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よんだ「心とことばの起源を探る -文化と認知」マイケル・トマセロ著(勁草書房 2006)


【進化人類学】
大堀壽夫・中澤恒子・西村義樹・本多啓 [訳]

「認知」に関する文面、なかなか自分の中に入ってきにくい。
本文読んで⇔訳者解説を読んで、を繰り返しました。
訳者解説は有難い。このつなぎが無いと、本文に近づけないもので。

ヒトには、チンパンジーなどの類人猿にはない認知スキルが存在する。
それは他者を自己と同じく意図を持った主体として認知し、
行動の背後にある意図性と因果的構造のスキーマを見いだす能力
である。
すなわち、ヒトと他の類人猿の「紙一重」の差とは、
「模倣能力・同調能力」に他ならない。

訳者解説 P. 293

他者によって作られた「文化」という環境を、
その背後にある意図性とともに内在化する能力が人の特性なのである。

訳者解説 P. 293

創意工夫よりも、「文化」などを忠実に継承することが、「人」を「人」たらしめている、という仮説。

Karmiloff-Smith(1922)は次のような疑問を提示している。
人間は生物であり、したがって、他の動物と同じように
多くの特殊化した認知能力の領域をもっているのであるが、
それでは人間の認知は他の生物種の認知とどこが違うのだろうか。

第六章 談話と表示上の再記述 P. 259

彼女(=Karmiloff-Smith)が出した結論は、
人間を他の生物と区別するのは表示上の再記述というプロセス、
すなわち、人間が次々とより抽象的で適用範囲の広い認知スキルを
組み立てていくプロセス
である、というものである。
人間に特有の知識獲得の方法とは
心がすでに蓄えてある(生得的および後天的な)情報を次のようにして
活用することであるというのが私(=Karmiloff-Smith)の結論である。
すなわち、自らの表示を再記述する、より正確に言えば、自らの内的表示が表示するものを異なる表示の形式で繰り返し提示すし直すことによって、
人間の心はすでに蓄積されている情報を活用するのである。

第六章 談話と表示上の再記述 P. 259 - 260

子供はある行動をし、それから、あたかも他者の行動を観察するかのように、自分の行動とそれによって顕在化する認知の構造を観察するのである。
この内省的なプロセスの起源は上で検討したような省察的なメタ対話―
とりわけ大人が子供に教え込み、その教え込みを子供が内面かするというもの―にある。
ここでの私(=マイケル・トマセロ)の考えは、多くの認知スキルと同様、この内面化のプロセスに対する習熟度が増すと子供はこのプロセスを一般化することができるようになり、
結果として、自分の行動と認知を、外から見ている他人になったかのように、内省することができるようになる、というものである。

第六章 談話と表示上の再記述 P. 262

私(=マイケル・トマセロ)の考えは、
(・・・)幼児期の初期には、視点選択のプロセスが子供の認知発達の
すべての面に行き渡り始める、というものである。
その具体的な現れとして重要なのは次の二つである。

・(階層的なカテゴリー化、メタファー、アナロジー、数に見られるよう
  な)子供が物事を同時に二つ以上の視点から捉える能力が発達する。

・子供が自己の意図的な行動と認知を内省することによって行動と認知を
 表示上再記述し、ひいては行動と認知をより「体系的」にする能力が
 発達する。

第六章 談話と表示上の再記述 P. 264

子供は他社が表明した意見ーしばしば自分で決して思いつかなかったような考え―が実際に自分の外部にあることを理解していて、そのような考えを将来新たな状況で用いるために「自分のものにしたい」のであれば、
子供はそれらを流用または「内面化」しなければならない。

第六章 談話と表示上の再記述 P. 266

・思考の本質は記号を用いた活動であるというところにあると言ってもよ
 い。            ―ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン
・われわれの思考力は記号なしにはありえない。
               ―チャールズ・サンダース・パース
・有意味な記号としてのジェスチャーといものがあってはじめて心や知能が 
 存在することが可能になる。 ―ジョージ・ハーバート・ミード 
・思考はことばによって表現されるだけではなく、ことばを通して存在する
 ようになるのだ。      ―レフ・ヴィゴツキー

第七章 文化的認知 P. 269


人の話を聞ける、というのは、人生にとって大きなことだ。
あの頃の私には出来なかったのだろう。心を許せる人がいなかった。
信じられる人が出来ると、人生は変わる。
その人の言葉を聞け、自分とは違う考え方を知る事が出来るから。

いろいろな人の話を聞いて、自分の中に取り入れるか否かを決めて、
いろいろな視点を自分の中に持つ。
いろいろな視点を持てるということが、人の成熟度につながる。

また、なかなか本来の「旅」をすることは難しいが、「旅行」であっても、自分の生きてきた世界観とは異なるものと出会い、比較し、取り入れるかどうか決める。自分というものを別の視点から見らえるようになる。

親が赤ちゃんに寄り添って育てているからなのか、
赤ちゃんも(母)親に寄り添っている。
「親の世界の”注視”を共有したいと願い」
親の視点を、自分の内面に取り入れていく。
この事も、言葉の獲得につながっていく、らしい。

この本、はじめは少ししんどかったが、
三分の二を過ぎたあたりから、引き込まれた。
再度、パラパラしていたら、
子供の他社理解の発達過程の箇所があった。下記。

生きている主体。すべての霊長類と共通の理解(乳児期)。

意図をもつ主体。
 人間という種に特有の同種の個体の理解の仕方で、他者の目標達成を
 目指した行動と他者の注意の両方の理解を含む(一歳)。

心的状態をもつ主体。
 他者が、その行動に現れる意図や注意だけではなく、
 行動には表現されない可能性もある―「現実の」状況とは異なる可能
 性すらある―思考や信念ももっているという理解(四歳)。

第六章 談話と表示上の再記述 P. 240