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「どんなことにも負けずに生き抜く」毎日が楽しくなる魚の器に秘められたメッセージ

        【インタビュイー】陶芸作家・祁答院いづみ窯 石神いづみ

美しい自然に囲まれた九州・鹿児島県祁答院町で、「祁答院いづみ窯 」を営む、陶芸家・石神いづみさん。 魚や動物をモチーフに、明るい色使いで個性あふれるお皿やコップ、オブジェなどの大きな作品も制作している。独自の世界観が表現された器は、見る人・使う人の生活に明るさと楽しみを連れてくると高く評価されている。
今回は、石神いづみさんに陶芸を始めたきっかけや子ども時代のこと。唯一無二の世界観を表現し続ける原動力、作品に対する思い。今後の展望などを伺った。


スキューバダイビングで見た、海の世界を陶芸で表現したい


ーーまずは、石神さんの自己紹介と子ども時代のお話しを聞かせていただけますでしょうか。

石神いづみさん(以下、石神): 私は生まれも育ちも鹿児島県。両親や親戚は公務員や会社員といった、比較的安定した職業の人が多い環境で育ちました。 勉強はあまり好きではなかったですが、子どもの頃から、体を動かすのと絵を描いたり、ものをつくったりすることが好きでしたね。毎日泥だらけになるまで遊んでいました。

ーー陶芸を始めたきっかけは?

石神:地元の短大を卒業して、洋裁学校に行きました。そこから、習いごとのような感覚で、陶芸教室に行き始めたんです。 その教室は、本当に自由な感じだったので、好きなものを作らせてくれました。当時、スキューバダイビングにハマっていたので、海のなかで観た魚たちをお皿にしたらどうかなと。 作品づくりはお皿から始めたんですけれど、生きものを陶芸で表現する楽しさを知りました。そこがスタートですね。 今でも私が見たものや感じたものを表現しています。海のなかだけでなく、夕陽を見たり、動画やSNSを観たりしたことが、日々の作品づくりにいかされています。



ーーすてきな工房をお持ちですよね。どういった経緯で、今の場所に工房を持とうと思ったのでしょうか。

石神:陶芸を始めて2〜3年めの頃、パラグアイに住んでいる夫の兄弟を訪ねる機会がありました。旅自体は楽しかったんですけど、パラグアイで貧富の差を目の当たりにしました。 それがあまりに強烈に私のなかに残っていまして、その時、やりたいと思ったことは何でもやった方がいいなと思ったんです。
当時の陶芸教室では、最初から最後まで自分でやっているわけではなかった。実は自分ひとりで、何もかもやってみたいと思っていたんです。パラグアイから帰ってきて、お金を貯めて10ヵ月後には、この工房を開きました。


「自分が楽しいと感じることが大切」作品づくりにかける思い


ーー魚や動物をモチーフにした作品が多いですよね。なぜ、モチーフに生きものを選んだのですか。

石神:趣味でスキューバダイビングをやっていたことが、大きいですね。海のなかの世界が、すごく身近だった。もともと魚や動物が好きだったことも理由のひとつです。

ーー色彩が豊かな石神さんの作品からは、生命感や躍動感といったものを感じます。どういった思いで作品をつくられていますか。

石神:まずは、自分が楽しいことが一番大切なんじゃないかと思っています。私が楽しい気持ちでつくっていないと、作品を手に取ってくれた方には伝わらないですよね。
特にオブジェなどの大きな作品をつくるときは、「楽しさ」を大切にしています。自分自身が元気になる、楽しさを感じる作品をつくろうと。色からも元気をもらえるので、明るい色を使っていますね。

ーーご自身のターニングポイントになったと思う作品はありますか。

石神:お皿や花瓶ではありませんが、「生きる」というオブジェをつくったときだと思います。 「生きる」は、2015年の『鹿児島陶芸展』で、南日本新聞社賞いただきまして、それ以降さまざまな賞をいただく機会が増えました。
少し気分が落ち込んでいるときに作り始めたのですが、日々いろんなことはあるけれど、どんなことにも負けないで生き抜こう。そんな思いが込められています。賞という形で、評価されたこともすごくうれしかったですね。

生きる(作:石神いづみ様)


ーー「生きる」を拝見しましたが、色鮮やかで躍動感があり、「生きる力」をリアルに感じられる作品でした。お皿などの食器類とオブジェ、どちらをつくるのがすきですか?

石神:お皿やコップも好きですが、何十個、何百個と一気に量産ができなくて。同じ作業をずっとしていられないタイプなんですよ。時間はかかりますが、オブジェなどの大きな作品を作っているとウキウキしますね。


「材料の準備から、すべてひとりでやってみたいと思った」


ーー陶芸を始められて、苦労されたことやつらかったことはありますか。

石神:工房を開いた頃は、全部ひとりでやっていたので、ちょっとわからないことがあってもすぐに聞ける人がいなかったことでしょうか。 陶芸を始めた教室が、比較的自由なところだったので、基礎は学べたんですが、専門的なことは手探り。自己流のようなところがありました。自分で調べながらやっていましたね。
今は、鹿児島の陶芸家の方ともつながりができているので、情報交換ができるんですけれど、当時は全部ひとりというのが大変でした。


石神さんの工房


ーー今、むずかしいと感じていることはどんなことでしょうか。

石神:鹿児島県内の展示は問題ないのですが、東京や大阪など遠くへ作品を運ぶ際には神経を使います。 お皿やコップなどの小さめのものは、持ち運びに苦労を感じないのですが、オブジェとなると作品が大きくなるので、ちょっと手間がかかりますね。
例えば、「生きる」は、立体的になっている部分の魚は、後からつけているわけではないんです。下から形をつくっているので、なかが空洞になっています。だから、強い衝撃を受けると傷がついたり壊れてしまったりする可能性があります。

ーー魚たちはあとから付けたものなのかと思っていました。下からひとつひとつ形がつくられていたとは驚きです。そうなると大きなものになれば、遠くへ運ぶのは大変ですね。

石神:そうなんです。だから運ぶときには、細心の注意を払って運んでいます。運送会社さんにお願いするにも、大きなオブジェになると梱包がなかなか大変でして、お任せするのがむずかしいと感じています。 SNSをご覧になった海外の方からもご連絡をいただくことがあるのですが、繊細なものなので、発送するのも梱包方法やコストが悩ましいところです。そこをクリアにできたらいいなと思っています。



「自分と、持っている人が元気になるような作品を作り続けたい」


ーー話は変わりますが、普段の生活で気分転換にはどんなことをされていますか。

石神:頭に来ることや嫌なことは、すぐに忘れるようにしています。あとは、テニスで思いっきりボールを打つとか、大きな声で笑って喋って食べて飲むですかね。
創作するときは、気持ちが楽しくて、よい状態でないといいものはできません。なるべく気分よくすごせるよう、心がけています。

ーー体を動かしたり、人と話したりすることで気分転換をされているんですね。ご自身の作品をどんな風に使って欲しいと考えていますか。

石神:お皿なら食卓が明るく楽しくなるような、使い方をしてほしいです。魚のお皿で、 話のきっかけになったり、弾んだりすればうれしいですね。
あとは玄関に置いて鍵を入れたり置いたりするものとしてもいいですし、お花を一輪挿してもらってもいいかな。
私の作品は、魚や動物がモチーフ。目や鼻、時にはまつ毛もついていて、作品自体に表情があるのが特徴です。家族の一員として話しかけるような感じで、使う方の日常がほっこりして、明るくなるといいなと思います。

ーー確かに、石神さんの作品は目が合うと何か話しかけたくなりますね。明るくて色鮮やかであり、どこかファンタジックな要素も感じます。最後に今後の展望を聞かせてください。

石神:私自身が楽しくなるような作品を作り続けていくことが、購入された方にも伝わると思うんです。私の作品を手に取ってくれた方が、明るい気持ちになれる。楽しくなるようなものを今後もつくっていきたいですね。
元気になれる、ほっこりする食器やオブジェがあること。こんな作品もあるんだということをもっとたくさんの方に知ってもらえたらうれしいですね。

フグ皿(作:石神いづみ様)


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