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上五島の旅:小値賀島に行ってきた。(2日目そのいち)

到着だけで終わっちゃった旅の記録1日目からの続きです。

到着時の雨はあがって2日目は晴天。でも、とにかく朝から強風が吹いて寒い中、宿で電動自転車を借りて1日小値賀の島内観光に出かけてみた。

小値賀島は面積25平方キロメートルぐらい、外周だけならまぁギリ一日で自転車でまわりきれるかな…っていうサイズの島。車の運転ができない私は、これぐらいのサイズ以下の島がちょうどいいです。佐渡島とか沖縄本島あたりは自動車ないと到底まわれないサイズなので、私の中では島というよりほとんど「大陸」。

小値賀島に行ったら是非見学してみたかったとこがあって、朝食後は前夜に暗くなってから到着して様子が全くわからなかった港付近の地理を覚えるため軽く自転車で走り回ったあと、電話で予約していたその場所に向かった。

島で100年経営を続けている活版印刷所、晋弘舎さんです。

平日だし、見学とか体験は難しいかなーと思ったけど、事前に連絡してみたら、10時ごろならよいですよ、とおっしゃっていただけたので、島のメインストリートの坂を登り、少し路地をはいったとこにある印刷所に。

去年の暮れに「大人の科学」という雑誌の付録で、プラスチックの組み立て式のミニ活版印刷機を作って、そりゃあもう大変な思いをして会社の人に渡す年賀状がわりのカードを印刷したんだけど、なかなか思った感じには印刷できないし、活字はあっという間に上下左右を見失っちゃうしで大変で。

苦労した割には仕上がりからその苦労が伝わらず、はがゆい思いをした。パソコンとプリンターで誰でもチャチャっと印刷できちゃう時代だから、ここの!凹みが!!とか説明しても、なかなか反応が…(^_^;)

でも、印刷の仕組みを理解できて面白かったし、考えた人アッタマいい!ってワクワクしたし、「銀河鉄道の夜」のジョバンニが働いていたような、漢字もアルファベットも全部揃った活版印刷所って、いったいどんな感じだろう…って思った。ひらがなだけでもこんなに訳がわからなくなるのに、漢字仮名交じりで新聞とか活字を拾って作るなんて発狂しそう!と思ったし。

その時はそれきりで活版印刷のこともしばらく忘れてたんだけど、島旅を思いついてから小値賀の見どころを探していたら、あれ、活版印刷所あるんだーって思い、出発の直前になってから、そうだ大人の科学だ!って思い出して、訪問してみたくなったのだ。

到着後、入り口がわからなくて右往左往しちゃったんだけど、お休みで店側のドアが閉まってたみたい。わざわざ開けていただいてありがとうございました。

中はこんな感じ。

圧巻。漢和辞典のように字画で並んでるんだけど、印刷所4代目の横山さんはどの文字もだいたいの場所は覚えてるとのこと。すごいぃいい。大きさ違いもあるしすごい数なのに。

私の本名の漢字が入ってる棚を教えてもらってパチリ。旧字体の位置に入ってるものもあるので、最新の漢和辞典とは若干並びが違うのだそう。

ミニチュアじゃない印刷機。かっこいぃい…

学生時代の編集校正のアルバイトで、活版印刷の印刷物を扱った。最近の印刷物はほとんど活版使わないので、文字が横倒しになってる、なんていう誤植は基本的にはもう存在しない。そういう校正記号を覚えてる校正者さんも減っただろうなぁ。そう思うと、あれも貴重な経験だった。

長崎は出島もあり欧米文化がいち早く取り入れられる地域だったので、活版印刷所もかなり早い時期から存在したのだそうだ。小値賀の印刷所も1世紀続いた印刷所を、若い横山さんが継いでいる。絵葉書やホームページに使われているレトロ可愛いイラストは、横山さんの新作なのかなーと思ったら、おじいちゃんの時代に作ったものなんですって。

横山さんは島外でも活版印刷の良さを伝えるための活動をなさっていて、その結果今では島外からの注文が殺到していて名刺も受付数ヶ月待ちの状態だとか。

私もプライベートの名刺をお願いしたんだけど、出来上がりはいつ頃になるかなぁ…でも楽しみ。のんびり待ちます。活版印刷らしいゲタ(〓←こういうマーク。活字の)をあしらったデザインにしていただく予定。

お忙しい晋弘舎さんだけど、タイミングがよければ印刷体験ができることも。ただし大工場ではないので、必ず事前予約を。まずは小値賀アイランドツーリズムに相談してみるといいと思います。

横山さんにお礼を言って店を出て、次は島のメインストリートから少し入ったところにある歴史民俗資料館に行ってみた。翌日渡る野崎島と小値賀島の歴史のことなど、サクッと勉強しておこうと思って。

資料館は建物じたいが景観資産になっている。小値賀がクジラ漁などで栄えた時代の小田家の屋敷だそうで、昔は平戸のお殿様もここに泊まったのだとか。

展示室ひとつの小さな資料室なんだけど、中身は充実している。世界遺産に登録された長崎の潜伏キリシタン関連遺跡というのは、複数の時代にかかる構成要素がわりと複雑なんだけど、その大枠がわかる展示や動画のほか、翌日訪れる野崎島の野首教会で実際に使われていた道具類とか建設当時のステンドグラス(ヨーロッパからの輸入品だそうだ)、小値賀島の島内の遺跡から出土した土器片とか、中国との交易の歴史を示す陶器類など、結構たくさん見るものがある。

資料室とセットで見学できる小和田家住宅は入り口からは想像できない広さで、欄間や襖の金具なども凝っていて、たぶん古い日本家屋に詳しい人ならここだけ見てても、あっという間に時間が経っちゃうんじゃないかなーと思う。古い漁の道具や大きなクジラの骨なんかも見られる。全部合わせて入場料100円は安い

ちなみにこのお屋敷を町に寄付された小和田家のおばあちゃまは今は本土にお住まいで、島を訪れるときは、もとはご自宅なのに律儀に100円払って家に入っておられるそうです(笑)。

資料館で特に面白かったのは、小値賀町の教育委員会が作成したという島の民話や言い伝えを子供向けの漫画にした本。クジラ漁にまつわる昔話や、江戸時代の島同士の漁場争いにまつわるとんち話など、すっごく面白くて「これ買いたいです!」と言ったのですが、すでに絶版でここと学校の図書館ぐらいにしかなく、館内閲覧のみだそうだ。

短いお話を再録して、絵葉書とか薄い冊子の分冊にして売っちゃえばいいじゃないですか、私買いますよ!と言ったんだけど、資料館は教育委員会予算の運営で営利であんまりお金儲けしちゃいけないので、お土産とかグッズも販売できないんです…という話だった。

こういうの、本当にもったいないなぁーと思う。この前旅行した遠野では、観光情報センターの土産物と一緒に、教育委員会編纂の民話聞き語りの本とか、郷土芸能のわりとお固い調査報告なんかも売ってた(←私も買った)。コピー用紙にホチキスどめでもいいから民話の小冊子とか作って置いといたらきっとみんな買うのに…っていう話は、置いてあったアンケートにも書いてきた。

お金儲けがダメなら投げ銭で寄付してもらってもいいと思うんだよなぁ…。時間的に全部の漫画は読めなかったの心残り。また行った時のお楽しみ。是非再販してほしい。

ほぼ貸切状態だったので、職員さんが展示物もあれこれ丁寧に解説して下さって、どのようにして野崎島にキリシタンが渡っていったのかなど、詳しく知ることができたのも良かった。私は小値賀も野崎もキリシタン島でカトリック信者が今も多いのだろう、と思いこんでたんだけど、実際は仏教徒や神道の信者が大多数なのだ。

野崎島は天然の奇石を神体とする神社が古くから有名な神道の島で、島に渡った潜伏キリシタンたちも、神社の氏子に数えられていた。むしろそういう隠れ蓑があったからこそ、長年に渡って島外からの疑惑と干渉をかわして潜伏していられたのだという。

自身はキリシタンでもなく、捕まれば自分も打ち首獄門の危険があるのに、明日には処刑されるというキリシタンを船底に隠して野崎島まで渡してやったという小値賀の回船問屋の「田口さま」の話など、野崎島に渡る前に勉強できてすごく良かった。

野崎ではトレッキングで舟森集落まで行ったんだけど、この場所にどんな風にして最初の隠れキリシタンたちが上陸したのか、知ってて見るのと知らずに見るのではぜんぜん感じ方が違うと思う。

ちなみに、この資料館は島の表玄関にあたる笛吹集落のメインストリートをかなり上がったところにあるんだけど、資料館で聞いた話では、かつては小和田家の屋敷の目の前が船着場だった、という話。つまりこの高台も埋立地。もともと小値賀島は火山性の二つの島だったものを、鎌倉時代の埋め立てによって一つの島にしたというのだからすごい。大公共事業だ。

郷土資料館なんて大抵地味だし行く人は少ないかも知れないけど、ガイドブックに載ってないことをいっぱい知ることができるし、それはその場所を旅したことの特別感にも繋がっていくので、私はとりあえず覗いてみることをおススメしたい。まぁ場所によっては古道具置いてあるだけってレベルの資料館もあるけど、当たりのときはすっごいお得感あるので。

資料館で聞いた話では、野崎島の野首教会は世界遺産に選定された各地区の教会の中でも特に人気が高く、ここの写真は「長崎の教会群」の観光情報には必ずと言っていいほど使われている。変な話、他島の土産物のデザインにも使われてたり。

いっぽう島を管理してる小値賀島には、意外と教会グッズがない。あまりガツガツしてないのは、高度成長期の集団離島により島が無人島化していて、教会は現役ではない「元教会」なので、熱心な住民信者の集団が教会保全に取り組んでいる他の現役の教会群とは事情が異なる、ということも大きいようだ。クリスチャンが少ない小値賀島の住民の人たちにとっては、あまり自分ごとではない感じ、というか。

しかも、小値賀島から町営船で愚直に野崎島を目指すルートで来る観光客は案外少ないのだそうだ。小値賀島そのものに目立つ観光資源が少なく(と、島の人たちは口を揃えて言うのだけど、私は3泊でも足りないぐらい満喫したんだけどなぁ…。人混みが嫌いで、ひとり旅では混雑するメジャーな観光地を避けることが多いので、どこに行っても「え、泊まるんですか?」「なんにもないですよ」とか言われがちなんだけど、地元の人が『何ということもない』と思ってることが、我々観光客にはいちいち物珍しかったり美しいと思ったりするの、なかなか通じないものだなぁ…と思う)、季節によっては町営船もしばしば欠航になるので、もっと広くて島内にも観光資源が多い別の島か本土に泊まって、団体向けチャーター便などで島に向かう観光客が多いとのこと。

チャーター便のツアー客は、一日に沢山の教会を巡るので、教会周辺でぱぱっと写真を撮ったら、すぐまたチャーター便で別の島か長崎本土に行ってしまう。かくして管理者の小値賀町には観光客のお金もろくに落ちず、環境保全の責任だけ負担するような形になっているのが現況らしい。

世界遺産なんかになったら島も観光客でごった返してるのでは…?』という私の予想はちょっとズレていたようだ。小値賀島は、民泊や古民家を改装した小洒落た宿泊施設の整備なども早くから手をつけていて、メディアにも取り上げられることが多いし、小さな離島としては観光化もうまく行ってるほう、という印象だったのだけど…。それでも温泉などの「もうひと押し」がないと宿泊客はなかなか集まらないらしい。離島観光って難しいんだなぁ…

でも、小値賀島は小さな離島にしては珍しく島内に高校まで学校があって(小中高一貫教育で島外からの見学も来るほど)、都会からのIターンやUターンの若者も、近年そこそこ増えているようなので、いくつか離島を旅行した経験からすると「これからも人が暮らして生き続けていく島」な感じがする。資料館の目の前にも、こんな新しい可愛いカフェが出来ていた。

午後は島の北西にある斑島を目指すので、まずは腹ごしらえ。島の北西部には飲食店などはないので、おやつとかも笛吹で調達した方がいい。

若いご夫婦二人でやってるお店、すずらんです。子連れとかも入りやすそうな雰囲気だったな。

夜もお魚の予定だったのでお肉にしました。豚キムチ!もちろんお魚料理もあるよ。

長くなったので続きはまたの機会に。気づいたらもう一ヶ月前の話なんだなぁ。忘れる前に書いとかなきゃ。

#小値賀島 #島旅 #長崎 #1811 #活版印刷 #大人の社会科見学


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