見出し画像

今月のジャズ: 9月1, 4 & 5日、1982年@日本(恐らく9/4大阪)

Sep. 1, 4 & 5, 1982 “Liberty City”
by Jaco Pastorius and Word of Mouth Big Band at Japan (Budokan/Festival Hall/Yokohama Studium) for Warner Bros. (Invitation)

ジャズベースの変革者、ジャコパストリアス。エレキベースをギターのようにメロディアスに速弾きするなど、超絶テクニックで独創的なスタイルを創造、フュージョンの第一人者となったウェザーリポートに加わり新たなジャズの領域を開拓するなど、その後のベース奏者に多大なる影響を遺した。

この演奏はライブ録音とは思えない、一糸乱れぬビッグバンドのアンサンブルと、その上に浮遊するアナーキーなギターやハーモニカによる計算されたかのようなアドリブがカオスに陥らずに絶妙なバランスを保つ構成美が大変素晴らしい。

それも音楽の軸にジャコのベースが鎮座しているためで、ここでは素直にベースに耳を傾け、如何にユニークな奏法と音楽の世界観を生み出しているのかを鑑賞したい。

そして、ドラムのピーターアースキンらの凄腕ミュージシャンを捉えた録音のクオリティーが素晴らしい。控え目で大人しい日本の観客の反応もあってか、演奏開始直後と最後に拍手が僅かに聞こえる位で、ほぼスタジオ録音に匹敵するノイズレベル。音にうるさいジャコが細かく口を出したのか、世界に誇れる録音技術レベルに日本が到達した証となっている。

本アルバムは、東京の武道館、大阪のフェスティバルホール、横浜スタジアムの三ヶ所が収録場所として記載されているが、曲単位で特定されていない。本曲はその録音品質の水準からフェスティバルホールと推測する。武道館は元々、音楽公演を想定した構造をしていないがために音響的には反響やうねりが付き纏うし、横浜スタジアムはオープンで逆に遮るものが少ないが為に、この様な繊細な音はなかなか捉えられないからだ。

そして何よりも、1958年にオープンした初代フェスティバルホールは、国際的な演奏会を念頭に、例えば残響時間が空席時で1.9秒、満席時で1.7秒と均一に設計されているように、“天井から音が降り注ぐ”と形容されるほど音響的に秀でたものがあったことも推測の要因のひとつ。

初代フェスティバルホールの外観

音にこだわる山下達郎や中島みゆき等のミュージシャンからの評価も高く、以下のような世界的な名録音の実績があるので、恐らくフェスティバルホールで間違いないはず。

1972年6月シカゴの二枚組
前年のカーネギーホール盤より良音質と評される
1972年8月のディープパープル
オルガンが鳥肌ものの生々しさ
因みに写真は武道館でのものらしい
1975年2月エレクトリック時代のマイルス
同日録音の「アガルタ」もある

本作のどのジャンルにも属さないような音楽スタイルは、ジャコのインタビューから察するにR&Bやファンク、そしてフランクシナトラといったポピュラーミュージックまでを、ベースから入らずに音楽全体とメロディーから捉えて、それをベースに置き換えるという工程を経て生まれたように考えられる。ベースプレイヤーだからベースから入る、という考え方では無いのだ。そして音楽をジャンルという概念に囚われずに自由に受け止めて取り込むのもジャコの天性で、結果としてジャズ、ロック、ファンク、R&Bがクロスオーバーする世界観を創り上げた功績は計り知れない。

音楽を素で受け止めて、ベースで表現する自由な発想は文化が入れ混じるフロリダ育ちが影響していそう。ジャコ作曲で、曲名通り自由な人種のるつぼ的な多様な楽器が入り混じる音楽。

レーベルはワーナー。音楽市場が拡大してエンタテイメント産業の一部として定着、音楽専用チャネルのMTVはこの前年に誕生、そして世界初のCDプレイヤーがこの翌月にSONYから発売されている。

最後に、本作で軽快なメロディーを奏でるジャズハーモニカの第一人者、トゥーツシールマンスの作品をどうぞ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?