読書の真価を問う "ショーペンハウアー「読書について」 2/3"
正しい読書について教えられてきたか
昨日まで、ショーペンハウアーの『読書について』というシンプルなタイトルながらも深い洞察が得られる本を紹介してきました。今日はショーペンハウアーが指摘する「読書をすると自分の頭で考えられなくなる」という非常に鋭い指摘について、一緒に考察していきましょう。
「自分の頭で考える」ことの重要性と読書の限界
ショーペンハウアーは『読書について』において、思索と読書を鋭く対比させています。彼にとって、思索は能動的で創造的な精神活動であるのに対し、読書は受動的で模倣的な活動でした。この対比は、知識獲得の本質に関する彼の深い洞察を反映しています。ショーペンハウアーは次のように述べています。
この比喩的な表現は、読書の受動性と、それによって失われる直接的経験の価値を鮮やかに描き出しています。ショーペンハウアーは、読書が思考の代替となることを強く警戒しました。彼にとって、真の知識は自らの経験と思索を通じてのみ獲得できるものだったのです。
哲学者の鷲田清一は、この点について次のように解説しています。
さらに、ショーペンハウアーは思索と読書の質的な違いについても言及しています。
この比喩は、自己思考がより強力で持続的な光(知識)をもたらすのに対し、読書から得られる知識はより弱く一時的なものであることを示唆しています。ショーペンハウアーは、真の知識と理解は、自らの思索を通じてのみ得られると考えたのです。
自己思考の価値と方法
ショーペンハウアーは、自己思考の価値を強調しつつ、その具体的な方法についても言及しています。彼は、日常的な観察や経験を重視し、それらを深く考察することの重要性を説きました。
具体的には、以下のような自己思考の方法を提案しています。
日々の出来事や感覚を注意深く観察する
観察したことについて、深く考え、分析する
異なる視点から物事を見る習慣を身につける
自分の考えを言語化し、整理する
ショーペンハウアーは『意志と表象としての世界』で次のように述べています。
この言葉は、自己思考のプロセスを端的に表現しています。ショーペンハウアーにとって、思考とは単なる情報の受容ではなく、能動的な概念操作のプロセスだったのです。
哲学者の西田幾多郎は、ショーペンハウアーの自己思考の方法について次のように評価しています。
これらの方法は、単に情報を受け取るだけでなく、能動的に世界を理解しようとする姿勢を育てるものです。ショーペンハウアーは、この能動的な思考のプロセスこそが、真の知識と洞察をもたらすと考えたのです。読書ができない時であっても、この観察から始まる能動的な思考のプロセスは誰もができることではないでしょうか。
読書の限界と危険性
読書の危険性とは何とも強いワーディングですが、ショーペンハウアーは、読書には以下のような限界と危険性があると指摘しています。
他人の思考に依存し、自己思考力が衰える
表面的な知識の蓄積に終始する
現実世界との直接的な接触が減少する
独創的な思考や創造性が阻害される
特に、多読の危険性について彼は警告を発しています。
この生理学的な比喩は、過度の読書が精神に及ぼす悪影響を鮮明に描き出しています。ショーペンハウアーは、知識の量よりも質を重視し、深い思考と理解の重要性を強調したのです。
哲学者の澤井繁男は、ショーペンハウアーの読書批判について次のように述べています。
この指摘は、現代の情報過多社会においてより一層重要性を増しているといえるでしょう。インターネットやSNSの発達により、私たちは膨大な量の情報に容易にアクセスできるようになりましたが、同時に表面的な知識の蓄積に終始する危険性も高まっていることは、これまでの本の解説でも何度も述べてきた通りです。
批判的読書の重要性
しかし、ショーペンハウアーは読書そのものを否定しているわけではありません。むしろ、彼は批判的読書の重要性を強調しています。批判的読書とは、著者の主張を単に受け入れるのではなく、常に疑問を持ち、自分の経験や思考と照らし合わせながら読む姿勢を指します。ショーペンハウアーは次のように述べています。
この言葉は、批判的読書の本質を端的に表現しています。ショーペンハウアーにとって、読書は単なる情報の受容ではなく、能動的な意味の構築プロセスだったのです。
哲学者の野家啓一は、ショーペンハウアーの批判的読書の概念について次のように述べています。
批判的読書の具体的な方法として、ショーペンハウアーは以下のようなアプローチを提案しています。
著者の主張の根拠を常に問う
自分の経験や知識と照らし合わせる
異なる著者の見解を比較検討する
読んだ内容について深く考察し、自分の意見を形成する
このような批判的読書は、単なる知識の蓄積ではなく、思考力の向上と独自の洞察の獲得につながるとショーペンハウアーは考えました。
文学研究者のハロルド・ブルームは、ショーペンハウアーの批判的読書の概念を発展させ、「強い読み」(原文:strong reading)という概念を提唱しています。
ブルームの「強い読み」の概念は、ショーペンハウアーの批判的読書の思想を現代的に発展させたものと言えるでしょう。
読書の真価を問う
以上の考察から、ショーペンハウアーの「自分の頭で考える」という主張は、単なる読書批判ではなく、知識獲得と思考のあり方に関する深い洞察を含んでいることが分かります。彼の思想は、現代の情報社会においても重要な示唆を与えてくれるものといえるでしょう。
ショーペンハウアーの読書論は、知識の本質と獲得方法に関する根本的な問い直しを含んでいます。彼は、真の知識が単なる情報の蓄積ではなく、個人の直接的な経験と深い思索を通じて得られるものであることを強調しました。同時に、適切な方法で行われる読書の価値も認め、批判的読書の重要性を説いています。
この思想は、現代の情報過多社会において、私たちがどのように知識を獲得し、理解を深めていくべきかについて、重要な示唆を与えてくれるものです。ショーペンハウアーの読書論は、単なる読書の技法ではなく、知識と思考の本質に関する深遠な哲学的考察なのです。
明日は、良書と悪書の区別や古典の重要性、そして具体的な読書方法を最後に紹介しながら、締めくくりとしていきたいと思います。
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