ガチ中華でバイトしたい [これが私のアナザースカイ編]
自宅から徒歩圏内にあるファミ中(ファミレス然とした中華料理屋)へ面接を受けに行った。
開店前の中華料理店は厨房からの物音がするだけで妙な静けさをたたえている。ぎこちなく店内に侵入する僕を「你好」と店長が話しかけて面接が始まったのだが、彼女は僕の素性をすでに知っているようだった。
そう、僕はその1週間前にファミ中の中国人スタッフ(ファミニキ)とLINEを交換し、ほぼ毎日チャットに勤しんでいたので彼女の耳にも僕の情報が入っていたのだ。あなたの中国語はマジですごいなどと煽てられ、ウェルカムムード満載なのである。
面接(?)で訊かれたことは、どこに住んでいるかとどのように中国語を勉強しているかの2点だった。事前に持ってこいと言われていた通帳や身分証等を提出し、予定調和の過ぎる面接は終了した。
今まで散々苦労してきた求職活動が嘘のようで、少し呆然としたまま帰路についた。あくる日から業務が始まり、僕はランチタイムに入っていたのだが馬鹿みたいに忙しい。
加えて飲食店バイトの経験がほとんどないため、注文どりやホールでの動き方などわからないことが多く不安も多かったが、客にクレームをつけられても中国人のフリをしてすっとぼければ良いとの先輩のアドバイスをお守りとして胸に秘めて頑張っている。
ファミニキとご飯に行ったり、厨房にいる哥哥や姐姐(お兄さんやお姉さん)と楽しく交流を続けており、それはもう毎日が一気に充実し始めた。
「これが私のアナザースカイ」と心の中で呟いて毎度店のドアを押しているほどだ。
働き始めて数週間が経った今わかったことは、留学生を除く中国から来た厨房のシェフなどの社員たちは皆、母国に子供(小〜中学生)を置いて単身で日本に渡ってきていること。
本当は子供も日本に連れてきたがっている人もいるが、日本の制度的にそれが叶わないこと。
そんな彼らが作ってくれる賄いが美味しいこと。
先日、友人に会った際にファミ中の充実っぷりを話したところ、「居場所が見つかってよかったね」と言われた。
そこで初めて気づいた。僕はずっと新しい居場所が欲しかったのだと。
居場所が無かったわけでない。
ただ、就職などせず経済的にも社会的にもふざけた感じの僕は、ぶら下がれる場所がいくつか必要だった。
お金のためだったらもっと早く、そして割の良いバイトを始めていた。
中国語学習のためという動機だけだったら、上達が約束される厳しいガチ中華のバイトを始めればよかったのだ。
言語はあくまでもコミュニケーションのツールに過ぎず、心の底から求めていたのは彼らとの繋がりだったのかもしれない、と今になって思う。
彼らは皆、日本で強かに暮らしている。
大切な人と海を超えて生活する感覚を、未だ体験したことのない僕が彼らの作る賄いを食べて、厨房に向かい「非常好吃!」と叫ぶ。
アナザースカイは誰にでも作れるのだと知った。
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