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嫌われたくない人。

恋窓-koimado-へのご相談>

 自分自身を好きになれなくてコンプレックスだらけです。だけど,手の届かない自分にないものをもった人にあこがれてしまいます。それは好きとは違うのかもしれないけど,好きというのがよくわかりません。でもせめて嫌われたくないと思ってしまいます。
 これは好きなのでしょうか。また,どのようにしてこういう思いを克服していいのかわかりません。(女性)

 私なりにお悩みを3つに分解して考えてみました。

(1)手の届かない自分にないものをもった人にあこがれてしまう。これは好きなのか?

(2)嫌われたくないと思ってしまう。これは「好き」なのか?

(3)どのようにしてこういう思い(嫌われたくないと思ってしまうこと)を克服できるのか?

 (1)と(2)に関しては,突き詰めていうと,「好き」とは何かという難しい問題かと思います。(3)も難しい問題ではあるのですが,心理学的にも少し大胆にお答えしてみたいと思います。

「好き」にはいくつかの要素がある

 「好き」とは何なのか?これについて明確に答えるのはなかなか難しいです。多くの心理学者が「好き」について研究を重ねてきましたが,今現在「好きとは〇〇だ!」というような統一的な答えを見いだせてはいません。

 しかし,好き(恋愛)に含まれる要素には以下のものがあるだろうとは言われています。

独占
密着・熱中
熱情・苦しさ(不安定さ)
信頼・尊敬
楽しさ
気楽さ
愛他
性行為

 このように,「好き」(恋愛)はいろいろな要素で成立するため,「手の届かない自分にないものをもった人にあこがれる」(尊敬)も,「嫌われたくないと思ってしまう」(熱情・苦しさ(不安定さ))も,「好き」な気持ちに含まれると思います。

「手の届かない」=理想水準,「自分にないもの」=相補性

 「手の届かない自分にないものをもった人にあこがれる」も,「嫌われたくないと思ってしまう」も,「好き」で間違いないと思いますが,それらの気持ちについて心理学的にもう少し詳しくみていきたいと思います。

 まず,「手の届かない自分にないものをもった人にあこがれる」。これは相補性や理想水準という観点からとらえることができると思います。

 相補性とは,態度や価値観などが自分と違う相手に対して魅力を感じることです。たとえば,おしゃべりな人が話を聞いてくれる人を好きになるなどです。「自分にないものをもった人にあこがれる」は,相補性の一例かと思います。

 また,「手の届かない」という部分は理想水準と関わっていると思います。理想水準とは,望ましい目標のことです。たとえば,海外旅行に行きたいとします。貯金は10万円です。このとき,パリへの旅行を企画しようとすることが理想水準です。この例は少し極端ですが,自分が達成できそうなことよりも高めに目標を立てることが理想水準です。他方,自分が達成できる範囲での目標は現実水準と言います。

 現実水準と理想水準のどちらを用いるかには個人差がありますが,恋愛に関して理想水準が用いられやすいことを示した有名な実験があります。ウォルスターらのコンピュータ・デート実験です。この実験では,どのような人をデート相手に選ぶのかを調べていました(※)。ウォルスターらの仮説の一つは「身体的魅力が同程度の相手を選びやすい」でしたが,実験の結果は「身体的魅力の高い人を選びやすい」でした。自分の身体的魅力が高かろうと低かろうと,デート相手としては身体的魅力の高い人の方が良いという結果です。要するに,デート相手には現実水準(自分と同程度)よりも理想水準(望ましい相手)が用いられました。このように,「手の届かない」を理想水準と考えるのであれば,「手の届かない」人を好きになることは起こりうることだと言えます。

(※)実験の詳細は,『対人関係を読み解く心理学』の64ページや『恋愛の科学』の67ページ,あるいは原典をご覧ください。

「嫌われたくない」=評価懸念,あるいは見捨てられ不安

 次に,「嫌われたくないと思ってしまう」という気持ち。これは評価懸念と呼ばれます。評価懸念(fear of negative evaluation)とは「他者からの否定的な評価に対する心配,および否定的に評価されるのではないかという予測に対する不安の程度」です。評価懸念は大なり小なり恋愛中に経験されうるものだと言われています。相手が好き,あるいは,大切だからこそ,嫌われたくないと思ってしまうのかもしれません。

 アタッチメント理論と呼ばれる枠組みで考えると,「嫌われたくない」という気持ちは見捨てられ不安が高いと言い換えることもできるかもしれません。見捨てられ不安(関係不安とも呼ばれます)とは「アタッチメント対象者に拒否されることや愛されていないことへの不安の程度」です。アタッチメントとは「特定の他者に対して形成する情緒的な絆」のことですので,アタッチメント対象者とは,簡潔に言えば,大切な人です。「大切な人から拒否されてしまうかも」「大切な人に愛されていないかも」と思うことを見捨てられ不安が高いといいます。アタッチメント理論によれば,自分自身に対する信念や期待がネガティブだと見捨てられ不安が高くなると言われています。要するに,自分には愛される価値がないと考えてしまうと,あの人から拒否されてしまうかもとか,あの人に愛されていないかもと不安になり,嫌われたくないと思ってしまいます。

嫌われたくないという思いを克服するために

 では,嫌われたくないと思ってしまうことをどのように克服できるのでしょうか。かなり難しい問いですが,パフォーマンス心理学(※)の観点から考えてみたいと思います。

(※)パフォーマンス心理学とは,米国を中心に40年近く続いている草の根の心理学実践から生まれた心理学です。心理学の教科書にはほとんど載っていませんが,最近,日本でも徐々に紹介されるようになってきた考え方です。

 パフォーマンス心理学におけるパフォーマンスとは,自分とは異なる人物を演じたり,他の人物の振りをしたりすることです。「パフォーマンスが良い/悪い」のパフォーマンスや,「コスパ」のパフォーマンスとは意味が違う点に注意してください。ある役割を演じること=パフォーマンスと考えていただけると良いかと思います。

 その意味で,相談者さんは現在「コンプレックスだらけの自分が嫌いで,他者から嫌われないように振る舞う人物」を演じていると言えます。これが現在のあなたのパフォーマンスです。

 ですが,あなたは,これ以外のパフォーマンスをすることもできます。これまでの生活で身につけてしまった今現在のパフォーマンスを超えて,新しいパフォーマンスを身につけることができるのです。ですので,新しいパフォーマンスを演じることが嫌われたくないという思いを克服するカギになります。

 「新しいパフォーマンスを身につける」と言っても,「そうですか,ではやってみます!」となるのは難しいと思います。どのようなパフォーマンスがあるのかもわからないですし,簡単に新しいパフォーマンスを身につけられたら苦労しないですよね。ですので,私からの提案です。まずは小さな取り組みをしてみて,その取り組みの結果を私に報告してもらえませんでしょうか。その取り組みとは以下です。


【取り組み】
「できない」あるいは「できるはずがない」と言いたくなることをしなければならない状況に身を投じてみてください。たとえば,仕事であれば,普段なら引き受けないプロジェクトにあえて志願するなどです。さすがにそれはハードルが高い!ということでしたら,たとえば,嫌われたくないと思う人に自分のコンプレックスについて話してみるなど,いつもとは違う会話を誰かとしてみてください。


 以上の取り組みのポイントは,「そんなの無理!できない!」と思えるようなことをしてみる(あるいは,しなければならない状況にする)ことです。そのような取り組みをしてみて,その結果について教えてください。そこに,嫌われたくないという思いを克服するカギがあるはずです。

 ご報告をお待ちしています。


参考文献

有泉 優里(2006).アタッチメント理論から恋愛を考える 齋藤 勇(編) イラストレート恋愛心理学──出会いから親密な関係へ── 誠信書房

松井 豊・上瀬 由美子(2007).社会と人間関係の心理学 岩波書店

茂呂 雄二(2019).パフォーマンス心理学とは 香川 秀太・有元 典文・茂呂 雄二(編) パフォーマンス心理学入門──共生と発達のアート── 新曜社

仲嶺 真(2019).恋愛関係の開始 畑中 美穂・宇井 美代子・髙橋 尚也(編) 対人関係を読み解く心理学──データ化が照らし出す社会現象── サイエンス社

Salit, C.(2016).Performance breakthrough: A radical approach to success at work. New York: Hachette Books.
(サリット,C. 門脇 弘典(訳)(2016).パフォーマンス・ブレークスルー 壁を破る力──今そこにある限界がみるみる消える!驚異のメソッド── 徳間書店)

冨重 健一(2001).「アイデンティティのための恋愛」に関連する要因 日本青年心理学会大会発表論文集,9,47-48.

臼倉 瞳・濱口 佳和(2015).小学校高学年および中学生における対象別評価懸念と適応との関連 教育心理学研究,63,85-101.

Walster, E., Aronson, V., Abrahams, D., & Rottmann, L.(1966).Importance of physical attractiveness in dating behavior. Journal of Personality and Social Psychology. 4(5), 508-516.

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