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2月文楽は近松ざんまい。

今月の文楽は近松名作集、3部構成だったので、一部と三部、二部の2日にわけて国立劇場いってきました。

2月5日 平家女護島、冥途の飛脚
2月11日 曽根崎心中

配役その他はこちらから

何を隠そう、私が「私たぶん歌舞伎つて好きじゃないな」と思ってしまったきっかけの作品が、平家女護島と同じテーマの俊寛でした。

たぶん鑑賞会とか、さわりしかやらないようなのを見たか寝てしまったかして話の流れがイマイチ把握できず、声が悪いと言われる団十郎が俊寛役だったのでクライマックスの台詞もよく聞こえず、おそろしく退屈だったのです。そんなわけで鬼門の作品、どうかなーと思って見に行ったんですが、いや十分面白かった。

あづまやの自決から、海女の千鳥とのやりとりを含む前段がしっかり入っているので、俊寛が島に残るまでの話の流れがしっかりわかったし、簑助さんの千鳥は健気で可憐でぎゅっと抱きしめたくなるし。あと清盛が鬼畜。この後たたり殺される流れなので我慢できますが。

辛気臭い話ではあるのですが、途中若い侍に千鳥との馴れ初めを話させるくだりとか、出家の身である俊寛まで「なんだこのエロ坊主!」ってツッコミたくなるようなニヤけっぷりで(貝がどうしたとかワカメがどうしたとか、いかにもエロティックな暗喩だらけの男3人の猥談に結構時間を割くのですよ…「雨夜の品定め」並みで私はオェエってなりましたが)、昔の観客はこのシーンでニヤニヤ笑ってたんだろうし、緩急はあるんですね。

そして近頃私の推し人形遣いである和生さんの俊寛が、非常ーによかった。立ち役から娘役までこなすオールラウンダーで、文雀さんが亡くなられてからは首割りも和生さんの担当だとか。去年の紅白では顔は出してませんでしたが、石川さゆりとのコラボでの人形は和生さんが遣ったそうです。

2枚目主人公の多い玉男さんや、何かと華やかな役やケレン味のある役がついて目立つ勘十郎さんに比べてちょっと地味なポジションではあるんだけど、とにかく和生さんの人形に最近グッとくるというか、魂が乗り移った感を感じることが増えた気がするんですよ。とにかく「もっと評価されるべき」タグをつけてまわりたい…

その和生さんの俊寛だったんで余計引き込まれたかなー。僧侶なので刀づかいが下手な感じとかの細やかさ。ラスト、堪え切れない激情にかられた俊寛がよじのぼった岩山が、ぐーんとまわって正面向くシーンで波の絵の幕がうまくかからないアクシデントがありましたが、まあそこはご愛嬌で。2日目でしたし。大道具さんがんばれ。

2部は人気演目の曽根崎心中。私は実は初めて。なんせ人気作だし、私の推しの文字久太夫さん、唯一の切り場語り咲太夫さんの出演回なので楽しみにしてました。

文字久太夫さんがこういう清潔な2枚目キャラの主人公とヒロインによる男と女のしっとりしたやりとりをチャリ抜きでじっくり語られるのを聴くのは初めてで、それがまたよかったので生玉の段は超満足。

天満屋の段では、あの有名な縁の下にいる男が女の足をさすって心中の決意を伝えるシーンがあり、うわーこれはもうここのシーンのアイディア勝ちだよな…!って思った。女の白い足に頬ずりする男の仕草、周りの人には気づかれないようにそれに反応する女の表情。それを客席のお客さんだけは知ってる、という構造。切なくてエロティックでなんとも言えません。

そして「この世の名残、夜も名残…」で有名な道行のシーン、ここはぐっとお人形さんの演技が重要になってきます。お互いが離れないように帯で違いを結び合って心中に至るシーン、お人形オンリーの見せ場。玉男さん、勘十郎さんのお初徳兵衛は実にロマンティックでした。

咲太夫さんがちょっと調子悪そうだったのが残念。新春文楽の時はお元気そうですこぶる調子もよかったのになぁ。一人横綱状態なので、大変だと思うけれどとにかく健康で長く続けていただきたい…。でも今回は文字久太夫さんが贔屓というのを抜きにしてもかなりパーフェクトだったので二部全体としては満足でした。

玉男さん徳兵衛、勘十郎さんお初、というよはそれぞれ先代の玉男さん、簑助さんのゴールデンコンビを意識した配役だと思うんだけど、私は勘十郎さん徳兵衛、和生さんお初でみてみたいなぁーと思いました。玉男さんの演じる2枚目って、とことん2枚目で清いんですよね。

曽根崎心中そのもののストーリーが主人公には落ち度がなくて清い役柄なのでいいんですが、私は勘十郎さんが2枚目の町人を演じるときのさりげない色気が好きで。徳兵衛にそういう男の色気のスパイスをきかせて、そこに和生さんが遣う娘役をあてたら、きっと全然違う雰囲気になって面白いと思うんだー。

人気演目で上演機会は多いので、いつかこの「おれのかんがえたさいきょうのくみあわせ」でお初徳兵衛やって欲しい。曽根崎心中はかなり歌うとこが多いので、太夫さんは呂勢太夫さんみたいな正統派な感じがいいかも。

曽根崎心中は見たことない人が人形浄瑠璃ときくと思い浮かべるイメージそのままの作品だと思う。そういう意味ではやはり海外の人や初めて見る人にはテッパンの演目だなーと思った。角田光代版の曽根崎心中もいつか読んでみよう。

でもこうやって並べて観てみて、これまでに見た事がある女殺油地獄とかもあわせてランキングつけると、私的ナンバーワン近松は、やっぱり冥途の飛脚かなぁ、と思いました。

とりあえず浄瑠璃の冥途の飛脚は、忠兵衛が無思慮で短絡的なカッとなりやすいダメ男で、初めてみたときも「梅川、いいからこのバカ男とはさっさと別れるべし!」と思ったし、何度見ても本当に忠兵衛一人の無思慮と短気が全ての元凶。何度も引き返すチャンスがあったのに、坂を転がり落ちるように事態が悪化して心中しなきゃいけなくなる。しかもことがその取り返しのつかない段階に至っても、女のためにしたこと(僕のせいじゃないんだもん)的な謎の言い訳をする徹底したダメ男です。

でもそのキャラクター造形が逆に生々しくてすごく現代的な感じがするんですよね。曽根崎心中の徳兵衛は、言ってしまえば清すぎて、現代人としての感情移入が難しいんです。それに比べて、浅はかでカッとなってやってしまったことを自分で収集できなくなってしまうのに小賢しい嘘は次々思いついてしまう忠兵衛や、油地獄の与兵衛の身勝手で人の心がまったく通じないどこか壊れた人物像って、すごくリアルで、そのぶん現代的。だからこそ「この最低男!」と思いながらも忠兵衛や与兵衛からは目が離せないんだろうなぁ。

ほぼ感想書いちゃいましたが、そんなわけでお気に入り演目の冥途の飛脚だったので、基本的には満足。病欠の松香太夫さんの代役は咲甫太夫さん。ここんとこ代役ってぇと咲甫太夫さんばっかり。いいけど、こんな出ずっぱりで大丈夫なのかしら…でも潰してるとこ聞いたことないし、尋常じゃないほど喉が強い人なんだなと思う。

呂勢太夫さんと千歳太夫さんがいずれも若干調子悪かったような…呂勢太夫さんはもとから大声系じゃないけど清治さんの三味線に少し負けてた。千歳太夫さんも聞きづらいとこがあった…2日目だからかなぁ。

とにかく好きな演目なのに少ーし物足りなくて、この前みたときの冥途の飛脚、もんのすごくよかったんだよなぁ、と配役見直してみたら、引退した嶋太夫さんと三味線は錦糸さんだった模様。よかったわけだ。この頃はまだ見始めたばかりで太夫さんの名前もわかってなかったんだけど…

錦糸さんは最近は若手太夫さんとばっかり組んでおられる。ぶっちゃけ太夫さんの引退が相次いで指導層が薄くなってて、それをベテランの三味線さんがカバーしてる状態なんではないか、なんて考えてしまう。

文楽の良し悪しって実は人形よりも太夫で決まるものなのに、太夫さんの層が薄くなってるのが心配。私が文楽通い始めてから、太夫については減りこそすれ増えてない。これってアニメで声優さんがいなくなっちゃうようなものです。声優さんがいなくなったらアニメ成立しません。それと同じで、太夫さんいなくなったら文楽は成立しないんですよ…

英太夫さん、咲甫太夫さんと襲名が続きますが、誰もが納得する切場語りになるにはまだ時間が必要だろうな。と思うとほんとに正念場だよなぁ…と思う。

私は一番最初に住太夫さんという圧倒的人気と実力を誇るアイドル(おじいさんだけど)のを聴いてしまったので、あの感動をもう一度味わいたくて通い続けてるけど、なかなかあのトリップ感は味わえてない。生きてる間にもう一度、あれを感じさせてくれるのはどの太夫さんなのかなぁ。個人的には推しの文字久太夫さんに、それを経験させて欲しい…

3月に旅行の予定があるので4月の遠征はお預けかな。5月の国立で英太夫さんの呂太夫襲名公演に行くつもりです。やたら襲名乱発して歌舞伎みたい…とも思いましたが、それだけ太夫育成が急務という文楽協会の危機感もあるんだろうなぁ。とにかく襲名であればニュースにはなるので。

私、文楽はもっとグッズ頑張れと思ってて、とにかくカレンダーとかも写真がお人形さんばっかなんですよね。太夫のプロフィールつきブロマイドとかのグッズをもっと出せ!買うから!!と思ってるんですけど。人形だけじゃなく、もっと太夫さんにスポット当てて欲しい。声優ブームがあるんだから太夫さんブームもちゃんと作ろう、そして層を厚くしよう…!

眠くてよくわかんないテンションになりましたが、こんな感じです。また次の公演楽しみに貯金します。

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