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自分ではないもうひとつの

2020年12月
妊娠が分かった。

結婚してもうすぐ1年が経つという頃。私も夫もいつかは子を持ちたいと望んでいたので、嬉しくないわけではなかった。

だけど、分かったその瞬間、涙が出てきた。動揺した。
その頃、仕事で夫婦揃っての異動(転勤)の話が進んでいたので、周りに迷惑かかるなという思いもよぎったけれど、そんなのは一瞬のことで。

子ども?私が産むの?私が、母親になんて、なれるの?

そんな不安からの涙だったのかな、と思う。
「どうしよう」と泣く私に、夫は冷静だった。

仕事のことを言っているなら、異動の話はなしにして、2人でここに残って産むこと。
もう生理の予定日から随分経っているのだから、とにかく明日の朝いちばんで病院に行くこと。
そして、2人で協力して進んでいこうということ。

「喜んでいいんだよね?」と確認させてしまった。嬉しいことだった、本当に。だけど、私の中に喜びの感情がやってくるのはもう少し後のことで、分かった直後は、想像していたより遥かに大きな不安と動揺が押し寄せてきた。

夫がどんなときも冷静な人でよかった。


それから数週間のうちに何度か病院へ通い、心拍が確認できて、母子手帳をもらい、少しずつ実感が湧いてきた。

いつかはと思っていた、家族をつくるという夢が叶うこと。
だいすきな夫とのあいだに子どもができたという喜び。
いったいどんな子で、どんな風に育っていくかというわくわく。

もちろん不安はたくさんある、これからどうなっていくんだろうという恐怖もある。でも、喜びの感情もあとから追いついてきた。

これから沢山の「初めて」を経験していく。夫と2人で。

***
異動のことがあったので、心拍が確認できてすぐに上司に報告した。
相当不安だったのだと思うけど、「そんな顔しないで」と笑われた。

仕事のことなんてどうにでもなるし、喜ばしいことだから。まずは自分の体を大切にして。母親になるんだから、そんな顔してないで、どんと構えないと。体調悪い時には時短でも特別休暇でも、何でもできるから、遠慮なく言って。

男性の、父親と同じくらいの年齢である上司にそう言われたからか、とても印象に残っている。

同性であっても嫌なことを言ってくる人がいたり、職場の男性から理解を得られなかったりという話は私の周辺でも起きていたので。

何でもハラスメントになる時代だから、気を遣って言ってくれてるのかと言うと、まったくそんなことはなく、心から嬉しいを表してくれる上司で、本当によかった。


***
妊娠が分かったばかりの、不安で仕方なかった時期の話。

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