書評 「Re:ゼロから始める異世界生活」

※ネタバレがあります。ご注意ください。
 皆さんは、「ゲームみたいに、人生をやり直したい」と思ったことはありませんか?
 僕は今までに何度も思ったことがあります。もう一度やり直せるのならやり直してもっと人生をよくしたかったと、まだ若いにも関わらず思っているのも事実であります。

 今回紹介するのは、『Re:ゼロから始める異世界生活』という作品です。異世界転生ものとして非常に有名な作品なので、知っている方も多いと思います。特に今でもキャラクター人気が高い作品です。

 最新で28巻あるこの作品の第1巻目は、主人公の「スバル」が初めて異世界転生した時の話です。彼は不登校の高校生で、妙に弁舌がすぐれる人物。たまたまコンビニに行って商品を買って店を出ようとしたら、いつの間にか欧州中世感溢れる異世界に来てしまいます。

 彼は盗賊に襲われますが、謎の「サテラ」と名乗るハーフエルフの少女と出会い、命を助けてもらいます。そんなスバルは彼女にぞっこんになり、彼女がなくし物を探す手伝いをします。しかし、残念ながら謎の悪女に命を狙われて二人共々命を落とします。

 普通ならそこで物語は終わるはずなのですが、再び目を覚ますと、異世界に転生した瞬間に戻っていることがわかります。

 いわゆる「死に戻り」という能力を持ってしまったスバル。しかし彼はそれを駆使して、自分が死なないルートを模索しつつ、サテラを脅威から救おうとします。しかし彼女は彼を覚えておらず、むしろその名前に嫌悪感をしめしてしまいます。そう、サテラは彼女の偽名だったのです。そのうえ彼女は、時間が戻ったかのように、スバルを覚えていませんでした。

 やがてスバルは自分が生き残り、彼女を救い出すことに成功します。命を救われた彼女は初めて「エミリア」という本名を明かしました。実はエミリアは自分の名前が周りから忌み嫌われているという大きなコンプレックスを抱えていて、偽名を名乗っていたのです。こう考えてみると、本名を名乗ったことから彼女とスバルとの信頼が生まれたと言えるでしょう。ここのクライマックスが僕としては面白いと思います。名前を明かすということは、彼女がこの物語での真のヒロインになることを意味していると思います。

 世界観も然り、キャラクターもしかり、しっかりとした作品であると言えるでしょう。しかし、その分長くなりそう、と思う人がいるかもしれませんが、このシリーズはまとまりがいくつかあるので、その分読みやすくはなっているのかと思います。文体が固めではあるので、少し長い時間が必要とは思いますが……。

 ここまで読んでいただいてわかる通り、これはループものの作品です。ラノベの代表作『涼宮ハルヒの憂鬱』の「エンドレスエイト」なども事例の一つですが、なぜループものが人気なのでしょうか? 

 ここからは僕の考察なのですが、これは読者の皆さんが、過去をやり直せたら、と思ったことがあるからではないでしょうか? その感情は、この作品よりも昔からあるものです。それは『タイムマシン』や、『ドラえもん』など、さまざまな作品で出てきているテーマなので、事実でしょう。

 スバルのように、過去に戻れる能力を自分のことに使うことなく、ヒロインのために使おうとしているところが、本シリーズの面白いところだと思います。一目惚れもそうだと思いますが、それは現代社会に辟易していた自分の救済だとも考えることができるでしょう。

 このシリーズ全体の魅力は、主人公がやりすぎるくらいに頭を使って、ヒロインを救い出す、ある意味男気溢れる瞬間なのかもしれません。

 また、それゆえに、展開が見えないところも面白いところなのかと思います。何回も繰り返す地獄のループを、どのように切り抜けるのか。何度も死ぬような痛みを感じる主人公に、救いの手はあるのか、というところでしょう。それゆえに主人公に共感し、応援したいという気持ちを芽生えさせる作品だといえます。

 2014年にアニメ化されたこともあり、アニメ版の方が有名ではないかと思いますが、この小説版においてもストーリーがしっかりと表現されていると思います。まだ読んでない皆様も、これを機に本を手に取り、スバルを応援してみるのはいかがでしょうか? 


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