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「憲法における人権」から「同性婚」を考える

―初めに―

2001年に世界で初めて同性婚がオランダで認められたことから、同性婚制度の歴史は浅いことが分かります。

現在では欧米を中心として同性婚が認められつつありますが、反対意見も少なからず存在します。

私は、日本社会は今後、同性婚を認めるべきであるという意見を持ちます。本記事では、同性婚を巡る世界の情勢を踏まえつつ、日本国憲法に含まれる「人権」の観点から私の見解の根拠と内容を論じてみようと思います。

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1.世界の情勢

 まず、「同性婚」という言葉が、どのような意味を含んでいるかを考察します。

谷口(2016)は、国レベルの『制度としての同性婚』は三つの分類ができると主張します(201-203頁)。

第一に、これまで異性どうしのカップルに認められてきた法的権利を、同性どうしのカップルにも適用する「同性どうしの事実婚の保護」である。
第二に、同性どうしのカップルとは別の形で法律をつくる「同性婚の法整備」である。
最後に、婚姻を「性別にかかわらず二人の間に結ばれる法的な関係性」と定義し、同性どうしの結婚も異性と同様に認める「平等な婚姻の実現」である。 

 次に具体的な世界の情勢を見ていきましょう。

図1からは、ヨーロッパには同性婚の制度を持つ国(約30か国)が多く存在する一方で、同性婚に対して刑罰を加える国(約80か国)や日本のように同性婚に関する法律が存在しない国もあることが分かります。つまり、同性婚への対応は国により多様であると言えます。(図1:レズビアン・ゲイ・バイセクシャルに関連する世界の法律 2015/5

https://ilga.org/downloads/ILGA_WorldMap_2015_JAPANESE.pdf  参照)
まず、同性婚の制度を持つヨーロッパ諸国では、どのような過程を通して同性婚が認められたのでしょうか。

①「ソドミー法の廃止」→②「性的指向に基づく差別の禁止」→③「同性同士の関係性の法的承認

 谷口(2016)は、同性婚制度の導入には三つの段階を経験したと主張します(203-205頁)。

第一に「ソドミー法の廃止」という段階です。ソドミー法とは、「同性どうしの性的な関係性に対して刑罰を科す法律の総称」のことです。

第二に、各人の性的指向は、人種、皮膚の色、国籍、性別などと同様に、人の属性の一つであると捉えられるようになり、性的指向に基づく差別が禁止される段階に移行します。

最後に、地方自治体による同性婚の認可や、婚姻届の不受理を巡る裁判や権利保障要求運動などの過程を通じて、国規模で同性婚制度の検討・承認に向かいます。
 その一方で、宗教に基づく考え方や、歴史・伝統に基づく価値観・家族像、倫理的な問題などから「同性婚の法整備」のように、結婚とは異なる制度として導入する国もあります(206頁)。

2.日本の情勢

 先述した通り、日本では同性婚を認める法律は存在しませんが、同性婚を禁止する法律も存在しません。

また、宗教的なイデオロギーが稀薄な日本社会は、同性婚に対して寛容な社会であるとも言えます。

では、なぜ日本では法的に同性婚が認められないのでしょうか。その理由は二つ考えられます。
 第一に、国家単位での法律制定へのきっかけがほとんどないことが挙げられます。西欧諸国で同性婚が認められる過程では「ソドミー法」の廃止を目的に権利獲得運動が展開されましたが、日本ではそのような法律が存在しないため、その第一歩が踏み出せていない状態です。
 第二に、異性愛を当然とする社会的風潮・制度があります。異性愛が当たり前とされるため、同性愛は否定的な感情や価値観(同性愛嫌悪)で考えられ、同性間の婚姻は社会的制度から逸脱していると見なされます。


3.憲法上の人権

 冒頭に述べた通り、今後日本社会は、同性婚を法的に認めるべきであると考えます。その理由は、同性婚を法的に認めないことは、日本国憲法で保障される「人権」と同性愛者の「尊厳」を侵害することを意味するからです。以下では、人権のうち「個人の尊重(幸福追求権)」、「人格権」、「平等権(法の下の平等・両性の平等)」の三つの観点から見解の内容を論じます。


3-1.個人の尊重

 憲法第13条には、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利は、最大限の尊重を必要とする」と定められています。伝統的に結婚は、異性の間でなされるものと暗黙のうちに了解されていましたが、この「個人の尊重」の観点から考える際、同性愛者の法的な婚姻制度がないと、同性愛者がアイデンティティを持ち、自由・幸福を追求する権利が侵害されてしまいます。


3-2.人格権

 人格権は3-1で述べた個人の尊重と幸福追求権の考え方が根拠となるプライバシー・名誉に関する権利です(原島,2016,93-94頁)(2)。この権利は、誰に対しても主張できる絶対権であることが特徴です。

つまり、ある人が同性愛者に社会的排除や攻撃を行った際は、賠償を請求できると同時に、本人の尊厳(人格権)を侵害したと言えます。

このことは、同性愛者が、社会のあらゆる人に人格権を侵害される可能性があることを意味します。


3-3.平等権

 第14条には「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とあります。

西欧諸国のように、性的指向を人の属性と捉えるならば、日本で同性愛者であることから婚姻(社会的関係)において、差別を受けることは法の下の平等に反します。

また、第24条1項には「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立する」とある。つまり、結婚には当事者間の合意が前提とされ、第三者はその選択に介入できません。さらに、2項には「法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」とあります。

しかし、現状は同性婚を認める法律は制定されていないため、合意が優先されず、異性婚と同性婚の間には様々な「不平等」が存在します。

以上のような人権は、憲法上保証されるべき重要な権利です。しかし、同性婚が認められていないことが、これほどの同性愛者の人権・尊厳侵害につながることが分かります。

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―終わりに―

 異性愛主義の社会的風潮の中で同性愛者は、同性婚の法的認可に向けた行動を起こすことは困難でした。また、法律を制定する必要はないと主張する人もいますが、同性婚も異性婚と同様に法的に認められないと、同性愛が異性愛よりも劣るものとされる可能性があります。

したがって、同性婚の法的認可が、同性カップルの社会的地位向上に貢献し、同性婚と異性婚の区別がなくなる社会を我々は目指さなければならないのです。

引用・参考文献

・同性婚人権救済弁護団編『同性婚 だれもが自由に結婚する権利』明石書店、2016年
・(1)谷口洋幸PART5「世界に広がる同性婚」199-256頁。
・(2)原島有史PART2「3なぜ、差別や偏見が生まれるのだろう?」69-94頁。
・イレーヌ・テリー著 石田久仁子,井上たか子訳『フランスの同性婚と親子関係—ジェンダー平等と結婚・家族の変容』明石書店、2019年、201-204頁。
・南和行『同性婚—私たち弁護士夫です』祥伝社、2015年、154-176頁。
・東京新聞『同性婚訴訟1年』2020年3月2日、7頁。
・大畑泰次郎「結婚の自由をすべての人に—同性婚訴訟にふれて—」『人権と部落差別問題』2020年7月号、14-21頁。
・赤旗『憲法24条結婚における「両性の合意」とは』2020年5月4日、6頁。

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