台北暮色

突然映画が観たくなった。だから映画館へ行った。


貪るように毎日毎日映画を見ていた高校の終わり頃

そしてその頃と距離をとって過ごしてきた大学以降の生活

年末に突然入ったSMS

そこで境界線がぼやけてしまった


何かが必要だった。ふと、映画が浮かんだ。

今、上映されている作品のリストを見て、直感でこれだと思ったのが”台北暮色”だった。

肩に乗せたシロハラインコを見つめる女性。
その表情は穏やかだけれども、きっとそれは相手が鳥だからなのだという気がした。

「どこまでも孤独、どこまでももろく、どこまでも強く。」と、キャッチコピーにあった。

そう、孤独だ。穏やかな表情の奥にある孤独が透けて見えた。


主人公をはじめ登場人物のバックグラウンドが全く見えない中、台北での日常の切り取りから浮かび上がっていく世界。
余計な説明がない。
ふとしたことから繋がっていく登場人物達。それでも繋がっていると言えるのか言えないのか。
微妙というか絶妙な距離感。

何だかよくわからないけれども、あからさまに温かいわけでもないのだけれども、温度はある。そんな空気感。

次第に明らかになっていく登場人物達の背景。
しかしそれも必要最低限の言及に留められている。
感じ取るのはあくまでも観客だ。耳を、目を傾けなければいけない。

私は、序盤の主人公と(ある程度深い仲であることが予測される)男性の電話のシーンで、台湾語の中に何故か時々英語が入ってくるところがとても気になっていた。
(字幕だと関係なく日本語に訳されてしまっているので気付きにくいと思うけれど)

その後、男と実際に話というか口論をしている中でも台湾語と英語がcode switchingしながら使われていて、その辺から男の生活や経済状況、仕事のことを想像しながら観ていた。
一方、男だけでなく、男と英語を交えながら話す主人公も、日本で言えば帰国子女みたいな雰囲気があるし、かといってそれ関連のことが描かれるわけでもないし、色々と謎だった。

その二人の過去については後々わかってくるのだけれども、その位の謎を残しつつも含みのある描写が私は好きだ。(これは志村さんや岸田氏の歌詞についても言えることだと思う。)

また、作中にはいわゆるお涙頂戴シーンも濃厚なラブシーンもなかった。
本当は、泣く場所を求めて映画に行ったところもあるんだけれども、その透明なトーンもなかなか心地よかった。
観ていて激しく心を揺さぶられるというよりは、じんわり何かを動かされる感じ。

橋の上を駆け抜けるシーンが一種のカタルシスだったのかな。その位がちょうどいい。


不思議な穏やかな気持ちになって映画館を出た。また映画を観ようと思った。


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以下、劇中の台詞を少し書きます。ネタバレが嫌な方はスクロールをお控えください。











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「人は距離が近いと傷つけ合う」

「人は距離が近いと愛し方を忘れる」

終盤、橋を走り抜けるシーンの前にそんな台詞があった。


はっとした。


やっぱりこれは今出会うべくして出会った作品なのだと思った。


ストーリーはエンストに始まり、エンストで終わる。

でも、冒頭では一人で押していた車に、最後は一人(+一羽)が乗っているし、後ろの車の人も手を貸していてくれている。

だからといって、決して簡単に状況が好転するわけではないのだけれども、でも、どこかに救いを見出せそうな予感が名残る。そのほのかな予感の優しさに洗われた爽やかなあたたかさを得た。良い作品に出会えたなと思った。

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