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2020.3 心を動かすことができる力。

息子が6年間通った小学校の卒業式が行われた。

どこまでも広がる青い空、
淡い雲のように咲いた桜、
あたたかな春の日差しの中。


思い出す。
9年前の春。地震の日。
東京の家で息子と私は二人だった。
いくつか物が落ちてきたけれど、それによって怪我をすることはなく、停電や断水にもならずに済んだ。
テレビをつけた。あまりのことに言葉を失い、私はテレビをしばらく消すことができなかった。

けれどその時、私よりも何倍ものショックを受けたのは、当時3歳だった息子の方だったのだ。実際の地震と、そのテレビの映像に。
気がついたら、息子の顔から感情が消えていた。喜怒哀楽がない初めてみる表情。

慌てておもちゃを出して一緒に遊んでも、おやつやお夕飯を食べても、お風呂に入っても、感情が顔にうかばなかった。

「どうしょう」と思った。
「なんてことをしてしまったのだろう」と思った。
地震を体験したことはどうしょうもできないけれど、その直後に、私は息子をもっともっと安心させてあげることができたはずなのだ。

「どうしょう、どうしょう」
そう思いながらも、いつものように眠りにつく前の布団の中で、二人で絵本をめくる。
すると、どうだろう。
ページをめくるごとに息子の目に光が戻り、物語が進むたびに表情が柔らかくなる。
そして、絵本を読みおえた時には、息子は笑顔になっていたのだった。

物語の力だと思った。

もっと言うならば、
心を、
感情を、
動かすことができる存在の力。
音楽や劇や絵や立体物やダンスや映像や写真や、
花や木々や空や星や、
お気に入りのお店や公園も…他にもたくさんある。
言葉にすることなどできないくらい、数多くのものが持つ力。
うつくしく、あたたかく、やさしく、おもしろく、かなしく、自分の視点や世界を変えてくれる。安心を与えてくれる、自分以外の力。

大事なんだ、と思った。
こんな小さな命にも大事なのだ。


卒業式の日、ずっと息子は笑顔だった。級友も先生もみんな笑顔だった。

9年前とは違い、息子たちは今の大変な状況もよく分かっている。そのために学校は休校となり、卒業式も例年とは違う。我慢しなければならないこともたくさんある。

その上で、笑顔、なのだ。
自分たちで笑顔を選んでいる。

冷蔵庫からヤクルトを出したら、マジックペンで顔が描かれていた。息子だ。

笑顔にも、ヤクルトにも、私は心を動かされる。
もう私が絵本を読む必要はなく、自分で心が動かされる存在と出会い、考えて、自分でも動くことができるようになったのだ。

成長したのだね。
本当に。

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飲む前に、パチリ。大切にしたいことを考えながら、日々過ごしてゆきたいな。