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~福井を舞台に。福井の若者たちが波及させる「創造的希望」~第3章続き

(4)Uターンという移動と「創造的希望」

 若者が地元から流出し地方の人口減少が止まない状況は深刻であるが、たとえ「依存的希望」状態で地元を離れたとしても、他の地で多くの経験を積み、地元で暮らすことに対する考え方に変化が生まれ、卒業などを機に「創造的希望」を抱きながらUターンして来ることにこそ意義があるではないか。福井県を始めとする14県に暮らす人々を対象とした調査で、他県で暮らした経験がある人はない人に比べて、希望は「非常にある」と回答した人の割合が高いことが明らかになった(福井県庁未来戦略課,2012:p.34)。つまり、一度地元を離れ、他県で暮らした経験を持つ者、つまり、Uターンした者は地元での生活に希望を抱く可能性が高いのである。ここで、福井県出身の若者たちのUターン割合を見てみよう。福井県出身学生のUターン就職率は2019年29.6%、2020年、2021年29.3%(福井県定住交流課,2022)と過去3年間でほとんど変化はなく、進学や就職を機に地元を離れること同様に、Uターンすることに関してもコロナの影響を受けていない。Hellerらの研究によって移動は主観的幸福度を高める効果があると証明されたのならば、Uターンというさらなる移動は、主観的幸福度を高めた状態で、そして、地元という新しくはないが、一度目の移動で得た経験や価値変容を経て新たな見方ができるようになった地で、自ら希望を創造したい(「創造的希望」)という、地元を離れる前の「幸せになりたい」から一段階高い欲求が生まれた状態と言えるのではないか。ここでは、「創造的希望」を抱くUターン者をポジティブなUターン者と呼ぶことにする。では、Uターンすることを決めた学生とそうでない学生との間にはどのような違いがあるのだろうか。

①現時点でUターンすることを決めている大学4年生の語り

 福井県出身で県外の大学に進学し、現時点でUターンすることが決まっている、または将来的にUターンすることを決めている大学4年生3人の語りを分析する。対象者に「どうして福井にUターンしようと思うのか。」と尋ね、回答してもらった。

就活の軸を決める上で納得するものがなかなか思い浮かばなかった中で、生まれ育った地元への貢献が一番しっくり来たから。それから、大学進学を機に福井を出た友達たちも福井にたまに帰った時に福井への愛が溢れていたから、そういう場所を守り、発展させていく1人の人間として生きていきたいなと思ったから!(前田裕介さん[仮名]、22歳)

大学生活の中での就職活動という人生の分岐点となる出来事をきっかけに、自己理解が進み、地元への貢献という決断に至っていることが分かる。さらに、地元で出会った大切な友人たちとの再会によって、自分がこの地を守るのだという責任感と主体性が生まれていることが読み取れる。

もともと就職は、福井帰ろうとか全く思ってなかったんやけど中学と高校時代の友達と遊びたいって思って福井に決めたかな。仕事で福井に貢献したいってよりも、地元福井で友達と毎週遊んだり会ったりしたいって思いが強かったからUターンすることに決めた感じ!(大西健司さん[仮名]、22歳)

地元愛や生まれ育った故郷への恩返しという動機は見られないが、地元で出会った友人たちと頻繁に会って遊ぶことが彼にとっての主観的幸福感の高まりに結び付くのだろう。また、これだけ地元の友人たちへの愛情に溢れていれば、遊びの延長線上に福井に希望をもたらせる可能性を大いに秘めている。

大阪は1番訪問看護が進んでいるところで、1度就職して働き、その技術・経験を持って帰って、福井で訪看を開設出来たら面白いなぁと。Uターンの時期としては、今すぐにではなく、子供を育てる時に戻ってくる気がします。自然豊かでのびのびと生きられる福井の環境はすてきです。(上山彩音さん[仮名]、22歳)

彼女は大学を卒業してすぐにUターンすることはしないが、将来は看護師としてのキャリアが保障され、どこの地でも働くことができる資格を有しているからこそ、今の段階からUターンを計画することができている。地元福井が地方であるからこそ存在する遅れや、介入の余地をチャンスと捉え、県外での学生生活で培った自信、そして、この先、大阪で高めていく看護師としての専門性を活かすことで、自ら地元に希望を創造できる可能性に意義を見出している。また、地元で過ごした子供時代に主観的幸福感が高かった場合、自分の子どもにもこの幸福感を継承したいという想いが強まるのではないだろうか。

以上のアンケート結果から、Uターンする者たちの特徴として、自分自身と向き合う経験を通じて生まれた地元に対する使命感、地元の友人に対する切実な愛情、どこの地でも働ける資格、専門性を活かして自ら希望を創造することへの期待、福井で過ごした子ども時代のいい思い出を持っていることなどが挙げられる。対象者全員に共通していたのは、地元で築いた人間関係に誇りを持っていることであり、そのことが福井に希望を育み、波及させる上で、欠かせない要素のひとつであると言えるだろう。

④ 現時点ではUターンしないと考える大学4年生の語り

 福井県出身で県外の大学に進学し、現時点ではUターンする予定はないと考える大学4年生4人の語りを分析する。質問は以下の通りである。「どうして福井にUターンしないのか。また、どうゆう状況になればUターンしようと思えるのかを教えてください。」

福井は好きだが、いつでも帰ってこられる場所であると考えている。そのため挑戦という意味でも、若いうちに県外で社会人の経験を積みたいと思った。ただ、若いうちに東京に住んでみたいってずっと思っていたのに、東京での就職を選択しなかったことは今でも少し後悔している。Uターンについては、福井に新しい何かができたとしても戻るきっかけにはならないと思うが、仕事が限界になったら戻るかもしれない。(岡本愛理さん[仮名]、22歳)

地元にいると主観的幸福度は高く安心していられるが、安心できる故郷があるからこそ、もっと違う世界で挑戦したいという気持ちが読み取れる。しかし、何をやりたいのかではなく、東京という場所への憧れが先行している点では、現在も「依存的希望」を求める循環の中に留まっているとも言える。

福井は会社の数が少なく、将来の選択肢が狭まる。福井の狭い空間でずっと生きていくのが嫌だ。知り合いなどに街中でよく会うのも嫌だ。遊ぶとこがないし、田舎だからこそ色んな話が回るのも嫌。結婚や親の面倒を見ることになったりしたら戻るかもしれない。地元に戻る時には商業施設などがもっとあったらいいかな。(中口昭子さん[仮名]、22歳)

福井の閉塞感や知り合いの多さに生きづらさを抱えている様子がうかがえる。将来的なUターンについては親の介護や結婚などによってそうせざるを得ない状況を覚悟しているようである。しかし、商業施設の有無が彼女にとって地元を魅力的な場所にする要素となっている点では、自分自身の意志でポジティブにUターンする可能性は低そうである。

自分のやりたいことが福井でできることではなかった。また、もっともっと広い世界を見たいと思っていたため、文化や人が溢れている土地に行くことを考えた。まだまだやりたいことをやり始める状況であるため、環境が整っていない福井で暮らす選択肢はないが、将来的に自分が刺激を受けられる環境や、やりたいことをできる環境があれば、戻りたい。(大嶋梨乃さん[仮名]、22歳)

福井の遅れを言い訳に都会に希望を見出そうとしている点では「依存的希望」とも言えるが、明確な自己実現に向かって都会で働く決意をしている。また、Uターンの基準は、自分の意志や能力によるものではなく、福井の環境に依存していることが読み取れる。

視野が狭くなるのが第一の理由。周りの友人がそのような状態傾向にある。そのため自分がまず外の世界を経験し、地元の発展に貢献するべく、色々と視野を広め、福井で取り入れていけそうなものを今後模索していく必要があるため、Uターンを若いうちからというのはあまり考えてない。しかし、将来的には福井の街を発展させ、観光者や外国人客が賑わい、福井県全体で一つ大きな事業が出来上がればいいなと思う。そのため、自分の経験値と実力が伴った時に戻ってきたい。(畠中良平さん[仮名]、22歳)

福井で暮らす人々の閉鎖性を問題視しているからこそ、自分自身が県外でもっと成長し、いつか地元に貢献したいという強い想いと具体的な構想を描いていることが読み取れる。

Uターンしない者たちの特徴として、地元は挑戦する場ではなく受け身で安心していられる場、介護や結婚などを機に将来的に仕方なく帰って来ざるを得ない場、発展途上で自己実現には適さない環境、もっと県外で経験を積んでからいつか貢献しようと思える場として福井を捉えていることが挙げられる。

最後までお付き合い頂きありがとうございました。
次回は第4章をお届けします!

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