見出し画像

「多文化国家オーストラリア」のワクチンと移民とロックダウン

オーストラリアは、新型コロナのワクチン展開が世界でも比較的遅れているといわれている。それまで、感染数を低く抑えることに成功している国の一つだったが、それもあってワクチン接種が進まず、結果的に現在までに感染が再拡大。6月末から9月末までのロックダウンが進行中だ。

多文化国家オーストラリアのワクチンをめぐる状況

オーストラリアの新型コロナワクチン接種は、

①一部の地元GP(診療所)

②大型接種会場

のいずれかの場所で受けることができる。

6月末のロックダウン開始の時点で、オーストラリアのワクチン接種計画の進行が遅れていた。一つには、予定通りのワクチンの量が生産国から入ってきていなかったこともあるが、ワクチンに反対する人や躊躇している人が少なからずいたことや、複数の大型接種会場の設置がなかなか調わなかったことも、遅れの一因だったようだ。全てが未知のことだったのだから、仕方ないかもしれない。

多言語への対応に遅れ

今回のワクチンについて、公的機関から多言語での情報提供が追いつかなかったことも、接種展開の遅延に影響したといわれている。移民や、移民を系譜に持つ人が少なくない多文化国家のオーストラリアでは、十分な英語力がないまま暮らしている人も珍しくない。家族や親族、出身地を同じくする人たちのコミュニティー内では、買い物に必要な程度の英語さえできれば、案外生活ができてしまう。しかし、初めてのパンデミック、初めてのワクチンとなると話は別だ。

通常、オーストラリアでは政府関係の公的サービス情報サイトには多言語のページが用意され、電話や窓口での手続きや問い合わせに際してもリクエストすれば無料で通訳サービスを利用できる。

とはいえ、ワクチン接種可能な年齢層やワクチンの種類、新しく設立された接種会場、ロックダウンの規則の変更など、毎日更新される新型コロナ情報の全てが多言語で同時に提供されているわけではない。リアルタイムの情報は英語で、しかも医療関連の、正確な理解を要する内容で、情報量も膨大だ。その全てに完璧に着いていくのは、英語ネイティブとて簡単ではないだろう。

シドニーを有するNSW州では、移民が多く暮らすエリアで爆発的に感染が拡がっていることと、多言語での情報提供の遅れには、強い相関関係があると見る向きがある。要は、適切な形でのコミュニケーションの不足がワクチン展開の遅延につながったということだ。

また、出身国によっては、大家族で一つ屋根の下に暮らす、親族が近くに住み頻繁に行き来するといった習慣を持つ人々もいる。幸い、買い物ではキャッシュレスがもともと主流の国だが、人との交流ではキスやハグ、握手などの身体接触が多い文化もまた主流だ。個人的な意見だが、新型コロナウイルスはこうした生活習慣や文化、言語といった、いわば「人間らしさ」を辿って感染を拡げているように思えてならない。

ロックダウンとデルタ株がワクチン接種を後押し

ワクチン接種を担う診療所の医療関係者から聞いた話では、やはり接種開始当初は予約を埋めるのに苦労するような状況だったのが、ロックダウンが始まったのと時期を同じくして、問い合わせの電話が鳴り続けるようになったそうだ。デルタ株の脅威と長引くロックダウンは、やはりシドニーの人々のワクチンへの関心を後押しし、事実、接種率はぐんぐん上がっている。

シドニーを州都とするニューサウスウェールズ州政府が、「ワクチン接種率が上がれば自由が増える」といった方針を打ち出し、州首相が連日の記者会見でアピールしていたことも効果につながっているのかもしれない。

個人的には、ワクチン接種率が上がっても、感染拡大中にロックダウンの条件緩和をすることが長期的な目線で正しいこととは思えない。州政府の方針からは、現政権が支持率を維持し、政権を守るために必死なのが伝わってくる。それくらい、ロックダウンへの不満は強いのだ。

僕個人は、誰一人として生活苦に陥らないだけの補償を行いながらウイルスに徹底的に対処することで、その後の幸せに確実に近づけるなら、ロックダウンや多少の不便が長引くことは許容する、という考えだが、それよりもビジネスや外出の自由を「今」求める人は決して少なくないらしい。

ワクチンとセットでの規制緩和を推し進めるオーストラリアは、今後も登場するであろう変異種や、効果が永続しないワクチンと、どう向き合っていくのだろう。オーストラリアにかぎったことではないが、まだ答えのない道行きは暫く続きそうだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?