心理学とNLPは何が違うのかを考えてみた
(ブログの再掲)
心理学関連の一般書を読んでいるときに疑問に思うことがあります。それは,「心理学の大家」としてNLPの創始者・実践者が紹介されたり,「心理学」と称してNLPが紹介されたりすることです。
NLPとはNuero Linguistic Programing(神経言語プログラミング)の略称で,NLP-JAPANラーニング・センターによると「別名「脳と心の取扱説明書」とも呼ばれる最新の心理学」らしいです。
心理学ならばNLPなんて名称をつけなくてもいいのでは?(〇〇心理学と言えばいいのでは?)と思ってしまったりしますが,おそらく,心理学から独立した独自の体系でありながら,心理学による権威づけがあるとなお良いという発想なのかなと思ったりもします。
個人的には「心理学とNLPは全く違う(別物だ)」と思っているのですが,いざ何が違うのか?と問われると,スラスラと答えられないような気もしました。
一度整理しておくと,不意に尋ねられたときも即興でスラスラと答えられるはず!と思いましたので,整理のために書いておきたいと思います。
学問の範囲
そもそも学問の範囲は一意に決められるものではないと思っています。たとえば,〇〇は心理学,XXは社会学のようにすっきり切り分けられることはないと思いますし,むしろそうやって切り分けることは弊害が多いと思っています。
もちろん多少は切り分ける必要がある場合もあると思います。たとえば,うわさを研究対象にしたとします。うわさの中でも,うわさをする人の心理を知りたいときは心理学的アプローチが良いと思いますし,うわさの浸透速度が速い社会について知りたいときは社会学的アプローチが良いと思います。でも,心理と社会は切り離せないので,どちらか一方だけやれば良いというわけではありません。どちらか一方だけやれば良いわけではないという意味で学問の範囲は切り分けられないし,だからといってすべてを一気に検討できないという意味で切り分ける必要があると思います。
このように学問の範囲は簡単に決められないわけですが,それでもなお「心理学とNLPは全く違う」と思っています。なぜなら,心理学とNLPではコミットするものが違うからです。
(そもそもNLPは学問ではないという考え方もあるかもしれません。とりあえず,その意見は脇においた上で心理学とNLPの違いについて考えてみます。)
「問い」と「答え」
そもそも心理学がNLPと同列に語られる場合があるのは,心理学とNLPが同じ疑問を共有する場合があるからです。たとえば,「円滑なコミュニケーション方法とは?」という疑問があります。この疑問は心理学でもNLPでも扱います。そして,それに対する「答え」も心理学とNLPで一致するかもしれません。たとえば,自己開示4:6の法則みたいな「答え」が出るかもしれません。
大事なのはそのあとです。心理学では一度「答え」を出したあとでも,「問い」に開けています。「なぜそうなるのか?(4:6になるのはなぜか?,なぜそういう法則が存在するのか?,など)」と考えたり,「成立条件はあるのか?」と考えたりします。一方,NLPは「答え」の後に「問い」はありません。あるとしても,より効率的な方向を目指した「答え」にたどり着くための問い(4:6の法則がうまく確率を高めるにはどうしたら良いか?など)です。
他の例でも考えてみます。たとえば,「セールス(売上)を上げる営業の仕方」を知りたいとします。心理学でもNLPでも生じうる疑問でしょう。それに対する「答え」も心理学とNLPで同じかもしれません(たとえば,“PPPN”がセールスを上げる,みたいな)。その「答え」の実践に関してはNLPも心理学も肯定的です。ただし,繰り返しになりますが,NLPは「答え」の実践のみが目的ですが,心理学では実践中でも「問い」を見出す構えを持続させています。
要するに,心理学では「答え」とともに「問い」にもコミットしています。一度出した「答え」に対して「問い」を深めたり,「問い」を広げたりします。他方,NLPでは「答え」(メソッドの確立)にしかコミットしていません。「答え」の効率性の探究するかもしれませんが,「答え」から「問い」が生まれることはありません。ここが大きな違いかと思います。
心理学とNLPの重なり
ちなみに,心理学とNLPが同じ疑問を共有する場合があると書きましたが,それ以外にも,重なっている部分はあります。
たとえば,NLPは心理学的知見を実践へと応用しているという点で心理学と重なっています。実践心理学とか使える心理学とか呼ばれたりもしています(学問としての心理学は使えない心理学ってことなのかな?)。
また,個人の視点でみていくと,どうしても重なってしまう部分もあります。たとえば,「円滑なコミュニケーションの方法を知りたい」と思った人が心理学的アプローチでその疑問を研究し実践するだけ(そこから「問い」を深めたり広めたりしない)であれば,NLPと心理学との区別はつかなくなってしまいます。
このような重なりがあるから,NLP=心理学となってしまうのだと思います。
しかし,繰り返しになりますが,心理学とNLPには根本的な違いがあるので,重なり=類似点はあっても心理学ではないと思っています。
まとめ─心理学とNLPは違うもの
心理学とNLPは似ている部分があるのは事実です。他方,心理学は「答え」とともに「問い」にもコミットする一方,NLPは「答え」(メソッドの確立)にしかコミットしません。コミットするものが違うという点で両者は根本的に異なっています。ですので,NLPは心理学ではありませんし,心理学の一部でもありません。NLPを心理学と称しているモノは心理学に対する表層的な理解しかありません。
ですので,一心理学者として,心理学と称してNLPを紹介している書籍やサイトには注意してほしいと思います(心理学的に偽であることがNLPでは真であることもあるため)。
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