【読書】速読は本の多産多死を生む ~「速読」ならぬ、「遅読」のススメ~

速読は、本の多産多死だ。
読書家で、「速読」ならぬ「遅読」である私の結論である。

1◆速読は本の多産多死◆

   私はこれまで、より多くの本を読むために、より速く読めるほうがいいと思っていた。
しかし、あいにく私は速読と呼べるようなペースで読書が出来ない。
「遅読」なのだ。
同じ文章を何度も読み直して理解することも多い。時間の無駄のような気がする。何とかして速読力を身につけなければ・・・と世間一般で評価される速読力という脅威に怯えていた。
   しかし、森博嗣氏の著作を読んで、その論はあっさり打ち砕かれた。

森氏曰く、本が速く読めるというのは、ものが速く食べれると同じで、「食べるときくらいゆっくりしたらどうだ」と言いたくなる。『常識にとらわれない100の講義』

趣味程度に本を読むには、速読はまったくナンセンスなのである。
あらすじだけを追うような読書は、果たしてその本の「一番美味しい部分」を味わっているのだろうか。
著者の文字には書かれていない「本意」のようなものや、作品の「空気感」や「読後感」を味わう余裕はあるのだろうか。
   『名探偵コナン』を観て、「身体は子ども頭脳は大人な、男の子の話だね」くらいのざっくりしたあらすじだけ伝えられると、もうちょっと情緒のある感想を教えてくれよ・・・とガックリしてしまう感じである。
そこには、作品の空気感、また行間から感じられる、
すれ違う恋愛のジレンマや、悪からの恐怖、その裏の著者の意図など様々な愉しみがあるはずだ。

   読書が速ければ、より多くの本が読める。このロジックは間違っていない。しかし、本の「多産多死」状態を生み出し得るのではないか。もっと分かりやすく例えれば、ジャンクフードの大量消費だ。1冊の本を味わう愉しみを知らなければ、本を読むという「作業」だけが上手くなり、肝心の「読解力」がついてこない。
   さらに、読書するうちに自己啓発本・恋愛・バトルもの、殆どのジャンルが、
ひとつのアウトラインに従っているに過ぎないと気づく。
全ての本をスピーディに読める能力よりは、どれか一冊に熱狂し何度も読み返し、日常生活にまで影響を及ぼすようなそんな本との付き合い方の方がはるかに重要である。
   速さだけを競うのは、危険だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2◆ひとつの本のエネルギー量を感じとる◆


   そして、ここからはあくあでも私個人の読書体験から言えることだということだけ注意喚起しておく。しかし、多くの読書家は共感できるのではないだろうか。私は、本それぞれに「エネルギー量」の違いが見える時がある。
エネルギー量が多いものをまとめてみた。

出版までの期間】著者が筆を執ってから短期間で出版されたであろう、若干の粗っぽささえも感じるもの
熱意】ものすごく書きたくて書かれたもの
執念、若さ遺稿集処女作などの、つづきを書く意欲が残ったもの

   そうしたエネルギーに圧倒されて、時にはゆっくり味わいながら、時には熱量にせかされるように早々と頁をめくるような。自分と、本との歩調が合うのが感じられると、「ああ、いい本に出会ったな」と思う。
   会社の資料やビジネス書ではある程度要点をかいつまんで理解することは求められるかもしれない。しかし、趣味でたしなむぶんには、いかに速く読み進めるかよりも、余裕を持ってどっしりと構え、本のスピード感に合わせてみながら読書を愉しむのが良いのではないだろうか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

おまけ◆「読解力」の重要性は科学的に証明されている◆

ここからは余談である。
   科学的にAI時代に人間がAIに勝る能力は「読解力」だけであるということも「速読」の無意味さを表している。
お手元のGoogleマップで確認できるので、試してみてほしい。
「レストラン 人気」でヒットするものと、「レストラン 人気ない」でヒットするものが同じ店ではないだろうか?
そう、Googleマップは単語に反応してすぐさま検索してくれるが、文章の意味を読み取ってはくれない。
速さで勝とうとすると人間は圧倒的に機械に負ける
しかし、読み取る力は人間に優位な能力なのだ
「どれだけ速いか」ではなく、「どれだけ理解できているか」を意識して読書をしたいと思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
森博嗣『常識にとらわれない100の講義』70 本が早く読める、酒がたくさん飲める、ということで自慢する人がいる。大和書房2012年
新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社 2018年


この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?