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働くについて最近考えたこと

私の仕事は大学教員または研究者です。ふだんは心理学についての講義をしたり,心理学の研究をしたりして働いています。

研究について講義で教えたり,論文を書いたりするのが仕事ですので,どうしてもデータ(エビデンス)がないといけないと思ってしまったり,論理的あるいは説得的に文章を書かないといけないと思ってしまうところがあります。

ですが今回のお題は「はたらくを自由に」ということですので,大学教員/研究者という立場はいったん忘れて,「働くこと」について自由に思いのまま書いてみたいと思います。

何のために働くのか?

最近よく考えることがあります。私たちは何のために働いているのか?ということです。

「お金」のために働いている場合もあれば,「家族」のために働いている場合もあると思います。特にそういった理由はなく,働くことは「義務」だから働いている場合もあると思います。何のために働くのか,つまり働く理由は色々あると思います。

ただ,これらの理由をまとめると,働く理由は「生活」のために集約されるのかなと思います。お金がなければ生活できないですし,家族と楽しく過ごす(=生活)ために働く必要があるのかもしれません。義務だから働くという場合でも,働かなければ社会生活を送れない(と思っている)から働くということかと思います。

「生活」のために働くというのは何も今に始まったことではないと思います。太古の昔,たとえば狩猟採集民にとって狩りをする(=働く)ことは「生活」に直結していたわけですし,たとえばソ連崩壊に象徴されるように働かなければ「生活」を維持することさえできなくなります。

私たちは何のために働いているのか。突き詰めれば,「生活」のために働いていると言えるのかもしれません。

どのように働くのか?

「生活」のために働いているとして,次に気になるのは働き方についてです。

働き方は大別して2種類あると思います。一つは組織に属さない働き方,もう一つは組織に属する働き方です。自由業(フリーランス)と会社員と言い換えることもできるかもしれません。

どちらの働き方にしろメリット,デメリットはあります。パッと思い浮かんだだけでも以下のようなものがあるかと思います。

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これらのメリット/デメリットは各働き方の多くの場合にあてはまると考えたものです。個別的にはあてはまらないこともあるかと思います。たとえば,会社員でも就業時間が決められていない場合などはあるかと思います。

これら以外にも働き方に付随するメリット/デメリットは多様にあり,何に重きを置くのかは人それぞれだと思います。ですので,個人に合う働き方を選べることが良いのだと思います。それが個人が自由に働く方法かなと思います。

自由に働けない理由

しかし,どの働き方であっても,起きてしまうと問題だと思うことがあります。それは,「生活」を人質に取られることです。「生活」を人質に取られると,私たちは自由に働けなくなります。

たとえば,フリーライター(自由業)で考えてみます。フリーライターは何らかの記事を書くことが仕事なわけですが,生活できるほどの収入を得られない(「生活」を人質に取られる)と,本来は書けそうもない(専門外の)記事に手を出してしまったり,究極的にはバズるだけが目的のフェイク記事を書いてしまうかもしれません。「生活」を人質に取られることで,書きたかったことを書けなくなり,自由に働けなくなってしまいます。

会社員でも同様です。会社員は収入を会社から頂くわけですが,逆に言うと,会社が給料を調整することで,会社員の働き方を操ることも可能です。たとえば,「給料を倍にするから,あそこの土地を奪ってこい」とか,「ノルマ達成できなかったら,昇格の話はナシだ」とかです(ドラマの見過ぎかな...)。これらは極端な例ですが,このように「生活」を人質に取られてしまうと,自由に働けなくなります。

最近話題になることもある研究不正も,研究者の「生活」が人質に取られてしまった結果起こったことのように思います。「生活」を人質に取られた研究者が,やりたくもない研究不正をしてしまったのだと思います。

「生活」を人質に取られてしまうと

このように「生活」を人質に取られてしまうと,自由に働けなくなります。それだけではなく,「人生」の搾取も生まれてしまいます。

「人生」の搾取とは端的には生きがいの喪失です。たとえば,上述したフリーライターであれば,書きたいことや伝えたいことが書けなくなってしまいます。会社員であれば,その会社で達成したかったことができなくなったり,望まないことをしなければならなくなります。自分の人生の輝きが失われて,他者の人生の輝きのために自分の人生が搾取されていきます。

さらにこの「人生」の搾取には負のスパイラルがあります。搾取された人がさらに他者の「人生」の搾取に関わってしまうというスパイラルです。

たとえば,「生活」を人質に取られた研究者が研究不正「記憶力をアップするハニカミ法を発見した」というウソの報告を行なったとします。それを信じてハニカミ法を実践した人,学校,自治体はどうなってしまうでしょうか。時間,希望,お金など様々なことが奪われるとともに,それを実践することで達成したかったこと(=「人生」)も奪うことになってしまいます。ハニカミ法だと重要性が低いと思うかもしれませんが,たとえば,ガンが完治する薬とか,新しい代替エネルギーとかの発見であればその重要性が実感できるかもしれません。

このように,私たちが「生活」を人質に取られて自由に働けなくなると,その人たちが「人生」を搾取されるだけでなく,他者にも「人生」の搾取の波及効果は広がります。

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ですので,「人生」を搾取されたり,搾取したりしないためにも,「生活」を人質にしている要因を探り,それを解消することで,「生活」を人質に取られない形で働くことが大事かなと思います。

自由に働くには

そもそも私たちは「生活」のために働いています。だからこそ「生活」が人質になりうるわけです。

「生活」を人質に取り,自由な働きを奪う存在は何も人間だけではありません。たとえば,組織でも(賃金を下げるとか),制度でも(非正規雇用を増やす政策など)ありえます。だから私たちは組合や政治(選挙)を通して「生活」を人質に取るようなものに対抗していかなければならないのだと思います。

加えて,思想も「生活」を人質にとり,人を自由に働けなくしてしまいます。その思想とは「組織(集団)のために個人がある」という思想です。

たとえば,会社(組織)では,「会議の日は休まない(休みを取らない)」のような暗黙のルールがあります。会議という集団の和を乱さないために,個人が休んではいけないわけです。これは「組織(集団)のために個人がある」という思想の反映です。

また,自由業の技術が低く見られているのもこの思想の反映かと思います。たとえば,文字単価0.5円の執筆依頼とかがあります。私は3000~5000文字の記事をnoteで書くことが多いですが,執筆する時間(構想も含めて)だけで最低2~3時間かかります。もちろんいきなり書けるわけではなく,下調べに執筆の倍以上の時間はかかるので,最低でも1記事に6時間以上はかかっています(なので,文字単価0.5円×5000文字=2,500円,時給で言うと417円)。会社(記事を依頼する側)のために個人がある,ないしは,社会(世の中)のために個人があるという思想だから,自由業が買い叩かれるわけです。

思想はすべての根源です。人にも思想がありますし,組織にも思想がありますし,制度にも思想があります。だから私たちは思想「組織(集団)のために個人がある」を変えなければなりません。働くを自由にするためには,「個人のために組織(集団)がある」という風にこれから思想を変える必要があるのだと思います。

これからの働くにむけて

働き方は多様化してきました。正直,「何その職業!?」と思うような職業もあり,世界は変わってきているなと実感します。その意味では,はたらくは自由になっていると思います。

他方,働く理由は昔から大きく変わっていないように思います。また,「組織(集団)のために個人がある」という思想も昨今現れたものではなく,昔から脈々と続く思想かなと感じます。これらの意味では,はたらくは自由になっていないと思います。

これからのはたらくを自由にするためには,働く理由と働くことへの思想を変化あるいは多様化させていくことが必要なのかなと思います。

おわりに

長々と書いてきましたが,私もまだ働き始めたばっかりです。ですので,働くについてまだまだ初心者です。また,ここで考えた「これからの働く」は抽象的な話で終わってしまっています。抽象的な話だけでは不十分で,具体的な方策を考えていかなければなりません。

「これからの働く」を具体化していくために,多くの人が「はたらくを自由に」できるようにするために,学者として,働きながら方策を考え,そして実践していきたいと思っています。

ただそばにいることがサポートなのかなと思っています。また見に来てください。気が向いたときにご支援お願いします。