表現を繰り出してハレルを尊重しつつ適度に絡むテラソンの組み合わせは相性が良くて、デュオ演奏ながら、しっかりとした構成のために物足りなさを感じる事はなく、むしろ余計な音が排除され、シンプルにメロディーを重んじた表現で進行していくところが美しい。

マンハッタンのジャズクラブでハレルの演奏を聴きに行った事があるが、伴奏者には目配りもせず、一心不乱にトランペットの演奏に集中していたのが印象的で、先の「孤高の」という表現を使っている。何処となく、そのスタイルがリーコニッツに似ていると思ったら、ハレルが若かりし頃にリーコニッツと共演していた記録があるから、何らかの影響があるのかも知れない。

そして、テラソンのピアノは、 どこまでが事前に練られていて、どこからがアドリブなのか、判別が難しいが、終始感情移入されて紡がれていることが、メロディーやタッチから伝わってくる。

曲は、邦題『月と砂』で、アメリカ人で クラシック音楽を多数手がけたアレックワイルダーが作曲した作品で、その選曲も好判断。アルバムジャケットも、表題曲そのままのベタなもの。ふとこれを見て良く考えてみると、この演奏、ハレルが月、テラソンが砂、のように思えて来たが、どうだろうか。月明かりのような風情のトランペットに相対する砂のように流れていくピアノという構図だ。二人は、演奏前にそんなコンセプトの会話を交わしていたのだろうか。

本アルバムは、本曲を皮切りに、スタンダード曲、特にテラソンが得意としているセロニアスモンクを織り交ぜた楽曲で構成されており、その内容にも好感が持てる。ハレルとの組み合わせは、派手さはないけれど聴く耳を捕らえたら離さないというような演奏。

レーベルは同名のジャズフェスティバルの主催者が立ち上げたもので、小規模ながらフランス土着のアーティストを中心に展開した”Jazz Aux Remparts”レーベル。フランス南西部、大西洋側に面したスペインとの国境沿い、バスク地方のバイヨンヌに拠点があった。12月で寒いけれども、その中に湿度を帯びた空気感は、海沿いという土地柄に起因した気候があるように思える。

バスク地方というと、モントルージャズフェスティバルと同じ1966年から開催されている、スペイン側のサンセバスチャン国際ジャズフェスティバルが有名。そこは本作の録音場所から車で約一時間の距離にある。かなり大規模で、こんな演奏の映像も残っている。

そして、人口18万人にして世界屈指の美食の街として有名。ギネスブックで『世界で最も路面飲食店が密集している』フェルミン・カルベドン通りには行ってみたい。独特の活気があって面白そう。

さて、テラソンとボサーゲには、ボサーゲの師匠、ジャズベースの巨人レイブラウンを交えた変則トリオを編成して活動していた時期があり、そちらのアルバムも聴いていて心踊る感じなのでお勧め。その名も「Ray Brown’s new “Two Bass Hits”」とスタンダード曲名「トゥーベースヒット」にかけた名称。本作と同年4月29日の収録作品。

そのブラウンによるデュークエリントンとのデュオ作品に興味がある方はこちらもどうぞ。

最後に、テラソンの刺激的なピアノに興味がある方は、こちらをどうぞ。

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