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映画「赤色彗星倶楽部」観てきた。

東京での上映は、今回のテアトル新宿がラストだそうなので急いで書いている。ポレポレ東中野で予告編を観て気になってたのに、上映期間を間違えてて観られなかった赤色彗星倶楽部、やっと観られた。最近PFFとかチェックしてないので知らなかったんだけど、2017年のPFFで日活賞、和歌山県田辺市で開催の田辺・弁慶映画祭でグランプリを受賞した作品。

監督は1992年生まれの武井佑吏監督。マジか。ついに頑張れば産める年齢の映画監督が世に出てくるのか…グザヴィエ・ドランの1989年生まれでも十分衝撃的だったのに(自分も四十路なのでいい加減こういうことに慣れなければ…と思いつつ、いちいち驚いてしまう)。

というわけで、監督さんはまだこの世に生まれていない1985年に公開された「台風クラブ」という相米慎二監督の映画がある。この赤色彗星倶楽部に興味を持ったのは、予告編の映像に台風クラブっぽさを感じて、懐かしく思ったからだ。

台風クラブの公開時、私は中学生で、映画の登場人物たちと同じ年頃だった。あの不安定で瑞々しく刹那的な時間を生きながら、同じ年頃の登場人物たちをスクリーンで見た。そこから四半世紀以上経って、今度は映画の登場人物たちの親の年齢で、新しく赤色彗星倶楽部という青春映画と出会えたことを、とても幸運だなぁと思う。

登場人物たちと同じ年頃の若い人にも見てほしいし、かつて若かった人も観て損はない、と思える映画だった。学生時代の気持ちを思い出してノスタルジックな気分に浸れるから、ということじゃなく、へんな言い方だけど、この作品が(メタで)醸す空気感そのものが、ちょっと懐かしい感じなのだ。ざらついた画面の雰囲気とかだけじゃなく、実に思い切りのよいぶった切り感が、80年代や90年代に、今はもうないミニシアターとか下北あたりの小劇場に通っていた私の琴線に触れるのだ。

最近では、演劇も映画もこんな風に潔い編集演出の作品は少ない。小劇場演劇なんか特に「ここまで懇切丁寧に説明してやらなきゃダメなもんなの…?」とガックリするパターンが多くて、すっかり足が遠のいてしまっている。疾走感も気持ちの高まりも台無しにする説明的なシーケンスに「頼むから立ち止まらんでくれ!」「客を信頼して置き去りにしろ、じゃなきゃ怠けた客は自力で走らんだろうが!」と何回苛立ったことか。

その点、この作品は(監督にとっては長編デビュー作だそうなのだが)、切るべきところを切る、ということができている映画なのだ。語らないことを怖れてない、というか。

映画にとっての本質的な言葉は台詞じゃなくて映像そのものだ、と私は思うのだけど、こういう風にパズルのピースを欠けたまま残すという決断に耐えられる監督や演出家がめっきり減ってしまったので、このぶった切り感は私にとっては懐かしく、尊かった。共感病のご時世に真っ直ぐに立ち向かうこの勇気を、この先も大切にして欲しいと思う。見た人にしかわかんない話ですみませんが、あのシーン、あの台詞からエンディングに突入した瞬間に、うっ今拍手したい、と思った。

欲を言えば、編集はもう少し粘ってほしいかも。どの長さでカットするかとか、映像の言葉で語らせる上ではすごく大事だと思うんだけど、あと一歩粘り足りない繋ぎもあったかな…と思う。もちろん自主制作なので予算の問題もあるだろうし、ここぞというシーンは流れもいいんだけど(ちなみに繋ぎ方やカットのタイミングのセンスは、初期のたけしとか西川美和監督あたりがものすごく長けてると思う…というか好き)。

自主制作系の映画やミニシアター系の邦画に慣れていない人は独特の台詞回しに多少戸惑うかも知れないが、それでも小っ恥ずかしくなるギリギリ手前あたりに抑制されているところが若いのに達者だなと思う。昨今では映画や演劇よりもアニメのほうがわりと観念的な台詞を平気で使ったりしてるので、案外若いお客さんのほうが違和感なく観てるのかも。去年だったか、大昔の岩井俊二監督のドラマがアニメ化されて話題になったが、この映画もそういう作品になるかも知れない。

印象的な台詞が多いのでネタバラシせずに書こうとするとなかなか不自由なのだが、とにかくこの作品、ファンタジーといえばファンタジーだけど、基本は地方都市の高校生たちのリアルな青春群像で、私みたいにこういう季節のその先を知っている年齢で見るか、ただ中で見るかで感慨も自ずと異なるだろうし、若い役者さんたちの2度と帰ってこない季節がこうして映像に残ることも、また貴重だよねぇ、とおばちゃん目線では思う。

ヒロインのハナちゃん(手島実優ちゃん)は撮影当時高校生だったそうで、舞台挨拶にもいらしてて、めちゃくちゃ可愛かったですが、たまに若い頃の洞口依子に似てる瞬間があって、そこがまた我々世代にはツボだと思うの…

これがハナちゃん。ラストとエンディングの彼女の声を聴き、姿を見るためだけにでも、もう一度観たいと思ったよ。なんとか行ける日作りたい。

ちなみにこっちが「ドレミファ娘」の頃の洞口依子さん。やっぱ可愛いな…

ハナちゃんはいわゆる可愛いモテ系女子で、(物語の必然性からも)そのかわいらしさ、無邪気さをひたすら強調して描かれてるんだけど、天文部の紅一点であるカヨちゃん(ユミコテラダンスちゃん←不思議な芸名だ…)に対するフレネミー的な振る舞いや、ふとした瞬間の上目遣いにゾクッとさせられるとこがあって、そこがまたいいの。

カヨちゃんもまた、いじらしく可愛い。ひとりカウンターでラーメンをすする姿にグッとくる。登場人物たちと年齢の近い女性のお客さんは、彼女に感情移入する人が多いんじゃないかなと思う。どんなに思いが強くても届かない恋というものを、誰でも一度ぐらいは経験するものだろうから。

あと、私は天文部員のヨシヤスくんを演じた櫻井保幸くんのファンになりました。彼はいいぞ。ヨシヤスという役柄もいいし、彼の演技もすごくいい。天文部の部室のシーンや授業中のシーンに、高校生活のリアリティを与えているのは、ほぼ櫻井くんの力なのではないか。わりといろんな作品に出てるようなので、チェックしてみたい。

無論、主人公のジュンを演じた羽馬千弘くんの思春期らしい素直さと屈折の入り混じった表現(母親と二人でのシーンでの受け応えのトーンとかがリアル)、声のない慟哭、いろいろとマズイしやることもヤバめなのだが、どこか憎めないハタケを演じた平山てるきくんの絶妙な恥ずかしさ(青春とは黒歴史のカタマリだ)もとてもバランスがよく、自主制作映画としては出色の出来ばえだと思うのです。

一夜明けて、いろんなシーンを思い出しては改めていろんなことを考えてるんだけど、私の正解はここには書かずにおく。強いて言えばこの映画は、言葉にしてもしなくても、私の正解にあなたは決して触れられない、ということを描いた作品だし、私がこの映画を評価しているのもまさにその点だから。

最初に書いたけど、東京での上映は、これが最後の機会らしいので、行ける方は是非。たぶんまだ地方もまわるとは思うので、地方の方も機会があれば是非。そうだ、あとエンディングの曲がすごくいいので音源欲しい。ステレオプールというバンドの曲なんだけど、デジタル配信とかしてくれないかな…

#映画 #赤色彗星倶楽部 #201805 #武井佑吏 #コンテンツ会議



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