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発汗コンプレックス(夏季)

人は誰しもコンプレックスの1つや2つを抱えているが、僕の場合は誇張なしで70個ほどある。そのせいで基本的に自分に自信が持てないのだが、普段からコンプレックスに対して真正面から悩んで生きているわけではないので、自信がないながらも朗らかに生きている。(happy)

そう。コンプレックスというのは、自覚する瞬間が問題なのであって、自覚させられる場面に晒されるまで、人は大抵コンプレックスのことなど忘れて平穏に過ごすことができる。

たとえば顔面の造形にコンプレックスを抱えている人も、カメラといえば「写ルンです」の時代であればまだしも、一眼レフカメラ並みの機能を備えたスマホが入り乱れ、容易に他者と比較できる現在を生きていれば、コンプレックスを自覚させられる機会が尋常じゃなく多いことは想像に難くない。

そして気温が徐々に上がってゆく今、数あるコンプレックスの中でも最も僕に強烈に自覚させてくるのが「汗」だ。
僕とある程度親交の深い人なら誰もが知っている常軌を逸した発汗量に向き合わねばならない時季がやってくることに、実は結構ドキドキしている。
汗が止まらない更年期障害の母親に心底共感できる、唯一の20代男性としてギネスに登録してもらえるんじゃねーかと思うほどのレベルなのだ。

ガチ中華で麻婆豆腐を食べれば頭からコップ一杯の水を被ったかのように濡れ、気温25℃以上の中5分以上歩けば、どんなに髪をセットしてもBBクリーム等を肌に塗っていようともシャワー浴びたての風貌に成り下がる。

以前、5,6月ごろに大学の就職課のおばさんに履歴書の添削をしてもらう機会があった。予定時刻に遅刻しかけた僕は走って行ったのだが、初夏の日差しも相まって当たり前の如く汗びっしょりになる。
そんな僕を見ておばさんは雨に打たれたと勘違いし、僕を労り、続けて彼女が今朝干してきたという洗濯物の心配をしだした。

終わっている。

居た堪れなくなった僕は正直に「あ、これ…汗です…」と申し訳なさそうに申告すると、彼女は「すみません!」とだけ絶叫し、3,4畳ほどの狭い面接室に気まずい空気が渦巻き始めた。僕の滴る汗によりインクが滲んだ履歴書が今でも脳裏に焼き付いている。

もちろんそんな状況下で添削された履歴書がその後まともな企業に通るはずもなく、僕を正社員として迎え入れてくれる企業は一社たりとも現れなかった。(現在に至ってもなお)
そもそも長所の欄に『好奇心・行動力・時々愛嬌』という頭のおかしい文言をぶち込んでいた自分が悪いのだが。
しかしこの文言は添削の際に笑われることはあっても一度も修正されることがなかった。その時からすでに見限られていたとでもいうのだろうか。

話が少し脱線した。
人様に夕立か何かに打たれたと思わせる僕の汗は一体なんなのだろう。生理的にどこかおかしいのではないのだろうか。僕の多汗エピは挙げればきりがないので割愛させていただくが、恐ろしさだけでも伝わったのならそれで良い。

ただ、昨年ほとばしる僕の汗を見て「一生懸命な感じがして可愛い」と言ってもらえたことが一度だけあった。

この価値観は使えるな、と密かに思っている。



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