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「作品づくりはスピリチュアルとのバランスがとれて集中できる」伝統を残しつつ自身の感性を表現する絵付けの可能性に挑戦する

                【インタビュイー】陶芸作家・相上暁美

アメリカ留学をきっかけに陶芸の道を歩み始めた工房明泉の相上暁美さん。 自分の中の「陶芸」と「スピリチュアル」の2本柱を成長させ、バランスをとりながら作品をつくるという。
皿をキャンバスに見立て、有田焼伝統の呉須(ごす)を使い絵付けをする。モチーフはスピリチュアルな感性からくるものと、中世ヨーロッパ、中近東のパターン。そのユニークな図柄からメッセージを感じ取る人もいて、固定ファンも多い。
今回は、陶芸家・相上暁美さんに陶芸を始めたきっかけ、恩師の言葉、「陶芸」と「スピリチュアル」などについてうかがった。


子供の頃の「お皿に絵を描きたい」という衝動・職人への憧れ


ーー陶芸の道を志したきっかけをお聞かせいただけますか。

相上暁美さん(以下相上):高校時代にアメリカの文化・洋楽に憧れて英語を一生懸命に勉強していました。そして卒業の際に、バイトでお金を貯めてアメリカに放浪の旅に行きたいと両親に話したんです。すると、放浪は認めないが留学ではどうかという話しになり、ニューヨーク州立大学ニューパルツ校に留学することになりました。 この学校を選んだのはたまたまだったのですが、行ってみるとここは芸術に力を入れている学校だったんです。絵画や彫刻などの他に陶芸科もあり、英語の勉強をしながら陶芸のクラスに参加したのが最初でした。

相上さんの作品たち

ーーそれまでは、特に陶芸に興味を持っていたということではないんですね。

相上:そうですね。でも振り返れば小学校の頃「お皿に絵を描きたい」とすごく衝動的に思ったことや、芸術家・工芸家の方々の手仕事をずっと映している「極める」というテレビ番組を欠かさずにみていた記憶が鮮明にあり、職人への憧れのようなものは持っていたのだと思います。

ーーNYでの陶芸の勉強はいかがでしたか?

相上:やはりアメリカで陶芸をしている方達にとって日本というのは大きな意味があるんですね。陶芸科のトップの教授が日本びいきだったこともあり、心地よく楽しく学ぶことができました。
しかし帰国してから、アメリカと日本の技術の高さが大きくかけ離れている現実を知りました。日本では同年代の人達は芸術大学に入るために勉強し、入学してからもさらに感性と技術を磨いている。自分はそんな人達とのギャップがとても大きいと感じ、虚無感に襲われました。
「皿に絵を描きたい」という思いはアメリカ時代からいつも心にあり、絵を描く技術をもっと洗練させたいと思っていましたので、その後、佐賀県立有田窯業大学校(1998年当時)で絵付けの勉強をすることにしました。


作品づくりをささえる恩師の言葉とスピリチュアル


ーー有田で学んだことは、相上さんにとってどのような意味があったのでしょうか。

相上:ここで出会った恩師が陶芸の、人生の支えになっています。
初めて見学に行った時、私は何も言わなかったのですが、その先生が「いらっしゃい、いらっしゃい」と言って受け入れてくださり、その言葉でここで学ぼうと決めました。
また、皿に想像で描いた東南アジア系の女神の落書きを見て「あんたはこれを続けんしゃい」と力強く言ってくれたことがあったんです。絵付けの技術だけでなく、人となりがほんとに大きくて素晴らしく、その「続けんしゃい」がその後もずっと私を支えてくれています。感謝してもしきれない存在です。

スピリチュアルをモチーフにした相上さんの作品

ーー他に作品づくりを支えている、大切なものはありますか。

相上:私の中には「陶芸」と「スピリチュアル」という2本柱があると思っています。
子どもの頃に聖書の世界を描いたテレビアニメをよく見ていました。そのころから、そこに出てくるイエス・キリストやその物語が本当なのか、真実を知りたいと考えていました。そしてスピリチュアルな世界を探求することが、私には陶芸と同じくらい大事なことになっていたんです。
つい最近、あるスピリチュアルの講座を受講したのですが、そこで今までの疑問や執着がすべてクリアになり、知らないことを探し求める「探求」から「勉強」に変わったと感じました。 これまでは、スピリチュアルへの探求の執着が強く、知りたいことが絵柄に反映され、陶芸に向き合うのも苦痛なときがありました。しかし、疑問や執着がクリアになったことで「陶芸」と「スピリチュアル」をわけて捉える事ができ、陶芸は陶芸で技術の探求ができるようになったんです。広がりを持って向き合えるようになり、楽しめるようになりました。
自分の中で、どちらも同じレベルで成長しないとバランスが取れないようで、今は陶芸とスピリチュアルの勉強が半分ずつという感じです。


伝統を残しながら可能性を広げる絵付けをめざす


ーーでは、作品づくりについてお聞かせください。

相上:使用している粘土は、ストーンウェアとも呼ばれる炻器(せっき)です。現在は皿をキャンパスに見立て、絵付けをした作品を主に作っていますね。 焼くと素地が焼き締まるので、電子レンジにも食洗機にも使えて、日常雑器として使いやすいところがいいと思っています。絵付けをした上に釉薬を被せて焼くので、絵柄も剥がれたりしません。 窯は還元焼成するので、ガス窯を使用しています。

下書き状態の作品

ーー絵付けはどのようにしているのですか。

相上:まず素焼きの皿に鉛筆で下書きを描きます。次に呉須を使って絵付けをしていきます。青や茶の呉須で線を描き、色付けも色呉須を使います。呉須は有田の絵の具やさんのもので、赤・ピンク・紫・緑系・青系などバリエーションに富んでいます。
絵付けには主に有田焼で伝統的に使われる青呉須を使っていました。ただ、青の濃淡だけでは私の描く絵柄には物足りないと感じ、色呉須も使用するようになりました。しかし、色をのせれば良いというわけでもなく、伝統の青呉須を活かし、色も入れる方法を試行錯誤しました。 最終的に、メインは青呉須を使い、色はアクセント程度で入れるという自分自身で割り出したちょうどよい比率に落ち着きました。
しかし、作品をつくるうちに自分の作風には青の線はキツすぎるのではないかと思うようになったんです。私の絵の対象は、伝統的な絵柄とはかけ離れています。でもせっかく学んだ絵付けなので、伝統も残したいという気持ちもあり、どうしようか悩んでいました。
そんなとき、スピリチュアルの講座を受講したことで気持ちが開放され、線だけでも茶色にしてみようと思えたんです。そうして茶色の線で作品を描いた時に、なんだか可能性が広がったように思えました。私が描きたい絵柄には茶色がちょうどいいのかなと感じました。 そんな茶色の線もまだ試行錯誤の途中です。青色もどこかに活かしたいと考えながら絵付けしています。


目標は生涯現役 その中で自分を成長させたい


ーー絵柄のイメージはスピリチュアル以外のところからも取り入れているのでしょうか。

相上:中世の中近東やヨーロッパの宗教美術がすごく好きで、モチーフは中世時代、中世美術が基本になっています。今現在、中世の時代がキーワードになっている気がするんです。私以外にも多くの作家さんやアーティストの方が中世時代からインスピレーションを受けて作品作りをされているのを目にします。
中世の頃は、いろいろな意味で、現代にはなくなってしまったものがまだ残っていた時代なんじゃないかと思っています。たくさんのヒントが中世には隠されているように感じ、とても心惹かれます。

相上さんにとって陶芸とはどういうものなのでしょう?

相上:陶芸は私の生きる支えです。
体調を崩してまったく動けない状態のときや、結婚出産を経て「家族に尽くさずに、自分がやりたいという理由だけで作品づくりをしてはいけないんじゃないか」と自分を追い込んでしまい、陶芸ができない時期がありました。 しかし、恩師の「続けんしゃい」という言葉があったからこそ「作品がつくれない自分をどうにかしなくては」と自分と向き合い、この状況をなんとかしたいと克服することができたと思っています。 ですから、今の目標は生涯現役で作品をつくり続けることです。
また、作品を作っているときは自分と向き合う意識がとても強いので、出来上がると気が抜けてしまって販売にまで意識が向かなくなってしまうんですね。これからは作った者の責任として販売にも繋げていければと考えています。
私の作品を手にとってくださるスピリチュアルに興味のある方は、メッセージを受け取ってくださる方もいらっしゃいますし、そうでなくても作品として受け入れていただけることには感謝しかありません。
これからも作品を作り続けることで、自分を成長させたいと思っています。

絵付けをされる相上さんの手元


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